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5甘重ネジ
元彼vs今彼 side遊川②
しおりを挟む──できすぎるくらいの男だな。
遊川にはそういう人物が、自分が勤める会社のトップであることが誇らしくもあり、同時に現実味のない男として映る。
「直属の部下でなくとも、社員を把握されているんですね」
「一度目を通せばだいたい覚えている」
当たり前のように告げられ、出来の違いをそんなところでも見せつけられた気分になった。
そして新たな疑問が生まれる。
「……なら、私のことも?」
「入社の際に一通り履歴書は目を通す」
「では、藤宮千幸のことは?」
「もちろん知っている」
揺さぶろうにも小野寺の反応は淡々としていて、普通に質問をするだけでは遊川が求める答えが出なそうだ。
仕事上、ずっと上の立場の相手であるが、遊川は転勤し数年はこちらに帰ってくることはないので、しばらくは表立って関わることはあまりないだろう。
だからこそわざわざ相手にこのような場を設けられたのだろうから切り込んでもいいかと、遊川はあの晩のこと、わだかまった部分に触れた。
「あの日、あれは偶然ですか?」
「偶然ではなく必然だと俺は思ってるが?」
宮下がいる時は私と話していたが、少し前からプライベートようにシフトチェンジした『俺』を小野寺は使っている。
小野寺がこれからの話を会社の立場を利用しようとは考えていないことも見えて、それさえもいい男ぶりを見せつけられているようで嫌になる。
「必然ですか……」
「それ以外にない」
断言されて、遊川どう言えばいいのか黙り込んだ。小野寺の意図することもわからない。
目の前の男との初対面の晩は、本当に一時の過ちから派生したことだった。不運とも呼べるそれは、遊川からしたら意味がわからない出来事であった。
その不運を目の前の男は必然と言い切る。
まるで運に見放された者と、運が巡ってきた者との違い。
「そこまでのものですか?」
「俺にとってはな」
「そうですか。でも、私は、俺はっ……」
結局、続く言葉が詰まる。
小野寺が急かすことなく、じっと遊川の話す言葉を待っているのさえもいたたまれない気持ちになった。
誤解を解きたいと切に願った彼女が帰ってきたら、男から見ても上質な男を二人連れて、弁明する時間も与えられず別れを切り出され、さっさと荷物をまとめて引っ越しをしてしまうなんて考えられるわけがない。
自分の過ちとは、女性を家に入れたことだけだと遊川は思っている。
浮気なんて考えもしないくらい千幸と過ごすのは心地よかった。
少しつれないところさえも可愛く、それを本人もわかっているからたまにカバーしようとする動きさえも愛おしい。
関係を大事にしたいと思っていた。
入社して必死に仕事を覚えながらも気遣いが上手な千幸を見て好感を持ち、徐々に好きが高まって告白し付き合い同棲までこぎつけた相手だった。
自分から壊すなんて考えもしなかった。
「……千幸を裏切ろうなんて考えもしなかった」
やっとのことで出た言葉は、虚しく自分に突き刺さった。
「だが、彼女が傷ついたのは事実だ」
「っ、わかってます」
冷静に切り返され、遊川は唇を噛む。
その日も家に入れたからと言って、他の女性に手を出そうなど思っていなかった。
強引に家に付いてこられ、遊川も相当飲んで酔っていたこともあり、相手もしんどいから休憩したい言われ、このまま放り出すのは鬼畜なのかと酔った頭で考えた。
千幸なら説明すればわかってくれると思っていたことが、おごっていたのだろうか。
その判断ミスが千幸を手放すことになってしまった。
酔った身体を想像以上の力で押され、誘うように服を脱いでくる女性に乗られ、男の理性が揺らがなかったとは言わない。
その後、あのまま押されていたらどうしていたかなんてわからない。その揺らいだ瞬間に千幸が帰ってきたからだ。
終わってしまったこと、してしまったことは変わらない。
こうなったすべては自分の責任だと理解している。理解しているが、納得がいかないものをずっと抱えていた。
「千幸と出会ったのも?」
「呼び捨てをやめたほうがいい。もう別れたのだから」
そこでぎろりと睨まれ、遊川はたじろぐ。
日本人では滅多にお目にかかれない榛色の瞳は、光の量や細めるだけで不思議な色合いを醸し出すとともに、小野寺のそれは綺麗すぎる怖さもあった。
──迫力ありすぎだろうっ! それに……
そこでにこりと迫力のある笑みを口端に型取り、じっと見据えてくる小野寺からチリチリとした気配が漂う。
その冷え切った眼差しが、空気が、もう答えを出していた。
確実に目の前の美貌の男は千幸に惚れている。
たったそれだけの動作で、遊川はそれをヒリヒリと焦げるように突きつけられた気がした。
「それ。わざとですか?」
「何が?」
「藤宮さんが好きだというのがだだ漏れですよ」
「ああ。隠してないからな」
見据える視線をそのまま小野寺は詫びれることもなく、ひりつく空気を和らげることもなく、察しがいいなとばかりに綺麗な笑みを浮かべた。
「ですよね」
当然のように宣言されて、遊川は意識して大きく息を吐き出した。
目の前の男の態度が気になったからといって、自分と違って堂々と好きだと告げることができるからといって、別れる原因を作ったのは紛れもなく自分であるのだ。
いろいろ思うことはあるが、千幸のことに対して自分は意見する立場ではないことは十分に理解している。してはいるが、この前まで付き合っていた女性とのことを違う男と話すのはとても複雑である。
気を抜くと淀んでいきそうな気持ちに軽く首を振り、あえて明るい声で告げた。
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