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第50話 鉛玉
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─────修行期間も折り返しを迎えた今日。おれは森の中を駆け回り、あるものから逃げていた。
(くっそ! 全然近づけねぇ!)
破裂音が何度も鳴り響く度に、おれはしゃがんだり、木に隠れたり、飛び込んだりしていた。
「痛ってぇ!!」
おれの体に小さなそれが当たった。どんぐりのようなサイズ感でゴム製だけど、威力は絶大だった。
「もっと銃の角度から射線を読め!! 当たりどころによっちゃあ即死だぞ!!」
そう、今おれは銃を持ったおっさんと戦っている。正確には防戦一方で戦いにはなっていないけど……。
(加護全開でケリをつけてやる……!!)
おれが持つ加護の特性のひとつ、高速移動を駆使して一息でおっさんに近づいた。
(殺った……!!)
低く屈んで懐に入り、腹をぶん殴ろうと拳を突き出そうとしたけど、膝蹴りを顔面に受け、怯んだところに銃を3発撃たれた。
「速度は速ぇが、反応速度が遅ぇ。ホムラに言われた"見てから超スピードで対応する"ってのには程遠い」
きつい言葉を言われ、モチベーションはダダ下がりだった。
「目から脳、脳から体へ。情報を取り入れてから体へ指令を出すまでの時間を短くするには、鍛錬を積むしかねぇ。この修行期間でお前はコンマ数秒の世界をモノにしろ」
「おっす!」
上等だ、やってやるよ。ホムラさんもおっさんも、軍の連中も歯が立たないくらい、強くなってやる。
「次はナナいくぞ!!」
「いつでもいいよ!!」
おっさんは休む間もなく、今度はなっちゃんとの戦闘を始めた。おれはなっちゃんの動きを見ながらインターバルを過ごしていた。
スタートはおれと同じ距離感で、まずはその間合いを詰めていくところから始まる。こっちは素手、向こうは銃を持っているんだから、圧倒的不利なのは大前提だ。
(どうする……なっちゃん……!)
気になるなっちゃんの初動に、おれは目を見開いて驚いた。
────まさかの正面突破!! しかも躊躇なく!!
おっさんは容赦なく銃をぶっ放しているけど、なっちゃんは全数かわしている。よく見ると、銃の音が鳴るよりも早く体を動かしていた。
(あれじゃまるでホムラさんみたいだ……!)
銃弾が切れて補充に入るタイミングで残りの距離を一気に詰めて、銃を持つおっさんの手を捻って落とさせた。
「やるな」
「へへ、私強いから」
続けておっさんの顔面に回し蹴りを放って、ガードされつつも後退させ、そこからはお互い一歩も引かない殴り合いが始まった。
なっちゃんはおっさんの動きをよく見切っていて、全部じゃないけどパンチをかわすことが多い。さっきもそうだったけど、いつからそんなことが出来るようになったんだ……?
