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第2章 聖女編
勇者困惑する sideアルフレッド②
しおりを挟む王子が把握しているということと地下とはいえ王宮にいることで、それなりの地位にいる人物なのだろう。
戦いに身を置くことが多いのでついつい相手の弱点など探ってしまうが、アルフレッドは早々に読み取ることを諦めた。
その人物は黒と赤のみで肌は見えないし、墓石や白手袋や赤い液体の惨状に、これならまだ魔物を退治しているほうがマシだと思った。
初見で困惑が拭いされないアルフレッドをよそに、レオラムと聖女は特に驚いた様子もなくちらっと男に視線をやり肩を竦める。
「懲りないわね」
「喉が痛いって言ってたのに、まだ声出るんだ」
「名前呼ばれると絶対叫ぶわよね。ここまでくると殿下もそれがわかってて呼んでるのではと深読みしたくなるわ」
「まさか……」
そこで二人はカシュエル殿下に視線をやったが、見られてにこっと笑みを浮かべると騒がれているのも気にせず王子は言葉を続けた。
「そこの魔物研究局長が聖女様をここに来るように差し向け、その聖女様はレオラムを連れ出し、私も騒動を聞きレオラムの魔力を追って転移してここに来たら、なぜか騒がれてる状態だね」
「殿下も騒動を聞きつけて探しに来られたんですね……」
──ああ、……なんていうか、しれっと今すごいこと言わなかったか?
騒動は王子の耳に入っているとは思っていたし、今までは状況に応じて姿を現し聖女を落ち着かせていたが、それはいつも聖女に合わせてというよりは王子のタイミングでといった感じであった。
脱走しても探すのは聖女の周囲の者のみ。王子が出張ることなんてなかった。
しかも、私も、なんてアルフレッドと同じように探してここに来たと話しているが次元が違う。
他人の魔力を追って転移するなんて、どれだけ魔力操作が精密なんだか。やっぱり、この国の第二王子は化け物級なのだとアルフレッドは改めて思った。
王子も誰も彼も追う気はないだろうが、こういうところをしれっと言えるカシュエル殿下の凄さとともに、やはりレオラムへの執着が垣間見える。
レオラムはだからかみたいな顔で王子を見ているが、もっといろいろ気づけよって言いたい。
人をよく観察するわりに、自分のことに無頓着なところがあるようで、理解しているようで理解しきれていない。
その辺りをうまく王子に攻め込まれているのか、前回会った時よりもかなり王子に対して放つ空気が柔らかくなっていた。
──……面白くないな。
最近、レオラムを見ると以前とは違うムカムカも感じて、それもまた勝手に煩わさられているようで面白くない。
どうせ、という言葉が出そうになるし、そんなものは自分に似合わないとアルフレッドは軽く首を振りいろいろ考えるのは止めだと、地上に戻ろうと話しかけた。
「レオラムがここの出入り口の鉄格子に同じパーティだった時に使用していた印をつけてくれてたのでわりとすぐに見つけることができましたが、上は大騒ぎなので戻りましょうか」
「そうね。目的は達成できたし。とういか、レオラムはあの時そんなことをしてたんだ?」
「へえ」
アルフレッドの言葉に、聖女は単純に驚き、王子は静かにレオラムを見下ろした。
王子のほうは美しすぎる相貌からは何を考えているのかずっとわからないと思っていたが、ことレオラムが絡むとそれがわずかに漏れ出る。
幾度か牽制されているからわかることなのかもしれないが、何を考えているとまではわからずとも、どことなくひやりとした空気が流れていた。
これ、絶対レオラムと聖女の距離や、自分の言葉に反応しているよな?
あの聖君王子がとも思うし、レオラムをねぇとも思う。
目の当たりにしても二人の組み合わせは違和感を覚えるが、王子の本気度はずっと伝わってくるので、噂は決して誇張ではないとわかってはいるが……。
そこまで考えて、アルフレッドは内心叫んだ。
────ああ、マジで面倒くさいっ。
人の行動が気になるとか、レオラムとか王子とか聖女とか、人の関係性にあれこれ思ってしまうのも自分で自分に困惑だと、アルフレッドはがしがしと頭をかいた。
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