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第8話 子どもらしくない
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「えっ…ざ…いにん……?」
揺莉は唖然として、ラエルノアへ視線をやる。
ラエルノアは揺莉の視線に気付いたようだが、表情一つ変えず、また慌てる様子もなく淡々と話し始める。
「あの娘をこの家に置くと決めたのは、エルサリオンよ。私じゃないわ。罪人を処罰するまで置いておく家だとしても、提供してあげているだけ優しいと思わない?それに、処刑しないでエルフの里に置いてあげて、加えて私達は魔法陣で元の世界に帰してあげようとまでしているのよ?そこまでしてあげてるんだから、監視くらいしたっていいでしょう?」
美しいラエルノアの口から次から次へと吐き出される言葉に、揺莉はどんどん気持ちが削られていく。
(……ラエルノアさんも、エルサリオンさんも、私に優しくしてくれてたと思ったのに…)
結局、この家にしろ幼稚園にしろ、エルフ族が監視しやすくするためのものでしかなく、表面上優しい態度を装っていただけだと分かり、揺莉の表情は曇る。
「ねぇ…ママ……もうやめてよ…」
ラエルノアに手を掴まれているララノアが、唇を噛み涙を浮かべながら、小さく声を出す。
「ゆりさん、私たちにやさしくしてくれたよ…この里を攻めてくる、わるい敵とはちがうよぉ……」
ララノアは涙を流し、ラエルノアに掴まれていない手でぬぐう。
「ララノア……」
ラエルノアはララノアの頭を撫でると、そっとララノアを抱きしめ耳元で囁く。
「昨日1日だけで、ララノア、あなたみたいな子どもに何が分かるっていうの?いい?ママの言うことを聞くのよ。あの娘を監視するのよ、いいわね、これは命令よ」
ララノアはラエルノアの言葉に目を見開き、ララノアの両腕はダランと下に下がったままだった。
ラエルノアとララノアがいる場所と距離があった揺莉は、ラエルノアが何かを囁いていることなどつゆほども知らず、ラエルノアがララノアを抱きしめている姿を見て、母と娘の家族愛にホッとした気持ちでいたのだった。
ラエルノアはララノアを抱きしめていた腕をゆっくりと解くと、ララノアに向かってニコッと微笑んだ。
(ララノアさん、涙はとまったかな…?)
揺莉は自分のことを気にかけ涙を流してくれた優しいララノアに心配になるが、揺莉のいる場所からはララノアの表情は見えず、ただララノアの後頭部を見るしかなかった。
すると、ラエルノアとバチっと目が合い、揺莉は、何か言われるのかと緊張と怖さで体が強張る。
「今日もララノアをお願いします。それから…」
ラエルノアは、揺莉の前に立つクルゴンに目をやる。
「クルゴン。あなたの行動で、私達まで巻き添えをくうのはお断りよ。それだけはよく考えておきなさい」
そう言うと、ラエルノアは先日のように大きな鳥を呼び寄せ、空へ飛び立って行った。
「…う、うえ~~ん…!」
ラエルノアがいなくなった途端、ララノアがその場で声を出して泣き出してしまい、揺莉は慌ててララノアの元に駆け寄り抱きしめてなだめる。
「ララノア!」
どこにいたのか、アノーリオンも揺莉とララノアの側に駆け寄ってきた。
「ララノア、だいじょうぶ?」
心配そうな顔をしたアノーリオンが、泣いているララノアの頭を優しく撫でる。
そんなアノーリオンの様子を見ながら、揺莉は思い出した。エルサリオンがこの小さな三角屋根の家を揺莉に案内したとき、アノーリオンが怯えていたことを。
(アノーリオンくんも、ここがどういう家か知っていたのかな…)
揺莉は胸元にしがみついて泣くララノアの背中をさすりながら、虚な目で考えていた。
「ゆりさん…」
後ろから背中をたたかれ、揺莉が振り返るとクルゴンが立っていた。
さっきラエルノアと話していたときの堂々とした態度とは違い、最初に会ったときと同じような、気弱そうなおどおどした顔つきになっていた。
「さっきはごめんね…聞きたくないこともあったでしょう…?」
