魔族の便利屋

レテ

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一冊目 魔王軍は個性的

五話 勇者(1)

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 魔界歴同年六月三日、雲一つない快晴。
 現在進行中で魔界の大ピンチです。
 魔族は日を嫌う、または日で弱体化及び死亡する者まで多数存在するため魔王軍の魔術師が常に黒雲立ち込める地としています。
 私も日はあまり好きではなく、不死性が失われるような事はありませんが気分が悪くなります。
 こんな事態に陥って現在三日が過ぎ、人間との戦争に魔王軍は全戦力を投入できずに戦える者が負傷などで交代を続けています。
 このような事態に陥ったのはとある一人の人間が起因となっています。


 人類が魔族に立ち向かうための切り札は『勇者』という存在です。

 この勇者と言うのは一切の例外無く一騎当千の猛者であり、それは神の加護を受けていたり、他の世界から呼び出されたり、記憶を持ったまま生まれ変わったりなどおかしな出自を持つものです。
 そういった特異性がない実力者の事は『英雄』と人間は呼びわけてるようですが、私達魔王軍は両方まとめて勇者と呼んでいます。
 そんな勇者の中に『太陽神の加護』を受けた者が居たらしく、魔族領全てを黒雲で覆う千人を越える黒雲魔術師達の術に対抗して晴れを維持しています。
 人間はそうして魔王軍が弱体化した所に全戦力を投入して来やがりました。
 ええ、それはもう下手をすれば魔王城を落とされかねない程に、情け容赦なく。

「レキ坊、今逃げ出したら魔王軍は人間に敗北しますよ!」
「で、でもぉ……」
「でもではありません!泣き言なら後で幾らでも聞いてあげますから」
「はいぃぃぃ……」
 泣きそうな声を出しながら人間軍を一人で蹂躙し続ける魔王様。
 とはいえ人間は雑兵でも一定の犠牲を払う事で命を吹き返す事が出来るようで、殺せど殺せど殺し尽くせない圧倒的な物量作戦を展開している。
 魔族は繁殖力が高いため数は多いものの、生まれたばかりでは戦えないのだから熟練した兵士まで何度も戦場に戻る人間の方が有利であることに間違いはない。
「でもレイコ様ぁ、実際このままでは持ちませんよぉ」
 そして離れた別の所から聞こえてきた泣き言は四天王の一人、サキュバスの『メルフィア』です。
 この娘は四天王の中では最も力が弱いですけどそれは天気が良い(曇り)の時のお話で、ヴァンパイアのブラッドリィ様は小一時間も日に当たれば命に関わり、フォール様も私と同じ死霊なので力は半減してしまいます。
 もう一人の四天王は……実は魔王様よりお強いのですが、寝てばかりでこんな時でも決して動かないので戦力として数える事が出来ません。
「メルフィア様も頑張って下さい!もう少しの辛抱ですよ!」
「が、頑張りますぅ!」

「おい貴様ら!俺達を無視してんじゃねぇよ糞共がぁぁぁ!」
「ケダモノ共よ、我が刀のサビとしてやろうぞ!」
「私の魔法で灰になりなさい!」

 勇者ザコ達が吠える。
 一人一人が一騎当千の力を持つ猛者と言えど、魔王様やメルフィア様達と比べてみればそこらの雑兵と大差ない。
 とはいえこの場に集結した勇者は二桁にも上り、流石にこの数の勇者を魔王様とメルフィア様達だけで抑え続けるにも限度がある。
 そのためこの事態の元凶である太陽神の加護を持った勇者を倒すため、リュウコツ君単騎で隠密行動で忍び寄り、そのまま殺してしまうまでの耐久戦をしています。
 彼にはここ二日の人間の動きの観察を行わせて学習を続けていましたから滅多な事では壊される事はないでしょう、私の最高傑作ですからね!
 ……コホン、ちょっとだけ興奮してしまいました。
 そうそう私はこの戦いにおいては戦力外ですので、後方で指示や味方の鼓舞等が主な仕事です。

 恐らく後に名がつくと思われるこの大戦はまだまだ始まったばかり。
 太陽神の加護を持つ勇者を殺せば暫くは安泰でしょうけど、その内蘇るのだから一時凌ぎにしかならない事は誰もが理解しています。
 少しして黒雲が空を覆い始めました。
 ひとまず残党刈りの時間です。
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