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5甘重ネジ
どういう関係ですか?⑤
しおりを挟む「その友人は男なのだけど、そいつは同性が恋愛対象で、俺を女だと思ったまま俺に惚れたらしくって。女性で好きになったのは初めてだと言ってものすごく迫ってきてて、扱いに困ってる、みたいな…」
「だから、今も女装のままということですか」
「そう。とりあえず、男だとバレたらもっとやばいかなって。一応、女性だと思って加減してるっぽいし」
「加減……」
どこかで聞いたセリフに反応して繰り返すと、桜田がとっても疲れた溜め息をついて縋るように千幸を見た。
「意味わからないよな。異性の扱い方を迷い中ということらしいから、これ幸いと思って出てきたんだけど」
非常に困っているようだ。
悩ましげに眉を寄せる桜田は、また大きくはぁぁっと溜め息をついた。
その姿も美しい。男と知っても美人な女性の姿である。
ただ、ちょっと言葉遣いの違和感は拭えないが、これはこれで少し面白いと思ったので千幸は自然と笑みを浮かべた。
その横でぴくりと小野寺が眉を上げたが、千幸は違和感を慣れさせようとばかりに桜田をしげしげと観察した。
出会った当初から美人でも迫力があるなと思っていたのだが、女性にしては大きめの身長のせいかと考えていた。
こうして知らされる事実にすごく納得するものがあった。やはり線が細くても男性なので骨格の違いによるものだったようだ。
桜田は女装はするものの異性愛者であり、同性に迫られて困っているとのことらしい。
すっかり女性だと思っていた人が男性であったことも驚きであるが、それを知るキッカケも経緯も突飛で今だ衝撃の余韻が残っている。
「……ああ~、なんだか大変そうですね」
「そうなんだよ。俺、すっごく気の合う友達だと思って接してたから、昨夜はパニクって翔のところに駆け込んだ。変な誤解をさせてごめん」
パンッと手を合わせて勢い良く頭を下げて謝る桜田に、千幸はかぶりを振った。
「綺麗な女性で喋り方が俺とか男性の言葉遣いは慣れないですが、事情は理解しました」
「普段は女装したら、女性の言葉のスイッチが入るのだけど、咄嗟の時とか、あと今は真面目な話なのでいつもの俺の言葉で伝えたかった。変な感じかと思うけど、嘘偽りない言葉だと信じてもらえたら嬉しい」
「わかりました」
千幸がこくんと頷くと、桜田は心底ほっとしたように息を吐き出した。
「ああ~。誤解が解けたようで本当によかった」
肩の荷が下りたと桜田は今まで背筋を伸ばしていたところをソファに背を凭れ、「これでいいだろ?」と小野寺に聞く。
「ああ。後は二人で話す。桜田も嫌になれないから逃げてきたんだろうし、向き合ってこいよ」
「……気が重い」
綺麗に整えた眉を八の字にして、ふぅぅっと桜田は息を吐き出した。
「相手はもっと今は気が重いだろうな。しかも、告白した相手に逃げられてその相手は男の家にお泊まりって。桜田が男であっても女であっても相手には苦痛な話だろう。相手の気持ちが変わらなければ、時間をあけたところで何も変わらない」
悩む友人に小野寺が淡々とした顔で諭す。
「他人事」
「他人事だが、これでも桜田にはいろいろ感謝はしているから客観的に意見を述べたまでだ。それに嫌ならさっさと振ったらいいだけだろ? それができないから逃げてきたんだろうが。結局は向き合うことになるだろうと昨夜から言っている。逃げてばかりいないで、とりあえず話してこればいい」
「わかってるんだけどさ」
「わかってるなら動くのみだ。そうやって俺を焚きつけたのは桜田だろう。とりあえず向き合ってこい。千幸もそう思うだろ?」
話題を振られ千幸は、情けなく眉を下げている桜田に視線をやった。
その表情は、ただただどうしていいのかわからないと困っているだけのように見える。
「……状況が少ししかわからないですが、弥生さんは困りながらも本当に嫌そうには見えないので、もう少しお相手と話しをしたほうがいいのかと私も思います」
「……えっ? そう? そうなのかな」
癖なのか、長い髪をくるくると指で回しながら、落ち込んだように考え込む桜田はなんだか可愛い。
「そうはわからないが、告白されても嫌いになれないのだろう? なら、話すしかないじゃないか。二人で模索すれば?」
「まさか翔にアドバイスをもらう日がくるとは」
桜田が目を見開くと、小野寺は半眼になった。
「アドバイスではなく、事実を言っているだけだ」
「へぇ~、成長したな。恋がわからなかった男が」
「それ以上余計なことを言うなら、俺がお前の相手にあることないこと吹き込むぞ」
「わかったってば。本当、そういう冗談が今通じる感じじゃないんだって」
「そうか。なら、早く帰って話してこい。俺としては千幸が朝から家にいるのに、この時間が不毛すぎる」
「だから、悪かったてば。帰ります。千幸ちゃんもごめんね」
謝る桜田に小野寺はふんと鼻を鳴らすが、迷惑と口で言いながらもしっかり相手をしているあたり心配しているのだろう。二人の気安い態度の中に、お互いに信頼関係が見えて微笑ましい。
思わずな展開でほっこりしていると、小野寺が念押しとばかりに聞いてくる。
「ああ。千幸、そういうことで誤解はとけたな? 疑惑はないな?」
「…………」
あまりの勢いとちょっとしたヤキモキの報復に黙っていると、小野寺の手がするりと下り千幸の腰を撫でた。
密着しているので、千幸の空気が和らいだことをわかっていて小野寺も聞いているのだ。
「とけたな?」
こくりと頷くと、小野寺がにやりと笑う。
「それはよかった。あと、こいつの本当の名前は桜田弥生之介だ」
──弥生、之介。のすけ。この迫力美人が弥生之介。
さらりと告げられたそれを頭の中で繰り返す。ものすごく違和感ばりばりだ。
「千幸?」
「ああ、はい」
さすがに口は開けなかったが、心境的にはぽかんであった。
反応がないのに焦れた小野寺が、応答を求めてきたので慌てて頷いた。
目の前で桜田が赤い唇をぷっと突き出し拗ねる。その彼女、ではなく彼の本当の名前は弥生之介。
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