異世界で幼稚園の先生をすることになりました

めんだCoda

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第32話 つながってるから(最終話)

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「すごいね~みんな、たくさん掘れた!」

 アノーリオン、クルゴン、ララノアのそれぞれ目の前に、お芋がてんこ盛りに積み上がっている。

 畑の土の上に座ったアノーリオンが、お芋の前でへばりながら、揺莉を見つめる。

「これ、全部食べられるんだよねー?」

「そうですよ~。このお芋は焼いてもふかしても、あるいはスイーツ、デザートにしても美味しく食べられます!なので、好きに調理してみてくださいね。これだけたくさんお芋があるので、失敗しても大丈夫ですよ」

 揺莉がニコッと笑うと、アノーリオン、クルゴン、ララノアも同じようにニコッと笑い、その後、どうやって食べるか顔を寄せ合い話し合っていた。

「揺莉さん」

 背後から声をかけられ振り返ると、ルーミルとエルサリオンが歩いてきていた。
 揺莉は畑から離れ、2人の方へ近寄る。

「こんにちは。今日はこの素敵な畑のおかげで、3人と一緒にとても楽しく過ごせました。ありがとうございます」

 揺莉が笑顔で深くお辞儀をして顔を上げるも、ルーミルとエルサリオンは晴れない顔で揺莉の顔をじっと見つめていた。

「あ…あの…そろそろ…ですよね…?」

 揺莉がためらいがちに尋ねると、エルサリオンが急に目の前に近寄り、揺莉の両手をギュッと握った。

「本当に、もう気持ちは変わらないのか…?少しでも躊躇するような気持ちがあるのなら、まだ戻る必要もないと思うのだが。急ぐ理由もないだろう、まだもう少しこの里にいてもいいじゃないか。…そうだ、今の家が不満なら、新しい家に変えてもいい。暮らしやすいように私が調整しよう」

 揺莉の手を握るエルサリオンの手が、どんどん汗ばんでいくの感じる。そして、更にギュッと強く握られたが、揺莉はゆっくりと手をほどく。

「……ごめんなさい」

 揺莉が申し訳なさそうに伝えると、エルサリオンは、まだ何か言いたそうに口を開ける。

「まぁ、落ち着いたらどうだ、エルサリオン」

 ルーミルが、エルサリオンに一歩近付く。

「エルサリオン、いい加減諦めろ。転移には揺るぎない気持ちが重要だというのに、固まった決心をお前が揺るがしてどうする」

 ルーミルがエルサリオンの肩にポンと手をのせると、エルサリオンは分かってるよ、と小さく呟き溜息をつく。

「…元の世界への転移準備は整っている。子ども達へは、もう伝えたのか…?」

 揺莉は首を左右に振ると、畑にいるアノーリオン、クルゴン、ララノアの方へ視線をやる。

「これから伝えてきます。なので、あと少し待っていただけますか」

 揺莉が2人に向かって頭を下げると、畑に向かって足早に歩いていく。すると、しゃがんでいたアノーリオン、クルゴン、ララノアが話をやめ、揺莉の方をニコッと見上げる。

「ゆりさ~ん、これからどうする~?」

 ララノアが立ち上がり、揺莉に飛びつく。

「…このお芋を料理して食べる…とか…?」

 クルゴンがお芋を1つ取り、顔の前でフリフリと振る。

「そうしよー!おいしい食べ方、教えてよー!」

 アノーリオンが両手を叩き、揺莉にウインクする。

 揺莉は何から言い出そうか考え過ぎて言葉が出ず、すると揺莉のいつもと違う様子をなんとなく悟ったのか、楽しそうな3人の顔から、どんどんと笑みが無くなっていく。

「…あのね…ごめんね、私、皆んなに言わなきゃいけないことがあるの。…実はね、転移魔法が完成してね…私元の世界に戻れることになったの。それで今から…」

「や~だ~っ!」

 ララノアは、揺莉に抱きつく手に力を込め、歯を食いしばり泣くのを必死に我慢する顔になる。

「ゆりさんが帰るのなんて、やだっ!ぜったい、やだっ!」

「ララノアさん…」

 アノーリオンがすくっと立ち上がり、揺莉を涙目で睨みつける。

「俺もやだっ!だって、だって、このお芋だって、こんなにたくさんだし、それに幼稚園だって、どうするの!」

「ごめんね、急に言われたら嫌だよね。幼稚園は…ごめんなさい、今日で閉園…かな…」

「やだやだ!せっかく楽しい場所だったのに!ゆり、ずるいよ!!急にやめるの、ずるいよ!!」

「アノーリオンくん…」

 泣く一歩手前の2人を横目で見ていたクルゴンは、揺莉に寂しそうな瞳を向ける。

「…今日さよならの日だとして…なんでわざわざお芋掘り…したの…?普通に…話をしてバイバイでもいいのに…」

「…うん、そうだよね、そう思うよね」

 揺莉は3人に近づくと、1人1人の顔をじっくりと見つめる。

「お芋掘りをしたのにはね、最後に私から伝えたいことがあったから。それはね、友だちと協力して助け合うことは大切だよってこと。さっき、ララノアさんのお芋がなかなか抜けなくて、それで3人で協力したよね。そしたら、ちゃんと抜けたよね…。つまりね、お互いに助け合うこと、ひとりではできないことともふたりならできる。ふたりでできないことも、さんにんならできる。みんなで助け合うことで、大きなことをも成し遂げられるんだって、…そういうことを分かって欲しくて、お芋掘りをしたんだ。これが、最後に私から皆んなに伝えるメッセージ」

 3人は何も言わず、黙ったまま聞いている。
 揺莉は微笑むと、3人の頭を順番に撫で、その後、3人まとめて優しく抱きしめる。

「ごめんね、今日じゃなくてもっと前から伝えられれば良かったんだけど、悲しいからなかなか言えなかった。お別れは悲しいけど、大丈夫、時間が解決してくれる。3人のことは大切だし、本当の子どものように愛しく思ってる…でもね、私にも元の世界で生きていた人生があるの…だから…そこに…戻るね」

 揺莉の話を静かに聞いていた3人だが、話し終えるとワッと大声をあげて泣き出し揺莉にしがみつく。

「ごめんね…ごめんね…ありがとう…」

 揺莉は3人を更に強く抱きしめながら、空を見上げる。
 初めて来た時と変わらない、青い澄んだ綺麗な空。

「ねぇ、みんなお空見て」

 涙と鼻水でグチョグチョになった顔で、3人は上を向く。
 揺莉は優しく微笑み、ハンカチで3人の顔を優しく拭く。

「私の世界でも空ってあるんだよ。きっと、ここと繋がってる。だからね、きっとまたどこかで———」


                  (終)
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