ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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5甘重ネジ

どういう関係ですか?④

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 取り繕うことのない態度は、自分が知る対外的な標準装備の笑顔の小野寺と、自分に対する変な甘さのある小野寺とも違う。
 友人だからこその態度なのかはわからないが、冷たく感じるのは初めてだった。

 それでもさすが友人というべきか。
 そんな冷たい視線も何のそのとばかりに肩を竦めた桜田は、小野寺ではなくまた千幸に「ごめんね」と謝罪した。

「さっさと話せ」
「えらそうに言うな。そもそも、はじめに無理を言ったのは翔だし」

 焦れた小野寺が急かすが、桜田はすっかり素を出して小野寺にべっと舌を出す。
 それにふんと鼻を鳴らし、さりげなく千幸が逃げないように肩に手を回してきた小野寺は言い捨てた。

「それはそれ。これはこれ」
「王様セリフ」
「うるさいな」
「借り分って言ったし。こっちだけが悪いわけじゃないと思うけど?」
「だから、それはそれだろう。とりあえずさっさと千幸の誤解を解かないと、俺、キレそうだ」

 静かに、ものすごく静かに告げたその言葉に、桜田はおろか千幸も緊張する。
 なに、そのセリフ。
 思わず桜田と視線を見合わせた千幸であったが、「何、見合ってるの?」と小野寺に目の前を手で遮られる。

「千幸は桜田なんか見なくていい」

 どこかで聞いたセリフ。
 どこまでもぶれない小野寺に呆れる。

「見ないと会話できませんが?」
「なら、俺を見て耳だけ傾けたらいい」
「だから、何でそうなるんですか?」
「千幸は俺だけ見てほしいから」
「…………誤解とやらを解きたくないんですか?」
「解きたいに決まってる。でも、桜田を見るくらいなら俺を見ててほしい」

 ──前から思っていたが、弥生さんに対しての嫉妬が……。いや、轟さんに対してもちょこちょこあるけど、そう変わらないというか。

 意味がわからない。
 千幸が怒ってもおかしくない状況なのに、それ以上の嫉妬を見せられて千幸のくすぶる怒りはあっけなく霧散した。

 こんな態度を取るということは、きっと千幸が納得のいく理由があるのだろう。
 そこまで長い付き合いではないが、一日一日が濃いのでそういう意味では千幸にはわかりやすく態度で見せてくれている相手を信用できた。

「ちょっと、イチャつくのは後にして」
「イチャつけてない。お前のせいでな」
「言うことかいて、それ?」
「ああ。俺にもミスがあるが、これは完璧に桜田が悪い」

 相変わらず、気心のの知れた会話が繰り広げられる。
 小野寺の言葉に、桜田が大きく息をついた。

「……わかった。わかったからさ。千幸ちゃん、そういうことでこれから説明するけど、まあ、これからも変わりなくいてくれたらと思うってことで」
「前置きが長い」
「うるさいな。こっちもいろいろ気持ちの準備がいるんだよ」
「桜田の気持ちは今はどうでもいい。話す気があるならさっさと話すだけだ」
「わかってるって」

 そんなやり取りをした後、ふっと桜田が真顔になった。
 桜田の大事な部分に関わるようなので、千幸は表情を改める。

「前に話したことがあったと思うけど、翔とは高校からの付き合いなんだ」

 ──????

「その時から関係があったということですか?」
「違う。違うから」

 言っていることがわからなくてそう訊ねると、桜田はその美しい顔をしかめて全力で否定した。

「ややこしい言い方するなよ」

 翔がちっとした打ち、さっさと結論を告げた。

「千幸、俺たちは男子校出身だ」

 ――……ん? んん? んんん?? えっ?

 驚いた千幸に、桜田が恥ずかしそうに眉尻を下げながら、赤い口紅を引いた口元を意味ありげに引いた。

「えっ? ええっ?」
「わあ、いい反応」

 照れたように笑う桜田を、思わず凝視する。
 どこからどう見ても、モデルにいそうな迫力美人で男性には見えない。だけど、男子校ということはそういうことで。

「桜田さんは男性ということですか?」
「そう」
「えっ? ということはどういうことですか? あっ、それ聞いてもいいんですか?」

 桜田の本質、大事な部分の話かもしれなくて、というか間違いなくそうで、やっとここで桜田の一連の反応を理解する。
 それと同時に、そこに触れてもいいものかと心配になった。

「うん。問題なし。というか千幸ちゃんにはこれからのためにも聞いておいてほしい。またこんな誤解が生じたらすっごく大変だし」

 大変と告げた時に小野寺をちらりと見て、桜田は大きく溜め息をつく。

「まず、訳あって女装してるだけで恋愛対象は女性だから。翔とは間違っても互いにない」
「訳あってと言ってるが、最近は楽しんでるだろ?」
「まあ、そこは否定しない。もともと線が細かったからイケるかなくらいで始めたら、いろいろ役立っちゃって今に至ります」
「そうなんですか」
「で、昨夜に翔のところに泊めてもらったのは、今俺の部屋に友人が泊まっているからが理由。そして、こうしてしっかり化粧して出ようとしたのは、相手が俺を本当に女だと思っているから言い出しにくくって」

 眉尻を下げて悩ましげに告げる桜田に、小野寺が追い打ちをかける。

「それだけじゃないだろ? 俺は千幸との約束もあるから早く寝る気だったのに、無理やり押しかけてきた理由も伝えるべきだ。じゃないと、千幸との約束を俺が軽んじたみたいになる」
「……わかった。ふぅ。ここからはちょっと相手のこともあるから、もし見かけても知らないふりしてほしいのだけど、いいかな?」
「はい」

 千幸がしっかり頷くと、桜田はほっと息を吐き出し少し遠くを見るように視線をやりながら話した。

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