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十六
しおりを挟む※ in 迷宮
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「月日が経つのは早いものね」
足を組み、頬杖をついて物憂げにそう呟く。
カクテルグラスに水滴を爪の先で弾けば真っ赤なチェリーが揺れた。
「怖い、怖いわ」
睫毛を伏せ、口元にグラスを運ぶ。
唇がその縁につくかつかないかの位置で留めれば、波紋を描く赤い湖面に映る美女。
小さな吐息を唇から零し、代わりに液体を含む。
……と、いう訳で(?)本日は憂いを湛えたアンニュイな雰囲気でお送りしてます。
《最悪の迷宮》という名の楽園に越して早二年と少し。
愛らしい少女らしさを脱却しつつ危うい色気と大人っぽさを兼ね備えだしたファウスティーナです。
因みにカクテルグラスの中身はザクロ酢の炭酸割。
雰囲気、雰囲気。
そう、もう二年。
そして、まだ二年。
本来ならこんなアンニュイな雰囲気でなく狂気乱舞していても可笑しくはない。
何故なら本日 此処、《最悪の迷宮》のボスを討伐したから。
普通の冒険者なら大喜びだ。
勝利の雄たけびをあげ、名誉と討伐報酬を手にとっとと迷宮から脱出してギルドへ行ったのち飲み屋にでも直行して飲めや歌えやの大騒ぎだろう。
(※因みにボスを倒すと外部へ繋がる扉が出現。
来た階層を戻る必要はないよ!)
だが、それは普通の冒険者ならの話だ。
「だって、《最悪の迷宮》!
居心地良すぎるんだもん~~~!!!!!!!!」
そう、出たくない。
もっと此処に居たい。切実に。
っていうかさ、二年で攻略できると思ってなかったんだけど?!
だって私、得意の魔法使ってないし??
か弱い女の子が剣と己の身体のみで魔物に挑んでんのよ???
しかも冒険者活動なんてフィットネス代わりに日に数時間しかしてないんですけど?!!
本来の冒険者が必死こいて三年ぐらいかかるって言われてる迷宮なんでしょ?!
「……自分の才能が怖い」
くいっとカクテルグラスを傾けた。
さて、と。
アンニュイな気分に浸ってばかりもいられない。
これからどうするか?
1、こっから出る
2、ここに留まる
はいっ、がぜん2番ですね!!
1??
ない、ない、ない。
迷宮から出ちゃったら下手したらあいつらに捕まるし。
(※逃げるのはよゆーだけど。面倒事はノーセンキュー!!)
何より安易に「サントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザ」を出現させられない。
この家がなければ地球の食べ物のお取り寄せも出来なければゲームもネットも出来ません!!
マンガぐらいならこの家から持ちだせるかもだけど人に見つかったら怪しまれるし、続刊だって取り寄せられない。
無理。
ぜぇ~~~たい、無理。
大体、本当にアッと言う間だったんだから。
まだ全然ぐだぐだ、だらだらし足りませんっ!!!
と、なれば残された道は一つ。
「よっし、ボス部屋から逆行しよう!!!
来た道引き返しつつ全ルート綿密に探索して宝箱やアイテム全部見つけてやるんだから。んでもって地道にレベルアップして、入口付近に辿り着いたらもう一度ボス目指そう!!」
違う冒険者が迷宮入ったらボスとか宝箱復活してるって話だけど…。
同じ冒険者がボス部屋出てまたボス部屋入ったらどうなのかしら???
ちゃんとボス復活してる?
復活してるといいなっ!!
「再度入口からボス部屋目指す時は魔法だけじゃなくて剣も一切使わない!!!
武器も魔法もなしに己の肉体のみで迷宮完全制覇を目指してやろうじゃないっ!!!!」
戻って、もう一周したらまだ何年かここに居られるしね。
拳を高く掲げて意気込んだ。
目標と快適生活の延長が決まって元気一杯。
アンニュイな気分はたちどころに吹き飛んだ。
そうと決まれば。
「とりあえず今日は『初☆《最悪の迷宮》クリア!!』の祝勝会ね!!」
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