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三十五
しおりを挟む正直、国とか民の現状すっかり忘れてたわ。
だってずっと迷宮に籠ってたし、ギルドからここまでは馬車の中、馬車の中で煩いのが延々と何か語ってたけどほぼ聞き流してたし、ぶっちゃけ国と民の惨状は現実感がなかったのだ。
国の為に尽してやるつもりはさらさらないけど、だからといって民の現状を見過ごす程に鬼畜でもない。クズ共や甘い汁吸ってた奴らは自業自得だと思うけど、それで民や可愛い異母弟が苦しむのは本意でないしね。
なら、国に残って手助けしてやれって??
それとこれとは別問題なのよ!!
セドリックは可愛いけど、自分はもっと可愛いから!!!
もう私は自分の本心を偽らないって決めたんだから!!
故に迷宮に戻る!!
「ねぇ、城に入る時に没収された私の手荷物を持って来てくれる?」
謁見に際し、武器と一緒に没収された荷物を持って来てくれるよう控えてた者に頼むとすぐさまそれは手元へ戻って来た。
ごそごそと鞄を漁る。
取り出したのは、カットの美しい大き目の水晶と林檎を模した赤い宝石。
カットの美しい水晶は≪癒しの揺り籠≫。
効果は簡易結界。
私の魔力で勝手に張られてた結界と違って病とか形のないものまでは防げないにしても、結界の範囲がやばい。国を覆える。あくまで簡易結界だけど。
それでもその規模の防衛が出来るだけでも規格外。
しかも注ぐ魔力はさほど多くなく、超省エネ設計。
林檎を模した赤い宝石は≪豊穣の果実≫。
最悪の迷宮で手に入るお宝として有名なものだ。
効果はその名の通り豊穣。
作物の実りが良くなるっていうそのまんま。
ざっと効能を説明した二つをセドリックの前へと並べる。
「これを。国の発展に役立てて」
にっこりと笑えば、セドリックの宝石のような瞳が開かれ、その瞳にうっすらと涙の膜が張られた。
「まさか……姉上は…この為に危険な迷宮に……?」
一斉にはっっとした顔で見つめられてファウスティーナは笑顔のまま固まった。
いえ、全く。
誰にも邪魔されない引き籠り空間に引っ越したかっただけですが!!
そして正直、それを差し出したのは国と民の為でもあるけど、
それ以上に私の自由を確立するためと、あと年とって冒険者出来なくなったとき用に国に恩売っとくのもいいかなぁーなんていう下心もあります。
……所詮私もクズ共の血の一端を引いてるのね…。
いや、考えはセコイけど、正当な対価だからクズでは無い筈!!
一瞬でそんな思考が駆け巡るが、口にすべきでないことはファウスティーナにもわかる。
だから曖昧な笑顔をつくるに留めておいた。
言わぬが花。
肯定はしないけど否定もしない。
都合のいい相手の勘違いは敢えてそのまま。
狡い大人が良くやる手ね!
一同は感涙にむせび泣いてる。
私の魔力を元に国を覆ってたいた結界は、強固で万能だがとても並みの魔力保持者では維持できない。
なので国の未来のため、身勝手な理由で追放されたにも関わらず、現状を打破するために秘宝を求め一人過酷な迷宮に挑んだ……なんていうストーリーが皆さんの中で展開されてまーす。
いやいや、違うけどね……。
そもそも≪豊穣の果実≫は有名だけど、≪癒しの揺り籠≫なんて知らなかったちゅーの!
多分……殆どの冒険者は知らないんじゃないかな?
寧ろ、今まで誰にも発見されてない可能性もある。
なんたって、私も一周目、二周目ではスルーだったからね。
迷宮を出たくないあまり、暇つぶしも兼ねてかーなーり、偏執的に細部の細部まで探索しつくした四周目にて漸く見つけた隠し部屋でゲットしたものだもの。
あれ、相当な暇人か神レベルの観察力ないとムリだわー。モチ私は暇人枠ね!
でも無事、感謝感激、雨あられな称賛と共に「何かお困りのことがございましたらいつでもお声がけください!この御恩は必ずお返しいたします!」と現最高権力者様から力強いお言葉を賜った。
いぇーい!!これで将来安泰ね!!
本当はすぐにでも迷宮に帰りたかったけど、必死に引き留められ、久々の再会だしと数日間だけの滞在を決定。
迷宮、少しだけ待っててねー。
デリバリーはあったものの、温かく豪華なお食事に心を奪われたせいもある…。
ジャンクはジャンクで大好きだけど、やはりこれはこれで美味しっ!!高級な味がするわー。
「偶には顔を出して下さいね」って熱心に頼まれたこともあるし、稀にご飯たかりに訪れよう。
ファウスティーナは高級食材とプロのディナーにそう決意した。
応援ありがとうございます!
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