異世界で幼稚園の先生をすることになりました

めんだCoda

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第7話 小さな三角屋根の家は

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 午後は適当に園庭で遊び、夕方になる前にアノーリオンとララノアを帰した。

 子供2人だけで帰すことに抵抗があったが、帰り道は分かるし魔法も使えるから、という2人の自信満々な顔を信じて帰すことにした。
 というより、2人の親にそうするよう言われた手前、このエルフの里に詳しくない揺莉にはどうすることもできなかった。

「ふぅ~…あとは、適当に片付けて私も家に帰ろう~」

 幼稚園の隣に家があり、すぐ帰れて、そして家にはエルフ族もいなくて1人になれるというのは、まだこの世界に慣れない揺莉にとっては、ありがたいことだった。

 揺莉は教室で腕を上にあげ、ゆっくりと伸びをする。

「調理場の片付けが終わったので、私も帰ります」

「ひゃあっ!?」

 急に背後から声をかけられ驚いた揺莉は、肩をすくめた体勢で振り返る。
 揺莉と目が合ったルーミルが、教室の入口を身を屈めて入ってきた。

 ルーミルがまだ園内にいることをすっかり忘れていた揺莉は、慌ててルーミルに向かってお礼をする。

「ルーミルさん…!今日は急なことでしたのに、ありがとうございました…!あのっ、今日働いていただいた分の謝礼をしたいのですが……。えっと…エルフの里ではどういったやり方があるんでしょうか…私の世界にはお金っていうものがあって、そのお金が成果の報酬となるんです…」

「………」

「えっ…と、お金っていうのはつまり…働いたことの対価として得られるもので、その得たお金で、色々なものを手に入れられたりできまして……」

「——この里には、そういったものはありませんね」

「あ…そうなんですね…」

 相変わらずルーミルからの無愛想な返答に、揺莉は肩を落とす。

「あの、じゃあお金と似たような、何かルーミルさんに渡せる報酬みたいなものは、ありませんか?」

「…エルフの里では、他者共存を尊重している。誰かが誰かを使うことはないし、皆平等だ。それに今日は、ラエルノアに頼まれて来ただけだ。私がしたことを、あなたが気にする必要はないし、代わりに何かする必要もない」

「あっ…。そう…なのですね……分かりました…」

 淡々と話すルーミルに、揺莉は少し受け入れ拒否されたような気持ちになり、肩を落として斜め下に視線をやる。

 すると、先程とは違いルーミルから少し優しい口調で話しかけられる。

「明日も、同じようにここに来ればいいですか」

「……えっ?明日も…来てくださるんですか?」

 揺莉は驚いて顔を上げると、ルーミルがじっとこちらを見つめていた。

「私は戦闘で前線に出ることはないので、今手は空いていますので」

「えっ、あ、じゃあ…お願いしてもいいですか?ありがとうございます…!今日の昼食もとても美味しかったので、続けてきてくださると、私も嬉しいです」

 揺莉が笑顔を向けると、ルーミルもそれに反応して少し微笑んだ気がしたが、気のせいなのかすぐに元の冷静な表情になっていた。

「それでは、また明日来ます。お疲れ様でした」

「あっ、はい!お疲れ様です!」

 ルーミルが踵を返し教室を出ていく後ろ姿に、揺莉は慌てて声をかける。

 ◇◇◇◇

 幼稚園での後片付けも終わり、小さな三角屋根の家に戻った揺莉は部屋に入ると、テーブルの上に何かが置いてあるのに気づく。

「ん?なんだろ?」

 テーブルに近づくと、そこにはお皿の上にのった料理と、置き手紙があった。

 "昼食で使った食材の残りで作りました。良ければ食べてください。部屋には魔法で料理をおいたので、入室はしていません。ルーミル"

「ルーミルさんが……!?」

 揺莉は、思わぬ用意に驚くと共に、エルサリオン、ラエルノア、ルーミルといい、エルフ族の自分への気遣いに意外に思う。

「書籍ではエルフ族は高慢な性格で書かれることもあったし、プライドも高そうなのに、意外と優しいんだぁ。それに、最初はあんなに私が里にいることを嫌がってたのに、家に幼稚園に、食事まで…意外とこの先うまくやっていけるのかな……」

 揺莉はルーミルからの置き手紙をテーブルに置き、鼻歌をし1人喜びながら席に座ると、少し早めの夜ご飯を食べ始める。

「うん!やっぱり美味しい!この上にかかっているの、なんだろう?クリームソースみたいな?感じかなぁ?元の世界でも食べたことあるような味だし、美味しい~」

 揺莉は1人でパクパクと食事を平らげると、シャワーを浴びそのまま寝る準備をしてベッドに転がり込む。

「明日もアノーリオンくんやララノアちゃん、来てくれるかな…。あと明日は何をしようかな……」

 考えながら、うとうとしてそのまま眠ってしまった。


 ◇◇◇◇

 コンコン

 扉を叩く音がして、揺莉は飲んでいた水をテーブルに置く。
 夜明けと共に目が覚めた揺莉は、着替え終えて、そろそろ幼稚園に向かおうかと、準備をしようとしていたところだった。

