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愚か者たちの末路
宰相
しおりを挟む「で、何ですの?」
再三にも亘る面会要請にダルさを押し殺してファウスティーナは問いかけた。
若干、押し殺せてなかった。
「提案があります」
クイッと眼鏡を押しあげて宰相。
「提案?」
鼻で笑う様子を隠せないファウスティーナ。
「もう一度、私を宰相の職に戻して下さい。勿論、私自身にも少なからず非があったことを認め、報酬などの待遇はそれなりの冷遇は甘んじましょう。
これは、私の為ではなく、この国に為でもあります!!
未だ傾いたこの国を立て直す為にも私の存在は不可欠です!僅かばかりの金銭で優秀な人材を他国へ流出させるより」
「却下」
熱弁を冷めた声がぶった切る。
他人の話は最後まで聞きましょう?
知るか、聞く価値すらない。
「傾かせたのは誰だと思ってるの?」
元凶の一員が偉そうに何を言う。
「連れて行きなさい」宰相の傍らに控える騎士たちに告げた。
聞き苦しい声をあげて抵抗しながら、手足を掴まれて連行されていく宰相を見届けずにファウスティーナは席を立った。
このまま圧死するのではないか。
自分にのしかかっている巨体の下で、宰相は本気でそれを危惧していた。
ボヨン、ボヨン、そんな擬音語がよく似合いそうな跳ねる身体。
交わる汗が気持ち悪く、重みで息が酷く苦しい。
ぼやけた視界は全てが歪み、何一つ正しい像を結びはしない。
醜く、巨大な肉の塊。
自らの上にのしかかって盛んに腰を揺らして嬌声を上げる女の顔も見えはしない。
この場合は見えない方が幸いなのかも知れないが。
「……うぁ」
一際高い声を上げ、力尽きたように全体重を預けてきたソレの重さに思わず呻き声が漏れた。
抜け出そうと身を捩らせようとビクともしない。
「まぁ、欲しがりねぇ」
必死に身体を動かす宰相に、ナニを勘違いしたのか女は宰相の整った顔を片手で撫で、口紅を塗りたくった下品に赤い唇をぺろりと舐めて上体を起こした。
そうして、上半身の圧迫がなくなったのは望んだとおりだが、全く望みはしない女の運動が再開した。
全身を投げ出して、天井を眺める。
近いのか遠いのか距離感さえ曖昧なぼやけた天井。
手探りでサイドテーブルへと手を伸ばす。
指先が、求めたモノに触れた。
だけど伸ばした指先はソレを掴むことなく、触れた指の先のソレはサイド―テーブルの下へと落ちた。
カシャン、と響く僅かな音に、慌てて身を起こして床を探れば指先に小さな痛みが走った。
ぼやける視界の先で赤が指を静かに伝う。
もう片方の手が掴んだのは、フレームが歪み、片側のガラスが割れた愛用の眼鏡。視界ではなく触れた手触りでその欠損を知る。
「あっ……私、私の…眼鏡が……」
呆然と呟いたまま、壊れたソレを掴み床に座り込む。
壊れた眼鏡を翳してみれば……片側だけ明瞭に映る視界。
もう半分は歪み、欠け、手の血に塗れて僅かに赤い。
明瞭な視界に映るかつてと遜色がないほどの豪奢な部屋に調度品の数々。
そして……乱れたベットと未だ衣服すらまともに身に着けていない自分の身体。
国での再雇用をすげなく断られ、宰相が選んだのは他国へ引き渡されることだった。
不本意極まりなかったが、やり直せると思っていた。
自身の優秀な頭脳があれば、きっと他国でもそれなりの職に返り咲けると。
勿論、それまでの苦境だって理解したくはなくても理解していた。
金持ちの女に下げ渡されて、悍ましい欲望に付き合わされることだって……。
そしてそれは現実になった。
昼も夜もなく女が訪れれば拒否権などなかった。
ある程度の自由があり、贅沢も、特に外見を美しく飾るためのモノならば必要以上に与えられ、身の回りの世話をしてくれる者も居る。
だけど、それだけだった。
「まぁ、綺麗なお人形」
初めて会った日、醜く太った女は言った。
「そんなことはしなくていいわ。貴方はそんなことをする必要ない」
仕事をさせて欲しいと頼んだ自分に女は言った。
「ああ、素敵。綺麗な顔の私のお人形さん」
日ごと、夜ごと女は呟く。
愛を紡ぐように、呪詛のように、女にとっての事実を紡ぐ。
何も考えず言いなりになる日々は、思考も心も摩耗させて……、
「何もしなくていい、何も考えなくていいの。
貴方は私だけの綺麗な綺麗な、 お人形さん なんだもの」
焼き付いた女の声が脳裏に響いて、
もういらない、と残った無事なレンズごと手の中のソレを床へと叩きつけた。
ほら、これで
思考も心も視界も……何一つ確かなモノなどない。
壊れてしまえば______きっと楽になれる筈。
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