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四
しおりを挟むあれは確か八歳の春。
麗らかな春の日差しの中、私は剣を手に仮想敵を華麗に倒し、跳躍からの空中回転の後、見事な着地を決めながら剣を仕舞ってふっとニヒルに微笑むべく空を舞った。
……が。
まさかの着地点の小石に躓き、頭からの大転倒。
一切の記憶を失った。
記憶喪失になった私はそれまでの人格さえ失い、自分が誰かもわからない不安を抱えて酷く気弱で臆病な少女へと様変わり。
そして翌年、皇女の立場に復帰するも性格はそのまま。
恨みを買い過ぎた前皇帝が刺されてその傷が元でお陀仏になり、現皇帝が後を継いでからは健気にそれを支える日々。
頭脳も優秀だった私は執務に励み、幼いながらに立派なワーカーホリックだった。
休日って何だっけ?って状態のブラック企業も真っ青な社畜っぷり。
給料?そんなモノはない。
立場上、贅を尽した食事もお付きの侍女も、高価な衣装や豪華な部屋もあったけれどそれだって何一つ自分で望んだことじゃない。
働いて、働いて、働いて。
そうして頑張る程に、皇帝も正妃も周りも優秀な私に何もかも任せて堕落するばかり。
あれだ、典型的な尽す女とダメ男みたいな関係だった。
何故もっと早くに見切りをつけなかった、かつての自分?!
んでもって、気弱で臆病だった割に律儀で真っすぐだった私は皇帝や正妃たちにもことあるごとに苦言を呈していたから疎ましがられたっていうね……。
正妃に至っては嫉妬も大きいかな?
何せ私美人だし。可愛いし。しかも優秀だし?
クソビッチはそんなところも気に喰わなかったらしく何かと私を目の敵にした。
唯一あのビッチが勝っていた所と言えばお色気ぐらいだけど、
私まだ15歳だし!!ピッチピチの少女だし!!
伸びしろはぐぐーんとある筈!!
よく胸には「夢と希望がつまってる」とかいうけどあの女のデカ乳より年齢の割に可愛らしい私のお胸の方がよっぽど夢と希望がつまってるから!!
これから大っきくなる夢と希望に満ち溢れてるから!!
まぁ、そんなこんなで疎ましがられた挙句、断罪された、と。
本気で追放する気なんてなかったんだろうけどね…。
大人しくさせるのに丁度いい、ぐらいの心づもりだったんだろうけど。
お生憎様!!
再び前世を思い出したお蔭で晴れて自由の身です。
ぴっ、ぴぴぴぴぴ。
タイマーが鳴ったのでパックをぺりっと引き剥がす。
つるつるのお肌に触れつつとどめの保湿。
“いつまでも あると思うな 艶とハリ”
そんな言葉が浮かんでくる自分はやっぱり前世はそれなりの年いってたんだろうなーと思いながらおざなりにリモコンを弄る。CMウザーとか思いつつ適当にチャンネルを切り替えてると。
“お取り寄せ絶品スィーツ特集!”
まじでっ?!!
ちょっ、急遽やること出来たから徒然話はまた今度っ!
私はお取り寄せ絶品スィーツチェックしなきゃだから!
応援ありがとうございます!
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