「こんな早くに誰だろ、またアノーリオンくんかな」

 揺莉は扉の取手に手をかけ開けると、そこに立っていたのは前髪が少し長めで全体はやや短めの金髪、そして緑色の目をした子どものエルフだった。

「あれ……確かお名前はクルゴンくんだったかな?」

 揺莉は腰を屈めて目線を合わせると、優しい声でクルゴンに話しかける。

「うん、そうだよ。おぼえていてくれて、ありがとう」

 はにかんで笑うクルゴン。

「どうしたの?私に何か用かな?」

「アノーリオンとララノアが、ゆりさんがつくったヨウチエンていう所に行っているって聞いたから、僕も2人と一緒に行きたいなって」

 小さい声で話すクルゴンは、話している途中に時々下を向いたり、はたまた上目遣いで揺莉を見たりしていた。

(恥ずかしがってるのかな?それとも…)

 揺莉はその場でしゃがむと両膝に手を置き、クルゴンを見上げる形で話しだす。

「そっかぁ。2人と一緒に幼稚園に来たいんだね。でもね、来るには大人の許可が必要かな。クルゴンくんのパパやママは、今ここに一緒に来てる?」

 揺莉の問いかけに、クルゴンは無言で首を横に張る。

「そっかぁ。それじゃあ、ここに来ることをパパやママは、いいよって言ってくれてたかな?」

 クルゴンは少し考えこむような顔をしたが、すぐにまた視線を戻しコクンと頷いた。

「本当…?嘘はだめだよ。大事な子供のクルゴンくんを預かるんだから、パパやママに行っていいよって言ってもらえてないと、私は幼稚園に来ていいよ、って言えないんだ」

「うーん…ほんとうはね、はなしてないんだ…。パパもママも戦いにいっちゃってて、何日も帰ってきてないんだ…。だから、ここに来たいって話も、いつできるか、わからないんだよ…」

「えっ、じゃあパパとママがいない間、ずっと1人でいたの?」

「うん…。でも、アノーリオンとララノアと遊んだりもしてるから…」

「ご飯とかは?どうしてるの?」

「僕がつくってる…。身の回りのことは、1人でできるよ…」

「そうなんだ…」

「うん、だから僕もここに来てもいい…?パパたちが帰ってくるまででもいいよ…。帰ってきたら、パパたちにも話すから…おねがいします……」

 クルゴンにうるうるした目で見つめられ、揺莉はここで断ることに良心が痛む。

(うーん…どうせ1人でいるなら受け入れてもいいのかなぁ…でも、これが後々問題になって揉めてる原因になると嫌だしなぁ…)

「あら……そこにいるのは…クルゴン…?」

 家の扉の所で悶々と悩んでいる揺莉に声をかけたのは、ララノアと手を繋いだラエルノアだった。

「あっ、ラエルノアさん、おはようございます!ララノアさんもおはよう~!今日も来てくれたんだね~、ありがとう~!」

 揺莉が手を振り笑顔を向けると、パッと笑顔になったララノアが、揺莉の方へ駆け出していこうとする。
 しかし、ラエルノアがララノアの手をギュッと握り、行かないよう引き止めた。

「クルゴン…、あなたも揺莉さんの幼稚園に来ることにしたの?」

 微笑を浮かべたラエルノアが、揺莉の前に立つクルゴンに話しかける。

 しゃがんだままの揺莉がクルゴンの顔を見上げると、さっきまで瞳を潤ませていた可愛らしい健気な表情とは一変し、少し冷めたようなクールな顔つきになっており、揺莉は驚き思わずクルゴンをじっと見つめる。

「うん、そうだよ」

「そう……あなたのお父様達はずっと戦闘に出ているらしいけど、幼稚園に来ることを許可したのかしら…?」

「……それについては、今ゆりさんに話したところだよ」

「ここに来るのは、お父様達に話をしてからが良いと思うわよ。特に、揺莉さんがエルフの里にいることも、あなたのお父様方は戦闘に出ているから知らないでしょう」

「父上達には僕から話すよ。ラエルノアには関係ないから、気にする必要ないよ」

 クルゴンの言葉に、笑顔だったラエルノアの顔が引き攣る。

 揺莉も子どものクルゴンが、大人のラエルノアを呼び捨てにすること、そして対等に話しているような感じ、そして最初の印象とは違って流暢に話す違和感と驚きで、2人の会話に入れずにいた。

 会話が途切れたラエルノアとクルゴンの間に、不穏な空気が流れる。ラエルノアに手を掴まれたままのララノアは、心配そうにラエルノアの顔を見上げていた。

 ラエルノアは口元に笑みを浮かべてはいるが、その視線はどこか冷たく、その瞳でクルゴンを見つめる。

「関係なくないわ。同じエルフ族でしょう、大人だったら、子どものことを心配するものよ。それに、揺莉さんも何の生物か分からないし、まだ分からないことばかりじゃない…?」

 ラエルノアの言葉に揺莉は、胸にドヨンとした暗い何かが立ちこめる。
 ラエルノアに何の生物呼ばわりされたことで、自分は下等な生き物に思われていることに気付いたからだ。

「ゆりさんのことが分からないと言いながら、ララノアを預けてるじゃないか。あぁ…預けてるフリで、ほんとうはエルサリオンと結託して、ゆりさんを監視してるのかな?こんな、罪人が処刑されるまで閉じ込める家に、ゆりさんを置いているんだからね」
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