おっさんの拳がなっちゃんの腹にめり込んだ。
「───っ!!」
なっちゃんは腹を押さえて膝をついた。おっさんは昔から修行のときに手は抜かない。いつだって誰相手でも本気で殴ってくる。
おれたちからしたらもう慣れたことだけど、何回やられてもやっぱり痛いもんは痛い。なっちゃんも苦しそうだ。
「次、エレナ来い!!」
銃の弾を補充しながらおっさんは再びおれを呼ぶ。こんなふうにひたすら実践を模した修行を繰り返していたおれたちだった。
◇
その日の夜。あれから何度もおっさんとやり合ったけど、いつまで経っても銃弾をかわせるような超反応はできないままだった。
「はぁ……はぁ……もういっちょ……かかってこいや……」
相当な疲労が溜まっていて、正直もう戦える体力は無かった。それでも出来ないことが悔しくて、意地になって何度も何度も挑んでいた。
「今日はこの辺にしとこうや。根詰《こんつ》めすぎだ」
おっさんは歩み寄ってきて、何故かおれに銃を手渡した。
「いいか、面白いものを見せてやる」
そう言って再び距離をとるおっさん。握った拳から親指を立て、自分の胸にむけた。
「撃ってみろ。心臓でいいぞ」
隣にいたなっちゃんと顔を見合わせ、『マジ?』と言わんばかりの表情をしたおれたち。おれは恐る恐る、銃を両手で持って前に構えた。
標準はおっさんの左胸。何の合図も無しに引き金を引いた。撃った反動や音、火薬の匂いなどを五感で感じた時には、銃弾はおっさんの元へ届いていた。
「……つぅー………痛ってぇなこれ!!」
左肩を押さえて痛がるおっさん。何がしたかったんだろう。
「だ、大丈夫!? これ、何の意味があったの?」
自分で撃っておいてなんだけど、思わず心配で駆け寄った。
「見てみろ、おれも避けられないんだ」
「えっ……?」
「今おれは本気で避けようとした。でもこのザマだ。こんな反則武器、元々避けられるわけねぇんだよ。お前たちがやってる事は、あり得ねぇことなんだ。だから1日出来ねぇくらいでしょげてんじゃねぇよ…………いつつ」
それを言うためにわざわざ銃弾を受けたのかよ。不器用っていうかなんていうか……。そんなおっさんの姿を見て、思わず力が抜けてきて、地面に座り込んだ。
「わかった、今日はこの辺にしとくよ。その代わり、また明日付き合ってよ」
「ああ、しっかり休んで、頭ん中リセットしてからまたやろうや」
そんなおっさんとおれのやり取りを横で見ていたなっちゃんが、両手で口を覆って恍惚とした表情で呟いた。
「師匠もエレナも出来ないことを私、出来てる……。やだ私って才能ありありなんじゃ……」
カチンときたおれとおっさんは、思わず番犬が吠えるように文句を言ったけど、なっちゃんはノーリアクションで飯の準備を始めた。
(くそ、絶対習得してやる……!)
星空が綺麗な今日は、そんなふうに銃相手の鍛錬をしていた1日だった。
(くっそ! 全然近づけねぇ!)
破裂音が何度も鳴り響く度に、おれはしゃがんだり、木に隠れたり、飛び込んだりしていた。
「痛ってぇ!!」
おれの体に小さなそれが当たった。どんぐりのようなサイズ感でゴム製だけど、威力は絶大だった。
「もっと銃の角度から射線を読め!! 当たりどころによっちゃあ即死だぞ!!」
そう、今おれは銃を持ったおっさんと戦っている。正確には防戦一方で戦いにはなっていないけど……。
(加護全開でケリをつけてやる……!!)
おれが持つ加護の特性のひとつ、高速移動を駆使して一息でおっさんに近づいた。
(殺った……!!)
低く屈んで懐に入り、腹をぶん殴ろうと拳を突き出そうとしたけど、膝蹴りを顔面に受け、怯んだところに銃を3発撃たれた。
「速度は速ぇが、反応速度が遅ぇ。ホムラに言われた"見てから超スピードで対応する"ってのには程遠い」
きつい言葉を言われ、モチベーションはダダ下がりだった。
「目から脳、脳から体へ。情報を取り入れてから体へ指令を出すまでの時間を短くするには、鍛錬を積むしかねぇ。この修行期間でお前はコンマ数秒の世界をモノにしろ」
「おっす!」
上等だ、やってやるよ。ホムラさんもおっさんも、軍の連中も歯が立たないくらい、強くなってやる。
「次はナナいくぞ!!」
「いつでもいいよ!!」
おっさんは休む間もなく、今度はなっちゃんとの戦闘を始めた。おれはなっちゃんの動きを見ながらインターバルを過ごしていた。
スタートはおれと同じ距離感で、まずはその間合いを詰めていくところから始まる。こっちは素手、向こうは銃を持っているんだから、圧倒的不利なのは大前提だ。
(どうする……なっちゃん……!)