両手を体の前で合わせて俯くクルゴンの様子は、さっきと同じ人物か?と疑うほど違って見える。
「ううん、大丈夫だよ。クルゴンくんは、気にしなくていいよ」
クルゴンに向かって優しい声で伝えると、クルゴンは顔をあげ、ほんのりと笑った。
揺莉はクルゴンの様子の違いにどうしても腑に落ちず、クルゴンの目を見つめ、言葉を選びつつゆっくりと尋ねる。
「クルゴンくん、聞いてもいい?さっき、ラエルノアさんとテンポよくお話していたけれど、ラエルノアさんとはよくお話するの…?すごく親そう、…というか、なんていうか、う~ん……」
揺莉はなんという言葉で聞いたらいいか悩み、最後の方はモゴモゴと独り言のように口ごもる。
「対等に話してる、って言っても難しい言葉すぎて伝わらないよね…なんて言い換えたらいいんだろ…」
揺莉が、うーん、と1人悩んでいると、クルゴンが苦笑いする。
「年齢的には対等ではないんですが…、僕は他のエルフ族より知能が高いみたいで、大人の人と話す機会が多いんです…」
揺莉はクルゴンの大人顔負けの言葉遣いに、思わずポカンとした顔でクルゴンを見つめる。
「…あっ、そうなのね…。クルゴンくん、難しい言葉が分かるのね」
すると、アノーリオンが元気な声で割って入る。
「そうそう!クルゴン、頭がいいんだよ!俺たち同じ5歳なんだけど、クルゴンは頭がいいから、大人のエルフともよく話すんだ!大人のエルフより、クルゴンの方が物知りだったりするんだよ!」
アノーリオンが揺莉の肩をつかみ、一生懸命クルゴンについて話す。
「そうなの。それでラエルノアさんと、あれだけ会話ができたのね」
「…戦闘における作戦会議とか、魔法の研究とか…色んなことに混ぜてもらったりしてるんです…。でも、僕は子どもっぽくないって…大人のエルフに気味悪がられたりするから…、さっきみたいな話し方はあんまりしたくないんだ…。でも、ゆりさんがなんか…僕みたいにエルフの大人たちから虐められてるような気がして…ついムキになって話しちゃった…」
クルゴンがはにかんで笑うと、知的そうな大きな瞳が長めの前髪の隙間から除く。
「そっか…そういう気持ちだったんだね。心配してくれて、ありがとう」
揺莉は微笑んでクルゴンの頭を撫でると、クルゴンはくすぐったそうに顎を引いて笑う。
「いいな~。私も頭なでなでしてほしい~」
泣き止んだララノアが鼻を啜りながら、揺莉の胸元から甘えた顔で見上げていた。
「えっ、…あはっ。わかった。は~い、いい子いい子~」
揺莉がララノアをギュッと抱きしめながら頭を撫でると、ララノアは満足そうな顔で笑う。
揺莉に撫でられて嬉しそうなララノアを、アノーリオンとクルゴンはニコニコしながら見つめていた。
揺莉は3人の顔を順々に見つめた後に、ゆっくりと話出す。
「ここで私から1つお話するね。さっきのクルゴンくんの話で思ったんだけれどね、あのね、他の人と違うからって、それをからかったり、虐めたりするのは、絶対してはいけないことなんだよ。クルゴンくんが他の人より頭がいいから、子どもっぽくないからって、よく思わない大人もいるみたいだけれど、それは違うんだからね。あのね、私のいた世界で、皆んながそうしようね、って目指していた言葉があってね、それは、個性を尊重する、っていうんだ。1人、1人、違うんだよ、そして、それでいいんだよ、ってこと。それは、3人にもこれから大事にして欲しいなぁ」
揺莉が話すと、3人は真剣な表情でコクンと頷いた。
「ゆりさん…ありがとう…」
クルゴンが、揺莉に照れた笑顔を向け、揺莉はうんうん、と笑顔で頷き返す。
「ねーぇ、ゆり、早く幼稚園に行こう!今日は何するー?」
しゃがんでララノアを抱いたままの揺莉を、アノーリオンが引っ張り起こそうとする。
「わかった、わかった!んーそうだなぁ…」
揺莉はララノアを離して立ち上がると、額に手を当て幼稚園を見る。
「じゃあ、今から幼稚園の前まで、皆んなで、かけっこしようか!誰が一番先に着くかなぁ~?いくよー!よーーい!…ドン!!」
