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7:もう一つの剣
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早速、ユーニはルイス達と一緒にモース邸へと向かった。
当然のことながら、上級国民の中でも上位の貴族である彼女の家は上級街にある。
明らかに召使いとわかる者はまだしも、ユーニのようなみすぼらしい格好の一般国民が一人で歩けば不敬罪としてその場で殺されてしまっても不思議はない土地である。
たとえ治安隊の制服を着ていても――、いや、むしろ紋章のない二群の治安隊員だからこそ、無事で済む保証はない。
彼女の家に到着すると、ユーニは早速盗まれた剣が保管されていた部屋へと案内された。
「お父様の剣はここに飾られていました」
「部屋は盗まれた時からこの状態で?」
ユーニは保管庫を見渡した。
周囲には高価な品の数々が飾られている。
しかしそれらは全て手付かずのままだった。
空になっているのは、部屋の片隅においてあるガラスのショーケースだけだ。
「はい。お父様の剣が盗まれてからは人の出入りを禁止しましたから。私の知る限り、その時から変わっておりません」
(普通の盗みなら、盗めるだけ盗んでいくのが普通だ。この中でこれだけを盗むのは不自然過ぎる……。ここに置いてあった剣に価値があろうがなかろうが、一本だけ盗んでいくなんてのは明らかにおかしい)
ユーニは窓から外を確認した。
この部屋は敷地の中心付近に位置しているから、見つからずに外部から侵入する難易度はかなり高いはずなのだ。
鍵はそれほど難しい構造でないから入るのは簡単だが、盗んだ剣を持って脱出するとなると更に難しい。
(外から入ったなら間違いなく夜中だな。それも相当な手練だ。間違いなく盗みで有名になっているだろう。あるいは……)
ユーニは横目でこっそりと侍女達を見た。
「なるほど、これは確かに手強い」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。盗みの痕跡というか、犯人が残した情報というものが殆ど見当たりません。やったのは相当な手練れですな」
ユーニは本当のことを言わなかった。
彼にとってここは完全にアウェーだ。
間違っても「内部犯の可能性が高い」などとは言わない方がいいと判断したのだ。
それはこの周辺にクレストのシンパがいるということであり、下手に刺激すればユーニだけではなくルイスの身を危険に晒すことになるかもしれないことを意味する。
保管庫にはそれ以上の手がかりがなかったので、次はクレストの部屋を案内して貰うことにした。
建物の二階に上がって一番奥にそれはあった。
貴族の部屋というのは基本的に寝室と書斎が分かれているものだが、クレストの部屋は両方を兼ねていた。
机とベッドが一つずつに、後は大きな本棚が複数あり、どれも本でびっしり埋まっている。
それは貴族の部屋というよりもむしろ一般国民のそれに近かった。
クレストは元々一般国民だったから、こちらの方が性に合っていたのだろうとユーニは思った。
(……心臓病の本が多いな)
ユーニの知る限り、クレストに医療従事者だった時期はない。
戦いで負った傷を手当したことならいくらでもあるだろうが、棚に並んでいる本とは明らかに合わなかった。
「ルイス様、失礼ですがお父上は医療に関心がおありだったのですか?」
「あ、はい。母が心臓の病で倒れてから、父も色々調べていたようです」
「そうでしたか。……それは失礼」
ユーニはルイスの表情が少し暗くなったのを見て悪いことを聞いたと悟った。
そういえばクレストの妻、つまりルイスの母親は十年近く前に心臓病で死んだと、ここに来る前に調べた資料の中にあったはずだ。
ルイスはクレストも既に死んだと思っているのだ。
少なくとも両親を失った少女に対して無遠慮にして良い質問ではなかった。
部屋の外に控えている侍女の冷たい視線がユーニに突き刺さっている。
「と、とりあえず、引き出しの中身を確認してもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
ユーニはとにかく話題を変えようと、慌てて机の引き出しに手を伸ばした。
「こういったところに手掛かりが隠されていることも多いものです。実はその剣を欲しがっている人物から手紙が来ていたとか――」
冷や汗をかきながら引き出しの中に突っ込んだユーニの手に何かが触れた。
いや、触れたのは別に良い。
問題はそれが天板の裏に張り付けられた何かだったということだ。
おそらくは紙だろう。
これは何か非常に重要なものだとユーニの勘が言っている。
「ユーニ様? どうされました?」
「あ、いえ。勢い余って腕がつってしまいまして」
「まあ! 大丈夫ですか?」
「ご心配なさらずに。少しこのままでいれば治まります。この年になるとよくあることでしてね。もう慣れっこですよ」
ユーニは腕がつった振りをして時間を稼ぐと、ルイス達に気付かれないように片手で紙を天板から剥がし、そのまま袖の中に入れて隠した。
今は侍女に見られている。
もしも屋敷の中に協力者がいるとすれば、ここで自分が重要な手掛かりを掴んだ可能性を知られるわけにはいかなかった。
幸いなことにこういう演技は慣れている。
ユーニは何食わぬ顔で痛みが治まった振りをすると、しばらくを引き出しの中を漁ってから外に出ることにした。
「ところでルイス様。折角と言ってはなんですが、もう一箇所、確認しておきたい場所があります。私一人では入れませんので、お願いしたいのですが……」