気になるなっちゃんの初動に、おれは目を見開いて驚いた。
────まさかの正面突破!! しかも躊躇なく!!
おっさんは容赦なく銃をぶっ放しているけど、なっちゃんは全数かわしている。よく見ると、銃の音が鳴るよりも早く体を動かしていた。
(あれじゃまるでホムラさんみたいだ……!)
銃弾が切れて補充に入るタイミングで残りの距離を一気に詰めて、銃を持つおっさんの手を捻って落とさせた。
「やるな」
「へへ、私強いから」
続けておっさんの顔面に回し蹴りを放って、ガードされつつも後退させ、そこからはお互い一歩も引かない殴り合いが始まった。
なっちゃんはおっさんの動きをよく見切っていて、全部じゃないけどパンチをかわすことが多い。さっきもそうだったけど、いつからそんなことが出来るようになったんだ……?
おっさんの拳がなっちゃんの腹にめり込んだ。
「───っ!!」
なっちゃんは腹を押さえて膝をついた。おっさんは昔から修行のときに手は抜かない。いつだって誰相手でも本気で殴ってくる。
おれたちからしたらもう慣れたことだけど、何回やられてもやっぱり痛いもんは痛い。なっちゃんも苦しそうだ。
「次、エレナ来い!!」
銃の弾を補充しながらおっさんは再びおれを呼ぶ。こんなふうにひたすら実践を模した修行を繰り返していたおれたちだった。
◇
その日の夜。あれから何度もおっさんとやり合ったけど、いつまで経っても銃弾をかわせるような超反応はできないままだった。
「はぁ……はぁ……もういっちょ……かかってこいや……」
相当な疲労が溜まっていて、正直もう戦える体力は無かった。それでも出来ないことが悔しくて、意地になって何度も何度も挑んでいた。
「今日はこの辺にしとこうや。根詰《こんつ》めすぎだ」
おっさんは歩み寄ってきて、何故かおれに銃を手渡した。
「いいか、面白いものを見せてやる」
そう言って再び距離をとるおっさん。握った拳から親指を立て、自分の胸にむけた。
「撃ってみろ。心臓でいいぞ」
隣にいたなっちゃんと顔を見合わせ、『マジ?』と言わんばかりの表情をしたおれたち。おれは恐る恐る、銃を両手で持って前に構えた。
標準はおっさんの左胸。何の合図も無しに引き金を引いた。撃った反動や音、火薬の匂いなどを五感で感じた時には、銃弾はおっさんの元へ届いていた。
「……つぅー………痛ってぇなこれ!!」
左肩を押さえて痛がるおっさん。何がしたかったんだろう。
「だ、大丈夫!? これ、何の意味があったの?」
自分で撃っておいてなんだけど、思わず心配で駆け寄った。
「見てみろ、おれも避けられないんだ」
「えっ……?」
「今おれは本気で避けようとした。でもこのザマだ。こんな反則武器、元々避けられるわけねぇんだよ。お前たちがやってる事は、あり得ねぇことなんだ。だから1日出来ねぇくらいでしょげてんじゃねぇよ…………いつつ」
それを言うためにわざわざ銃弾を受けたのかよ。不器用っていうかなんていうか……。そんなおっさんの姿を見て、思わず力が抜けてきて、地面に座り込んだ。
「わかった、今日はこの辺にしとくよ。その代わり、また明日付き合ってよ」
「ああ、しっかり休んで、頭ん中リセットしてからまたやろうや」
そんなおっさんとおれのやり取りを横で見ていたなっちゃんが、両手で口を覆って恍惚とした表情で呟いた。
「師匠もエレナも出来ないことを私、出来てる……。やだ私って才能ありありなんじゃ……」
カチンときたおれとおっさんは、思わず番犬が吠えるように文句を言ったけど、なっちゃんはノーリアクションで飯の準備を始めた。
(くそ、絶対習得してやる……!)
星空が綺麗な今日は、そんなふうに銃相手の鍛錬をしていた1日だった。
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