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ジーランディア大陸編

【七陸・第十一話】ジーランディアの七不思議

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 七つの大陸~異世界転生した勇者の奇妙な人生~


 タプモアは大きな目をパチパチさせて、首を斜めにし頭を横に傾けた。

「……無理もないのう、あれから11年も経つし、タプモアは生まれたばかりの赤ん坊じゃったからのう。ところで“コロモア”は、元気にしておるか!?」

 昔なじみの人のような親しみのこもった表情のタウィリ。


 機械仕掛けのようにくちばしを上下にカッと開き、パクパクした。

「オイオイ じいさんヨー! オイラ の ジジイ の ことを 知っているのかヨ!?」

 麒麟きりんの王ように長い首を下ろして、宙色そらいろの顔を、閻魔顔えんまがおに近づけるタプモア。


〈――ぇえっッ!? こぉ、これはぁ、タプモアの心の声なのか!? いぃ、いいや、違う、確かに俺の耳には、シーアを彷彿させるハスキーボイスが届いたっしょ!〉

 自暴自棄、天井を眺めながら、シーアの曲をリフレインしていた。そんな映像がアオの脳裏をかすめる。


「……アオくん、どうしたのかな!? キーウィが豆鉄砲を食ったような顔をしちゃって!」

 白金プラチナの華がある眉をひそめるアオに対して、プラチナブロンドの眉根まゆねを寄せて真剣な顔をするアロハ。


「なんなんしょー!! タプモアのハスキーボイスが俺の耳に届いたけど、空耳なのか…それとも幻聴なのか!?」


「貴様ァの首につけたを忘れてしまったのか!?」


「おりょ!? これのことか……」

 顎を下げ、寄り目になり、釣り針にデザインされたグリーンストーンを見つめる。


「その釣り針の形は『ヘイ・マトゥア』と言い、海とのつながりを示し、身につけることで移動中の安全、健康や幸運を祈るとされている! また、ポウナムは万石ませきじゃから、身に付けることより万獣まじゅうと直接コンタクトすることが可能になるんじゃ! 貴様ァはそんなことも知らんかったのか!?」


 ポウナムのネックレスに無造作に触れると、弱い電気が走り、温かな感覚がカラダの中を循環する。

「ぉおぉっッ! これってぇ、リアルなのか!? 体に溜まった疲労が滲み出てくるっしょ!」


「……ふぉっふぉふぉ、蒼い宇宙、浮かぶ星座、煌めく銀河の万七マナを詰め合わせたのが、ポウナムじゃ!」

 感じのいい、あじな目つきのタウィリ。


〈……このポウナムって、そんな神秘的なパワーがあったのかよー! こりゃー思ってたよりもミラクルで、ウルトラなアイテムっしょ!〉

「もしかしてだけど、ポウナムってレアな魔法石なの!?」

 G1レースを1位で終えた競走馬の鼻息のような、吐息を漏らすアオ。


「ポウナム原石は、ジーランディア大陸の南西にあるアラフラ川でしか採掘されない、とても貴重な万石ませきなのじゃ! その貴重な万石に“守護神・ポウティニ”が万七マナを注ぎ込むことにより、ポウナムが完成するのじゃが、ポウティニは気分にむらがある神じゃッて、ポウナムにも当たり外れがある! しかし、貴様ァに渡したポウナムは、外れ年のモノじゃから、ポウナムの効果も気まぐれじゃろうな!」


 この手のタウィリ特有な狡猾ずるい顔つきに気が付くアロハ。


「都合よくしかわからないけど、そんな、貴重なモノを本当に貰っちゃっていいのか!? 自分で言うのも滑稽こっけいだけど、身元不明な…」

「…そうじゃな、ワシも何故、貴様ァに貴重なポウナムを授けたのか解析かいせきできてないのじゃが、まぁ、強いて言えば、小僧ォがに似ていたからかのう!」


「カフランギって、アロハの兄貴で爺さんの孫で、この苔の生えた球体付き腰パンのオーナー。アロハも言っていたけど、そんなに俺に似ているのか!?」


「ここんとこ老眼なのか、貴様ァとカフランギが瓜二つに重なるけど、万七マナの種類が酷似こくじしてるからかのう……」

 思い出でも探るように目を細めるタウィリ。


「ならば、いつか何処かで、カフランギに逢ってみたいっしょ!」


「うんうん、おじいやんが家族以外にポウナムを授けるのって初めてやん! きっと、これは『ジーランディアの七不思議』なのかもね!」


「……あのヨー! そろそろいいかな じいさんたち。コロじい は たしかに オイラ の ジジイ だけど じいさんたち とは どんな 関係なのヨ!?」

 ながめ飽きたような、気だるい目のタプモア。


「そうじゃったな、待たせて悪かったのう。コロモアは、ユーライザ戦争でワシの戦友じゃったおとこじゃよ!

 ……あの刻、ワシはコロモアに救われた! そう、コロモアはワシのおんモアじゃ!」

 想い出モードのタウィリは、目をガマのように細めている。


〈ユーライザ戦争って、どこかで聞いたような気がするけど…ところで、おんモアってなんだ!?〉

 無意識にマシュマロリングを指先でぷよぷよしている。


「そうだったのヨー! だったら オイラ を コロじいたち が 暮らしている ワイテマの里 に 連れて行ってくれ! どうやら みんな と はぐれちゃってよ…オイラ ワイテマ いち の 方向音痴 だから このままだと 一生 里 に 帰れないかもヨー! ――メイビー!」


〈それにしてもタプモアって、愛らしい顔なのに言葉遣いがムチャ荒いっしょ! まぁ、そのギャップにハマりそうなんだけどっ! マウントクックリリーのティアラ、そして、可愛い形のした耳には、ゴールドのリングピアスがセンス良く輝いているっしょ!

 ……これは、俺の勝手な推測だけど、タプモアって、モア界ではピラミッドの頂上にいる王妃おうひだったりして!?〉


「……タプモアよ、ワイテマの里への道案内を引き受けてもいいのじゃが、条件が二つある!」


〈この卑猥ひわいな顔は、タパルアさんを見ていたニヤケ顔っしょ! タウィリさんの条件って、もしかして……〉

 目の光の揺れが、動揺に耐えていることがわかる。


「二つ の 条件 だと!? 容認 できるか どうか は じいさん の 条件次第だけど とりあえず 言ってみろヨ!」

 タプモアの動物的な感が、タウィリが発するいやらしさの根源に本能的に気づき、不機嫌な皺が眉間に刻まれる。


「一つ目じゃが、ここにいる小僧ォをワイテマまで乗せて行くこと!」


〈……怪鳥・タプモアに乗るって、どういうこと!?〉

 タプモアに耳目をそば立てると、高所から艶やかな首筋がすらりと伸び、アオのあどけない顔を覗き込み、さらさらプラチナヘアーを揺らした。

 長く切れた二重瞼を覆う茂みのような長睫毛の森、紫紺しこん愛敬紅あいきょうべにが整った顔立ち…タプモアに爽やかな風が吹き、森が遊ぶ。

 恐鳥きょうちょう・タプモアには、アオの心をそそるものが備わっていた。
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