揺莉の掛け声に、3人はキャッキャと声をあげながら走り出し、揺莉は3人と笑いながら幼稚園に入って行った。
揺莉は唖然として、ラエルノアへ視線をやる。
ラエルノアは揺莉の視線に気付いたようだが、表情一つ変えず、また慌てる様子もなく淡々と話し始める。
「あの娘をこの家に置くと決めたのは、エルサリオンよ。私じゃないわ。罪人を処罰するまで置いておく家だとしても、提供してあげているだけ優しいと思わない?それに、処刑しないでエルフの里に置いてあげて、加えて私達は魔法陣で元の世界に帰してあげようとまでしているのよ?そこまでしてあげてるんだから、監視くらいしたっていいでしょう?」
美しいラエルノアの口から次から次へと吐き出される言葉に、揺莉はどんどん気持ちが削られていく。
(……ラエルノアさんも、エルサリオンさんも、私に優しくしてくれてたと思ったのに…)
結局、この家にしろ幼稚園にしろ、エルフ族が監視しやすくするためのものでしかなく、表面上優しい態度を装っていただけだと分かり、揺莉の表情は曇る。
「ねぇ…ママ……もうやめてよ…」
ラエルノアに手を掴まれているララノアが、唇を噛み涙を浮かべながら、小さく声を出す。
「ゆりさん、私たちにやさしくしてくれたよ…この里を攻めてくる、わるい敵とはちがうよぉ……」
ララノアは涙を流し、ラエルノアに掴まれていない手でぬぐう。
「ララノア……」
ラエルノアはララノアの頭を撫でると、そっとララノアを抱きしめ耳元で囁く。
「昨日1日だけで、ララノア、あなたみたいな子どもに何が分かるっていうの?いい?ママの言うことを聞くのよ。あの娘を監視するのよ、いいわね、これは命令よ」
ララノアはラエルノアの言葉に目を見開き、ララノアの両腕はダランと下に下がったままだった。
ラエルノアとララノアがいる場所と距離があった揺莉は、ラエルノアが何かを囁いていることなどつゆほども知らず、ラエルノアがララノアを抱きしめている姿を見て、母と娘の家族愛にホッとした気持ちでいたのだった。
ラエルノアはララノアを抱きしめていた腕をゆっくりと解くと、ララノアに向かってニコッと微笑んだ。
(ララノアさん、涙はとまったかな…?)
揺莉は自分のことを気にかけ涙を流してくれた優しいララノアに心配になるが、揺莉のいる場所からはララノアの表情は見えず、ただララノアの後頭部を見るしかなかった。
すると、ラエルノアとバチっと目が合い、揺莉は、何か言われるのかと緊張と怖さで体が強張る。
「今日もララノアをお願いします。それから…」
ラエルノアは、揺莉の前に立つクルゴンに目をやる。
「クルゴン。あなたの行動で、私達まで巻き添えをくうのはお断りよ。それだけはよく考えておきなさい」
そう言うと、ラエルノアは先日のように大きな鳥を呼び寄せ、空へ飛び立って行った。
「…う、うえ~~ん…!」
ラエルノアがいなくなった途端、ララノアがその場で声を出して泣き出してしまい、揺莉は慌ててララノアの元に駆け寄り抱きしめてなだめる。
「ララノア!」
どこにいたのか、アノーリオンも揺莉とララノアの側に駆け寄ってきた。
「ララノア、だいじょうぶ?」
心配そうな顔をしたアノーリオンが、泣いているララノアの頭を優しく撫でる。
そんなアノーリオンの様子を見ながら、揺莉は思い出した。エルサリオンがこの小さな三角屋根の家を揺莉に案内したとき、アノーリオンが怯えていたことを。
(アノーリオンくんも、ここがどういう家か知っていたのかな…)
揺莉は胸元にしがみついて泣くララノアの背中をさすりながら、虚な目で考えていた。
「ゆりさん…」
後ろから背中をたたかれ、揺莉が振り返るとクルゴンが立っていた。
さっきラエルノアと話していたときの堂々とした態度とは違い、最初に会ったときと同じような、気弱そうなおどおどした顔つきになっていた。
「さっきはごめんね…聞きたくないこともあったでしょう…?」
両手を体の前で合わせて俯くクルゴンの様子は、さっきと同じ人物か?と疑うほど違って見える。
「ううん、大丈夫だよ。クルゴンくんは、気にしなくていいよ」
