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いっしょに寝るのは断った
「ねぇ、姉さんはどうしたの?」
問いかけた相手は本人でなく、目の前の相手。
今日は午後からお休みの2人はいっしょの馬車で帰宅した。
珍しいなと思いつつ、お出迎えをしたら玄関先でイリーネ姉さんにいきなり抱きつかれた。
びっくりはしたけど、姉さんの奇行はたまにあるし、この時点ではあんまり気にしてなかった。
それから3人でのお昼ごはん。
やたらとハイテンションで話しかけ、「これ美味しいわよ。こっちも」とあーんとおかずをわけられた。
……僕のお皿にも同じのあるけど?と思いつつ、差し出されたので素直に口を開ければ次々続くあーんにお腹いっぱいでギブアップした。
午前中に読んでた本があと少しだったので読んじゃおうと思ったけど、ずっと話しかけてくるから内容がちっとも頭に入らず諦めて本を閉じた。
「今日のデザートはすっごいから。ベアードさんたちに“とにかくすっごいの”をお願いしておいたから」
自信満々のその言葉どおり、3時のお茶のデザートは豪華だった。
2種類のミニケーキに、アイスにフルーツがてんこ盛りのデザートプレート。
抽象的な姉さんの“とにかくすっごいの”の要望に応えてくれたそれに舌鼓をうつ。
すごくおいしいけどちょっと多くて、フルーツはいくつか姉さんにあげた。
お茶をしながらたわいないおしゃべり。
ふと、「じいちゃん、いまどのへんかな」と呟いたとたんに姉さんが息をのんだ。
じわじわと涙目になり「クラレンスぅ~~」と抱きつかれました。
「ちょっ、姉さんどうしたのっ??」
「うわ~ん。クラレンスはわたしの可愛い弟なんだから!ずっとここにいるのっ」
「え?え?意味がわからないんだけど……?姉さんってば」
号泣しだした姉さんに声をかけるも返ってくるのはよくわからない答えと泣き声ばかり。
だから質問の相手を変えた。
「ねぇ、姉さんはどうしたの?」
泣き出した妹に驚く様子もなく、困ったように見てるエドワード兄さんに。
席を立った兄さんはこっち側のソファ、姉さんの隣に腰かけた。
泣きじゃくる姉さんを宥めるように頭をなで、その肩を引き寄せる。
「落ち着け、イリーネ。クラレンスが驚いているだろう」
「だっだってぇ兄さん……」
「ほら、顔をふいて」
兄さんが差し出したハンカチで顔をふき、ついでにチーンと鼻をかむ姉さん。
……よそではそれ、やめた方がいいよ?
そう思ったがいまは口にするのをやめた。
兄さんも同じことを思ったみたいだが、泣いてる姉さんにいまは口を閉ざした。
微妙な目でハンカチを見てたけど。
嗚咽が収まってきたところで、姉さんの頭を撫でていた手が僕にも伸びた。
くしゃりと柔らかく頭をなでられる。
父さんともじいちゃんとも違う優しい力加減。
「お爺様が帰ってしまわれて寂しいか?」
突然の問いにちょっとだけ目を見開き、うんと小さく頷く。
困ったように目を細めたエドワード兄さんは「そうか」って言いながらまた僕の頭をくしゃりと撫でた。
僕と同じ色の瞳が覗きこむように僕を見る。
「お爺様のところに帰りたいと思ってるか?」
「え?」
「兄さんっっ!!」
呆然とした僕の声に、姉さんの悲鳴染みた声が被った。
「イリーネは……私たちはそれが心配で仕方なかったんだよ」
姉さんが、と言いかけ……私たちと言い直した兄さんの言葉に思わずぱちくりとまたたいた。
まったく予想外の言葉だったから。
じいちゃんが居なくなって寂しいとは思ってた。
だけどじいちゃんとこに帰りたいって思ってたわけじゃないし、そんなことを心配されてたのが意外だった。
ぎゅっと再び姉さんに抱きしめられる。
「だめ。やだっ」
こどもみたな言葉でだめと繰り返す姉さん。
思い返せば、父さんとヘンリー兄さんも昨日から様子が変だった。
父さんはやたらとそわそわしてときおりなにかを言いたそうにしては口をつぐんでたし、兄さんもやたらと構ってきた。
ふにゃりと口元がゆるむ。
理由がわかり、なんだかとってもくすぐったい気分だ。
「イリーネ姉さん、別に僕あっちに帰りたいって思ってないよ?」
トントンと腕を叩いて言えば、まだ涙に潤んだ瞳で「本当?」と確認される。
「うん。じいちゃんやあっちのみんなと会いたいけど、家族やシルクたちに会えなくなるのもさびしい」
「わたしもやだ」
「そうだな。私も可愛い弟と会えなくなるのは嫌だな」
泣き止んでくれた姉さんだけど、その日はずっと引っ付き虫だった。
感想
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