「それは構いませんが……。どちらに?」
「”もう一本の剣”があるところですよ。……あなたのお父様のね」
当然のことながら、上級国民の中でも上位の貴族である彼女の家は上級街にある。
明らかに召使いとわかる者はまだしも、ユーニのようなみすぼらしい格好の一般国民が一人で歩けば不敬罪としてその場で殺されてしまっても不思議はない土地である。
たとえ治安隊の制服を着ていても――、いや、むしろ紋章のない二群の治安隊員だからこそ、無事で済む保証はない。
彼女の家に到着すると、ユーニは早速盗まれた剣が保管されていた部屋へと案内された。
「お父様の剣はここに飾られていました」
「部屋は盗まれた時からこの状態で?」
ユーニは保管庫を見渡した。
周囲には高価な品の数々が飾られている。
しかしそれらは全て手付かずのままだった。
空になっているのは、部屋の片隅においてあるガラスのショーケースだけだ。
「はい。お父様の剣が盗まれてからは人の出入りを禁止しましたから。私の知る限り、その時から変わっておりません」
(普通の盗みなら、盗めるだけ盗んでいくのが普通だ。この中でこれだけを盗むのは不自然過ぎる……。ここに置いてあった剣に価値があろうがなかろうが、一本だけ盗んでいくなんてのは明らかにおかしい)
ユーニは窓から外を確認した。
この部屋は敷地の中心付近に位置しているから、見つからずに外部から侵入する難易度はかなり高いはずなのだ。
鍵はそれほど難しい構造でないから入るのは簡単だが、盗んだ剣を持って脱出するとなると更に難しい。
(外から入ったなら間違いなく夜中だな。それも相当な手練だ。間違いなく盗みで有名になっているだろう。あるいは……)
ユーニは横目でこっそりと侍女達を見た。
「なるほど、これは確かに手強い」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。盗みの痕跡というか、犯人が残した情報というものが殆ど見当たりません。やったのは相当な手練れですな」
ユーニは本当のことを言わなかった。
彼にとってここは完全にアウェーだ。
間違っても「内部犯の可能性が高い」などとは言わない方がいいと判断したのだ。
それはこの周辺にクレストのシンパがいるということであり、下手に刺激すればユーニだけではなくルイスの身を危険に晒すことになるかもしれないことを意味する。
保管庫にはそれ以上の手がかりがなかったので、次はクレストの部屋を案内して貰うことにした。
建物の二階に上がって一番奥にそれはあった。
貴族の部屋というのは基本的に寝室と書斎が分かれているものだが、クレストの部屋は両方を兼ねていた。
机とベッドが一つずつに、後は大きな本棚が複数あり、どれも本でびっしり埋まっている。
それは貴族の部屋というよりもむしろ一般国民のそれに近かった。
クレストは元々一般国民だったから、こちらの方が性に合っていたのだろうとユーニは思った。
(……心臓病の本が多いな)
ユーニの知る限り、クレストに医療従事者だった時期はない。
戦いで負った傷を手当したことならいくらでもあるだろうが、棚に並んでいる本とは明らかに合わなかった。
「ルイス様、失礼ですがお父上は医療に関心がおありだったのですか?」
「あ、はい。母が心臓の病で倒れてから、父も色々調べていたようです」
「そうでしたか。……それは失礼」
ユーニはルイスの表情が少し暗くなったのを見て悪いことを聞いたと悟った。
そういえばクレストの妻、つまりルイスの母親は十年近く前に心臓病で死んだと、ここに来る前に調べた資料の中にあったはずだ。
ルイスはクレストも既に死んだと思っているのだ。
少なくとも両親を失った少女に対して無遠慮にして良い質問ではなかった。
部屋の外に控えている侍女の冷たい視線がユーニに突き刺さっている。
「と、とりあえず、引き出しの中身を確認してもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
ユーニはとにかく話題を変えようと、慌てて机の引き出しに手を伸ばした。
「こういったところに手掛かりが隠されていることも多いものです。実はその剣を欲しがっている人物から手紙が来ていたとか――」
冷や汗をかきながら引き出しの中に突っ込んだユーニの手に何かが触れた。
いや、触れたのは別に良い。
問題はそれが天板の裏に張り付けられた何かだったということだ。
おそらくは紙だろう。
これは何か非常に重要なものだとユーニの勘が言っている。
「ユーニ様? どうされました?」
「あ、いえ。勢い余って腕がつってしまいまして」
「まあ! 大丈夫ですか?」
「ご心配なさらずに。少しこのままでいれば治まります。この年になるとよくあることでしてね。もう慣れっこですよ」
ユーニは腕がつった振りをして時間を稼ぐと、ルイス達に気付かれないように片手で紙を天板から剥がし、そのまま袖の中に入れて隠した。
今は侍女に見られている。
もしも屋敷の中に協力者がいるとすれば、ここで自分が重要な手掛かりを掴んだ可能性を知られるわけにはいかなかった。
幸いなことにこういう演技は慣れている。
ユーニは何食わぬ顔で痛みが治まった振りをすると、しばらくを引き出しの中を漁ってから外に出ることにした。
「ところでルイス様。折角と言ってはなんですが、もう一箇所、確認しておきたい場所があります。私一人では入れませんので、お願いしたいのですが……」
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