「≪最悪の迷宮≫? いいえ、≪至高の楽園≫です!!」~元皇女は引き籠り生活を満喫しつつ、無自覚ざまぁもしていたようです。~

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愚か者たちの末路

神子

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「……私は悪くない……私は悪くない、わたし、は…………」

今日も一人、呪文を唱える。
繰り返し、繰り返し唱えた呪文を呪詛のように、祈りのように。


肌寒さに身体を胎児のように丸め込む。
目の前の壁には薄汚れたシミと…………。

歪に刻まれた幾つもの線。

それはかつてここに居た誰かが、そして神子自身が刻んだモノだ。
時間も、日にちの感覚すらなくなりそうなこの独房で過ごした日々の数を刻んだ線。

だけどそれも、いつしかやめた。
どれだけ線を刻んだ所で、刑期が明ける日はこない。

薄汚れた壁を見るのは嫌だけど、自分が牢に囚われていると自覚させる冷たく堅牢な鉄格子を視界に入れるのはもっと嫌で、神子はいつでもそれに背を向けて蹲る。

神子が居るのはかつて入れられていた独房だった。

正妃らの企みに協力するかわりに移された見掛けばかりは小奇麗な貴賓牢ではなく、正式に裁かれた彼女は全ての身分を奪われた上で囚人用の独房へと移されていた。

ただ、一つだけ、幸いなことがあったとすれば。

もうとっくに正常な自我を保っていなかったことだろうか。

それは正式な裁きの末に生涯幽閉の裁きが下されたからではなく、まだマシであったはずの貴賓牢にいたころから既にだった。

小奇麗で最低限の家具などもあるとはいえ、牢は牢。
自由もなく、食事も衣服も何もかも、自分の望むようにならない環境に我儘と贅沢になれきった神子の心はほんの数日で破綻した。

自らの野心のままにファウスティーナ友人の魔力を奪い取り続け、それでも足りず嫉妬をぶつけ。

自身の行いが原因の一端であるというのに、ファウスティーナから魔力を奪えなくなるや否やまた第三者を贄に魔力を奪い取り続け。

全てがバレて尚、保身と引き換えに正妃らの提案に協力し幾人もの死に追いやる程に魔力を、命を奪い続けた。

それなのに、
神子が心を病んだ理由は…………。

後悔でも罪悪感でもなく、

豪華な食事も、華やかな衣装も、かしずいてくれる人もなしに不自由な牢に囚われたに耐えられなかったから。

そこに反省など微塵もなかった。

ただ己を哀れみ、悲しんで、それ故に現実を見ることを放棄した。
ある意味、何処までも他人に縋り続けた神子らしい選択だった。

ファウスティーナからの提案にも、神子は何も答えなかった。
否、答えられるだけのを有してはいなかった。

国外の知らない誰かに嫁がされることも、一人で生きていくことも選べず、だからといって一生投獄されるのも嫌。

だから全部、理解することをやめた。

虚ろな瞳でぶつぶつと何事かを呟きながらいやいやと首を振り、頭を抱えたり、時折笑いだしたりする神子は埒があかずに当初の予定通りの生涯幽閉と相成った。

時折、自分の居る場所や状況を正しく認識するのか激しく暴れ出したり叫んだりすることもあるものの、概ね大人しく塞ぎこんでいる神子の姿は今や廃人そのものだった。


「お父様…お母様……」

幻がそこに見えているかのように神子は壁へと手を伸ばす。

「どうして、助けにきてくれないの?」

夢と現を彷徨いながら、今日もに助けを求める。


「……ひどい、ひどいひどい。ファウスティーナはなんて酷い子なの?
やっぱりあんな子、友達なんかじゃない。最低よ」

「役立たずな侍女、役立たずな贄。
みんなが役に立たないのが悪いのに、どうして私が叱られるの?」

悪いのは、いつだって自分でない


「騎士団長様、私のことが嫌いになったの?
照れてるの?ねぇ、そうなんでしょう?」

鬼の様な形相で、廃人のような虚ろな瞳で、夢見る少女のような笑みを浮かべて、ひたすらに壁に向かって話しかける神子を看守が気味悪そうに通り過ぎる。


彼女の刑期は 生涯、明けない。


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