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十八

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その頃、迷宮の外では…
※(帝国)
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「俺達を殺す気かっ!?」

「あの子を返せ……っ!今すぐ私にあの子を返してっっ」

響き渡る怒声に、痛切な嘆き。


男達が手に武器を振りかざす。
痩せ、薄汚れた男達が手にするそれらは包丁や棒切れ、農具など身の回りにあるモノばかり。
こと切れた赤子を抱いて泣き崩れる若い女に、親を喪った子供たち。

貿易の盛んだった国からはそっぽを向かれ、国内の作物は不作続き。
国を守っていた結界はいつの間にか消え、国境沿いではならず者や獣の侵入が相次ぎ、流行り病まで国を襲った。
さらにはつい先日は支援を行ってくれていた近隣国の大使に正妃が非礼を働き怒らせたと聞く。

国からは何の支援もないどころか、度重なる増税。
食べ物も医療品もなく、民は身も心も疲れ果てていた。


人々はもう限界だった。

武器を手に、必死の声をあげる。


「武器を置き、今すぐ投降しろ!!」

鎧を身に纏い、剣を手にした騎士団が声を張り上げた。

その切っ先は、躊躇うことなく自分たち民を斬り捨てるだろう。
向けられた切っ先に男達は憤怒と共に奥歯を噛みしめる。

そして、
手にした武器を掲げ、走り出した。


せめて一矢、報いるために。


斬り捨てられる隣人、友人。
その屍を踏みつけて、騎士団長へとしがみつく。

「なっ!?放せっっ!!!」

斬り付けられ、蹴られ、薙ぎ払われようと渾身の力でしがみつく。

一人、二人、三人、四人……。

団子のようにしがみつき、屈強なその身体をなんとか押さえつけた騎士団長相手に、一人の男が突進するように走り寄る。
その手には鈍く光るナイフがあった。


もっと早く、こうして立ち上がっているべきだった。


自分達を制圧しようとする騎士団を前に、民衆はそう深く悔いていた。

数年前、
国を追放された皇女を自分達は見捨てた。

噂を信じ、時には面白おかしく尾ひれをつけて吹聴しすらした。

真実かどうかなどどうでもよかった。
あの時確かに、自分達はたのしんでいた。

手の届かない雲の上の存在が、自分たちと同じ一般人存在に堕とされたその醜聞を。

皇女自身には何の恨みもありはしなかったのに、国と皇族への不満からその不幸を確かにたのしんでいたのだ。

彼女が居なくなった途端、消えた結界と瓦解した経済。
今となってはこれまでこの国を支えてくれていたのが誰であったのかなど考えるまでもない。

必死に国を守り、支えてきた少女を見捨てた。
否、自分達も間接的に皇女を追放した一員なのだ。



その報いを、こうして受けることなど思いもしないで______。



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