「≪最悪の迷宮≫? いいえ、≪至高の楽園≫です!!」~元皇女は引き籠り生活を満喫しつつ、無自覚ざまぁもしていたようです。~

文字の大きさ
24 / 46

二十四

しおりを挟む

牢の中に捕らえられた神子を見て、正妃は唇を釣り上げた。

「ねぇ、死にたくない?」

嘲笑を含んだ、だけど何処か媚びるような甘ったるい声。



小汚い牢の中、突き付けられた現実に絶望と共に座り込んでいた神子はその声に緩慢かんまんに顔を上げた。
牢の前には皇帝、正妃、宰相、そして騎士団長。

あれから三日、牢の中で絶望にくれていた神子の前に彼らは現れた。

最初は喚き、「此処から出して!」と鉄格子を揺すって暴れ、泣き喚いていた神子も三日目ともなるとその気力さえ尽き、今ではもはやかつての煌びやかさなど欠片も窺えないまるで抜け殻。

「このままだと貴女は死罪が妥当でしょう。犯した罪の重さと民衆や貴族の不満を顧みると広場でのはりつけなどが相応しいでしょうか」

眼鏡をクイクイあげながら宰相が淡々と告げた。

「…そ、んな」

それは決して高貴な立場の者へと与えられる処罰でない。

手足に杭を打たれ、一思いに死ぬことさえ赦されずに石を投げられ、唾棄されながらただ飢え、干からびるのを待つなどよほどの大罪人への見せしめぐらいにしか行われない。

「国の為だった。お前はそう言ったな?」

皇帝の言葉に両手で鉄格子に縋りつきながら「はいっ、はい」と何度も神子は頷き、自分は悪くないのだと訴えかける。

「ならば此処で今まで通り国の為に働け」

騎士団長の紡いだ言葉の意味がわからなくて見上げれば、代わりに笑みを湛えた正妃が告げる。

「簡単な話よ?結界を復旧して維持しなさい。
ああ、貴女にこの国全部の結界を維持する能力がないのはもうよぉーくわかったわ。多くの令嬢たちから魔力を奪って尚、貴女の力じゃ足りないものね?
だから王都周辺だけで構わないわ。
結界を張ることはそこからでも出来るんでしょう?
ギフトも対象と一度接触さえしてれば離れた場所からでも使えるんだったわよね?」

「それは…どう、いう?」

「質問はなしよ。貴女にその権利なんてないんだから。
貴女が言ったように『国の為』に働き続けるなら牢だってこんな小汚い独房じゃなくてもう少しマシな貴賓牢に移してあげる。
そこなら窓から外を歩く貴族だって目に入るでしょう?」

神子は見開いた瞳で四人を見た。

ギフトで≪他人の魔力を奪う≫為の条件は二つ。

一つは血でも髪でもいい、対象となる相手の身体の一部を手に入れること。
そして、もう一つはその対象の姿を神子が一度でも瞳に映したことがあること。
たったそれだけ。

≪他人の魔力を奪った≫ことで断罪をしておきながら、彼らはそれを今後も続けろと暗にそう告げている。
しかも王都周辺だけで構わないということは、国ではなく自分達が居る場所だけでも安全を確保しろ、そういうことだ。

「勘違いしないで下さいね。
私たちは誰も貴女にギフトを使って結界を維持しろなどとは言っていません」

「そうよ。宰相の言う通りだわ。
貴女が自分自身の力で“神子”としての役目を果たせてればそもそもなんの問題もなかったんだもの。
ただ……そうね。貴女が“神子”としての役目を果たすのなら、貴女を処刑したことにして秘密裏に生かしてあげても構わないっていってるの」

「それじゃ割に合わないわ。此処から出してっ!」

両手で鉄格子を掴みかかって訴えれば、騎士団長がその足を振り上げて神子の手の直ぐ横を蹴りつける。

「言った筈だ。お前には質問の権利も何もないと。
断るのなら当初宰相が言った通りの刑が執行されるだけだ。
お前に相応しい刑がな。
それにそこから出して貴賓牢に移してやると言っただろう。第一、牢の中以外にお前の居場所などこの国の何処にもないぞ。お前の実家も何もかももうありはしないのだから」

「っ?!!」

どういうこと?そう問いたくて言葉が漏れずに濁った音だけが漏れた。

「お前の実家は取り潰しだ。大罪人を出したのだから当然だろう」

「そもそもその前にみーんな無くなっちゃたけどね?
貴女の罪は国中が知ってるもの。貴女がファウスティーナの魔力を奪って“神子”を演じてたこと、賊の侵攻も病を防げなかったもの全て貴女が“偽物の神子”だったことも、貴女が罪もない沢山の貴族を生贄にしてその地位を守ろうとしてたこともなにもかも」

「ご家族はお気の毒ですが、押し寄せた暴徒の犠牲になられたそうですよ。まぁ、貴女のギフトのことは知っていたのでしょうから同罪なのでしょうけど。
ですので、万が一牢を出たとしても貴女はなぶり殺しにされるだけです。
貴女の平穏は牢獄の中にしか存在しないのですから」

「…………そんな……」

ぱたりと落ちた手の上、スカートの上にもぱたぱたと雫が降り注ぐ。

虚ろな瞳から涙を流す神子を見下ろし、皇帝は告げた。



「身の振り方を、よく考えることだな」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...