ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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4変甘ネジ

大学時代 side翔②

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 ──今さら、何を言ってるんだ……

 別に飢えてるわけではないから、すぐにそういうことをしたいわけではない。なのに、しびれを切らすのは必ず女性。
 覚えたての頃ならまだしも、それなりに落ち着いた今は相手が求めてきたりそういう雰囲気の時は翔も男なので応じることもある。

 甘い付き合いを期待せず、ペースを乱さないのであれはいいと付き合う前に伝えてある。
 愛する気持ちがわからず、欠けているようだと正直に話していた。なのに、次第に要求してくるようになる。

 それはもうどうでもよい。
 榛色の瞳を隠す黒のカラコンを飛んでしまったため、この後の面倒を思うと憂鬱でならない。

 母がハーフで瞳の色はそのまま翔に受け継いだ。
 中学までは海外で暮らしていたが、島国である日本では少しでも自分たちと違うものが目につくと、奇異の目で見られ絡まれることもあった。
 面倒が嫌で外野にがやがや言われ突っかかれるのを避けるため、カラコンで隠すようになった。

 それでも女性は寄ってきたが、同性からの攻撃や関心は減った。
 大学に進学してからは干渉的でないタイプの轟たちや高校時からの桜田たちとの付き合いもあったので、希薄な関係にある者のことなど気にしなくなった。
 ただ今はこれがデフォルトなのでしているだけだが、もしこの瞳を今さら見られればどう騒がれるかと面倒だった。

「もういいっ」
「そうか」
「……っ、引き止めてもくれないのね」
「…………」
「さよならっ」

 言葉もない翔に、本気でもう終わりだと悟った女はバタバタバタッと泣きながら走っていった。

 ──ほんと、最悪。

 彼女の勝手さと現状の情けなさに、どうしようもなく気持ちが淀む。
 女性に対して同じ気持ちになれないのは失礼な部分があることは理解している。
 なので、不特定多数とは関係を持っていないし、付き合う形をとった女性は女性の中で優先してきたつもりだ。

 翔なりの礼儀は通してきたが、結局はこうなるのかと女性不信になりつつあった。
 嫌なら、告って付き合おうって、抱いてって言わなければ、こっちからは何もしない。

 ──ああ、ほんと面倒。

 翔はうんざりする気分のまま前髪をかき上げた。
 ものすごくむしゃくしゃする。今に始まったことではないのに、この日は特にうんざりしていた。
 不機嫌に顔をしかめ、カラコンが飛んでいった辺りを睨みつける。

「よく、わかんねぇ」

 心の底からの呟きが漏れ出る。
 すべてを相手のせいにするつもりはないし、一因は自分にあるのは理解しているが、脱力しきってやる気が起こらない。

 女性と派手に遊びたいわけではない。周囲が話すように気持ちが高鳴るならそうなればいいと思っている。
 だけど、結局気持ちがいつも冷めていてそれ以上何も動かない。

 付き合わなかったら付き合わなかったで周囲がうるさくなる。なら、どうすればいいのだとこちらが問いたい。
 惚れさせてみせると意気揚々に語っていたのは彼女のほうなのに、興味がないだろうと怒るのはお門違いだ。

 今回はこそはといつもほんの少しは思う。
 無理だろうの向こう側で、別に女性が嫌いなわけでもないから今回はもしかしたらと数パーセントは思っているから付き合ってみるのだが。

 ──付き合う、が向いてないのかもな。

 すべてのことがわずらわしくなった。
 翔の表情が苦く冷たくなっていく。美貌にさらなる磨きがかかり、冷え切った感情の瞳はさながら人形みたいになっていく。
 こんな姿を友人に見られたら、そら見たこかと笑われるだろうが誰もいない今取り繕う必要はない。

 いろんなことがとても色褪せて見える。
 贅沢だろうがなんだろうが、どこかずっと乾いたものがへばりつく感じは嫌なものだ。

 日頃意識しなくても、こうして意識するとそれらは邪魔でしかなく、唯一翔が努力しても取れないものだった。 
 人の悩みはそれぞれだ。恵まれていようとも恵まれているからこそ、翔のそれはついてまわり、ほんのたまにそれに打ちのめされる。

 は、と小さく息をついた。
 今さらそれらがバリバリとがれるわけもないと知っているから、押し込める。

 もう一度息をつきカラコンを探そうとしたその時、ガラリとドアが開き不機嫌のまま翔は険しく眉根を寄せた。
 さりげなくカラコンが飛んでいったほうの目を手で隠す。
 最初はさっきの元となった彼女が戻ってきたのかと思ったが、違った。

「失礼します」

 控えめなその言葉とともにきょろっと周囲を見回し入ってきたが、相手が翔の変化に気づいたのかはわからない。
 黒ベースのシックな色使いのプリーツロングスカートに、白のボリューム袖のトップスにスニーカー。軽くウェイーブがかかった髪は緩く一つに括られ、幼すぎず気負いすぎず可愛らしい女性だ。

 押しの強い女性ばかりに囲まれてきたので、入ってきた相手が気が強そうでないことにどこかでほっとした。
 その彼女は片方の目を押さえている翔へと視線を止めると、ちょっと嫌そうに眉を跳ね上げた。

「すぐ終わりますので」

 そう宣言すると、翔の返事もまたずに棚から資料を取り出し淡々と調べ物をしだした。
 叩かれた頬と瞳を隠しながら立つ自分と、黙々と作業をこなす女性。

 互いに存在は認識しているが無言で、しらっとした空気がそこに流れる。
 ぱらっと紙をめくるる音が響き、こちらから何も言う気はないが何か言われるかと構えていた翔は、ちょっと気が抜けた思いで彼女の様子をじっと眺めた。

 この容姿に反応されなかったことはなく、大学では有名であることを自覚している。
 今は資料に集中しているようだが、いずれ何かしらのリアクションがあることをこの時の翔は疑わなかった。

 黙々と作業をし終えたらしい彼女は、資料を戻すため席を立つ。
 女性が面倒なら翔もさっさとこの部屋から出たらいいだけの話なのだが、この時はなぜか彼女を見ていた。

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