クルゴンに向かって優しい声で伝えると、クルゴンは顔をあげ、ほんのりと笑った。
揺莉はクルゴンの様子の違いにどうしても腑に落ちず、クルゴンの目を見つめ、言葉を選びつつゆっくりと尋ねる。
「クルゴンくん、聞いてもいい?さっき、ラエルノアさんとテンポよくお話していたけれど、ラエルノアさんとはよくお話するの…?すごく親そう、…というか、なんていうか、う~ん……」
揺莉はなんという言葉で聞いたらいいか悩み、最後の方はモゴモゴと独り言のように口ごもる。
「対等に話してる、って言っても難しい言葉すぎて伝わらないよね…なんて言い換えたらいいんだろ…」
揺莉が、うーん、と1人悩んでいると、クルゴンが苦笑いする。
「年齢的には対等ではないんですが…、僕は他のエルフ族より知能が高いみたいで、大人の人と話す機会が多いんです…」
揺莉はクルゴンの大人顔負けの言葉遣いに、思わずポカンとした顔でクルゴンを見つめる。
「…あっ、そうなのね…。クルゴンくん、難しい言葉が分かるのね」
すると、アノーリオンが元気な声で割って入る。
「そうそう!クルゴン、頭がいいんだよ!俺たち同じ5歳なんだけど、クルゴンは頭がいいから、大人のエルフともよく話すんだ!大人のエルフより、クルゴンの方が物知りだったりするんだよ!」
アノーリオンが揺莉の肩をつかみ、一生懸命クルゴンについて話す。
「そうなの。それでラエルノアさんと、あれだけ会話ができたのね」
「…戦闘における作戦会議とか、魔法の研究とか…色んなことに混ぜてもらったりしてるんです…。でも、僕は子どもっぽくないって…大人のエルフに気味悪がられたりするから…、さっきみたいな話し方はあんまりしたくないんだ…。でも、ゆりさんがなんか…僕みたいにエルフの大人たちから虐められてるような気がして…ついムキになって話しちゃった…」
クルゴンがはにかんで笑うと、知的そうな大きな瞳が長めの前髪の隙間から除く。
「そっか…そういう気持ちだったんだね。心配してくれて、ありがとう」
揺莉は微笑んでクルゴンの頭を撫でると、クルゴンはくすぐったそうに顎を引いて笑う。
「いいな~。私も頭なでなでしてほしい~」
泣き止んだララノアが鼻を啜りながら、揺莉の胸元から甘えた顔で見上げていた。
「えっ、…あはっ。わかった。は~い、いい子いい子~」
揺莉がララノアをギュッと抱きしめながら頭を撫でると、ララノアは満足そうな顔で笑う。
揺莉に撫でられて嬉しそうなララノアを、アノーリオンとクルゴンはニコニコしながら見つめていた。
揺莉は3人の顔を順々に見つめた後に、ゆっくりと話出す。
「ここで私から1つお話するね。さっきのクルゴンくんの話で思ったんだけれどね、あのね、他の人と違うからって、それをからかったり、虐めたりするのは、絶対してはいけないことなんだよ。クルゴンくんが他の人より頭がいいから、子どもっぽくないからって、よく思わない大人もいるみたいだけれど、それは違うんだからね。あのね、私のいた世界で、皆んながそうしようね、って目指していた言葉があってね、それは、個性を尊重する、っていうんだ。1人、1人、違うんだよ、そして、それでいいんだよ、ってこと。それは、3人にもこれから大事にして欲しいなぁ」
揺莉が話すと、3人は真剣な表情でコクンと頷いた。
「ゆりさん…ありがとう…」
クルゴンが、揺莉に照れた笑顔を向け、揺莉はうんうん、と笑顔で頷き返す。
「ねーぇ、ゆり、早く幼稚園に行こう!今日は何するー?」
しゃがんでララノアを抱いたままの揺莉を、アノーリオンが引っ張り起こそうとする。
「わかった、わかった!んーそうだなぁ…」
揺莉はララノアを離して立ち上がると、額に手を当て幼稚園を見る。
「じゃあ、今から幼稚園の前まで、皆んなで、かけっこしようか!誰が一番先に着くかなぁ~?いくよー!よーーい!…ドン!!」
揺莉の掛け声に、3人はキャッキャと声をあげながら走り出し、揺莉は3人と笑いながら幼稚園に入って行った。
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