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2甘ネジ
となり⑤
しおりを挟む「じゃないと、考えませんよ?」
これは、あれだ。犬のしつけと一緒だ。
言葉だけでなくしっかり目で訴えなければわかってもらえないだろうと、逸らしたいのを我慢して見つめる。
すると熱っぽい吐息を吐き出し恨めしそうに千幸を見た小野寺が、逸らさない千幸の視線に何を思ったのかすぐさま口元を緩めた。
「わかった。隣同士の部屋に帰ろう」
「……そうですね。隣ですね」
隣、なんだ。
今さらながらに、隣っていうワードがすごい。
もう頭がごちゃごちゃというか、考えがぐるぐるミキサーで回されてるようでまとまらないから一人になりたい。
だけど、家に帰っても壁越しではあるが隣に小野寺がいる。
こうなってくると、ずっと意識しろと言われているようだと長い息を吐き出した。
腕は離してもらったが、少しも離れたくないとばかりに手首を掴まれながら歩く。
「ちょっ、離してください」
「嫌だ。俺は少しでも触れていたい」
何それ?
触れていたいって何それ?
顔を引きつらせながら、ちゃんとわかりましょうと言い聞かせるように一語一語丁寧に告げる。
「そういう関係ではありませんが?」
「でも、俺はそうなりたいって言った。予約した」
お返しにとばかりに相手は噛みしめるように告げてきて、さらに増えたワードに千幸は目を丸くして小野寺を見た。
「予約って……」
「千幸ちゃんが本気で嫌がることはしないから、これくらいは許して。ね?」
「いえ、本当、意味がわかりませんが」
「そんなに抵抗するなら恋人繋ぎするけど?」
「じゃ、これでいいです」
「だろ?」
――だろって何????
繰り出される言動の理解が追いつかない。
だんだん、自分でも何の話をしているのかわからなくなってきた。
超マイメペースのハイペース。
次々、先手を打ってくる相手にどよょーんと気持ちが落ちていく。
ものすごくさりげなくアプローチ、いや、強引にことを進められて、本人はしれっとした顔をしている。
結局、常に主導権を持っている相手に丸め込まれているように感じた。
それが悔しいのに、ここで突き放したいのに、絡まる視線は好きだと訴えられ続け、掴まれた腕はやはり熱い。
その熱さを嫌だと感じることができず、本気の抵抗ができない。
どんどん距離を縮めてくる相手に自分がどうしたいのかわからないまま、対応も今までの恋愛経験からは何も生かすことができない歯がゆさ。
きゅっと口元を引き結ぶと、部屋の前まできてペースをかき乱してくる相手をじっと見上げた。
「ん、何?」
平然とした顔で、いつものようにふわりと微笑む小野寺を千幸はしげしげと見つめた。
欲しい宣言された今、流されっぱなしも嫌だし敵を射るような視線を向けて観察する。
それも平然と受け止めるか、何かしらの甘いリアクションがあるかと思えば、じっと見つめる千幸の眼差しに耐えきれなかったのか、今度は小野寺から視線を外した。
あれっ? と首を傾げかけ、あっ、と小野寺の小さな変化に気づく。
わずかばかり耳元が赤くなっているのを見つけて、平然としているようで結構いっぱいいっぱいだったりするのかと、小野寺を食い入るように見つめた。
すると、赤い範囲が広がり熱っぽい視線が千幸を責める。
「千幸ちゃん。そんなに熱い視線を向けられると襲ってほしいのかと勘違いしそうになるからやめて」
「あっ、それはないです」
パッと慌てて視線を外したが、耐えきれないとばかりにぼそりと耳元でささやかれる。
「っ、襲ってしまいたい」
「いや、ホントすみません。もう、寝ましょう、ね」
ゾクゾクくるような、この一帯を酸欠状態にするのかってほどの熱を向けられて、謝るからわかってともう一度視線を合わせる。
「………っ」
「ね。もうこれ以上は見ませんから」
「それは嫌だ」
それは嫌なんだ。見てほしいの? 見てほしくないの?
見なかったら見なかったで話が進まないだろうし、見たら見たで熱を向けられてどうしろと。
「ああぁぁ~。とりあえず、今日はキャパオーバーです。ここで解散です。おやすみなさい」
熱の孕んだ空気に当てられそうになり、わずかに逃げ腰になりながら就寝の言葉を告げる。
「……ふっ。いい夢を。おやすみ。千幸ちゃん」
離れがたいとばかりに掴んでいた手首小野寺はを一度きゅっと掴むと、そっと手を離す。
掴まれていた手首が、回され触られていた腕の部分が、まだそこにあるかのように存在を感じる。
それ以上、小野寺を見ることができなかった。
トクトクトクとあらゆるところが音を立てて、熱がこもり始めている気がする。
視線が、仕草が、千幸を捉えようとしていて耐えきれずこくりと頷くと、そのままドアを開けて中に入った。
カチャリという音がして、閉じたドアに力なく凭れる。
あっちこっち熱い。
それに、まだドア越しに小野寺の気配を感じる。
どくどくどくと鳴る心臓のあたりをきゅっと掴みながら、これは本気で心してかからないとと眉根を下げた。
少し経って、ようやく小野寺が動く気配がして隣の扉のドアの開閉の音が聞こえる。
すべての音が聞こえなくなって、ようやっと思いっきり息を吐き出した。
そのままずるずると座り込むと、あっちこっち熱いと感じる顔を膝に埋めた。
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