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5甘重ネジ
どういう関係ですか?⑥
しおりを挟む「それ、言う必要あったか?」
「いつか知るんだから、いいだろう」
「いつかって。ああ~、なるほど。っとに、その名前は古臭くて長ったらしいから嫌なんだけど」
「気にしなければいい。それはそれでいいと言ってるだろう? 弥生之介」
わざと名前をゆっくりと呼ぶ小野寺は、楽しげに口の端を上げて友人を見た。
すると、桜田は小野寺をキッと睨みつける。
「むかつく~。女装するようになってから、それ言われると本当嫌なんだけど」
「千幸には微塵も関係を疑ってほしくないからな」
「はいはい。わかりましたよ。悪かったです」
そんなやり取りを聞きながら二人の気負いない態度を見ると、千幸はなるほどと納得するものがあった。
二人とも気を張ることもなく自然体であること、桜田が小野寺を下の名前の翔と呼び、小野寺は名字の桜田と呼ぶことなど、高校からの付き合いというのならこの空気感はなんとなく理解できた。
今までの彼らの距離感ややり取りも、知った今だからこそ納得できる。
不服そうに唇を尖らせていた桜田だが、千幸と目が合うと笑みを浮かべ、小野寺を見てニヤリとほくそ笑んだ。
「完璧主義者に協力ってことで~」
そう言いながら桜田は席を立つと、ぷちぷちっとブラウスのボタンを外しだした。
真面目な話が終われば、女装している時は女性の言葉が身についているのかいつものノリで桜田がウインクする。
その変わり身の早さに呆然として見ていると、桜田は何を思ったのか千幸の右手をとって自分の胸を触らせた。
「おいっ!」
「えっ????」
「これが一番早いなぁっと。さすがに下はセクハラだし、これで男だと完璧にわかってもらえるし。私がどんな格好していても惑わされないでしょ?」
手を持たれ、服の中に手を入れさせられる。
これも見る人から見たらセクハラではないだろうかと思いながら、されるがまま触れることになった。
ブラジャーの下はたくさんパットが入れられていたようで、ぺったんこで筋肉質の胸の感触だ。
「本当に男性、ですね」
話を聞くだけではなくこうして見せられあまつさえ触らされて、説明を受けて疑惑はすっかり晴れてはいた。
それでもこの最後の行動によって、桜田が言うように最後のパズルのピースを当てはめるようにストンッと事実が入りしっかりと記憶された。
「そう。正真正銘の男です。なのでこれからも女装はするけど、小野寺とは男としての友人なんで変な誤解はしないでいいからね。というか、翔は千幸ちゃん一筋だから、あまり疑ってやらないでほしいというか」
「もういいだろう」
千幸の手を取って引き抜くと、そのまま小野寺が千幸の手を握りその感触を消そうとばかりにきゅきゅっと触り方を変えてきた。
「千まで説明って言ったから協力したのに」
「やりすぎだ。何度も言うが、千幸に触れるな」
「だってね~。やっぱりこんな格好していて、また何か誤解生まれても嫌だし。男ですよって示しとくのは身体見てもらうのが一番だし」
「なら、見せるだけでいいだろう」
確かに、と思ったけれど、桜田は楽しそうに笑って軽く言い返した。
「それはやっぱり体感しとこってね」
「これ以上はダメだ。千幸が毒される。それにそうやって自分の問題から逃げるなよ」
「……っ。わかったってば。お邪魔虫は退散します。千幸ちゃん、そういうわけで誤解させてごめん。それと、これからも翔をよろしく」
「はい」
こくりと頷くと、「いい返事~」と優しい声音とともににこっと桜田が笑い、千幸の横にいる小野寺を見て「っとに、熱いわ。こっちが照れるわ」と苦笑した。
千幸が視線を横へと向けると、小野寺は照れたように頬を染めはにかんだように笑いながら、桜田を睨んでいた。
器用で表情豊かな小野寺に、千幸はくすりと笑う。
「締まらない顔で睨まれてもさ。もうこれもずいぶん見慣れたけど、本当千幸ちゃんが絡む前と後では全然違うのよ。やっと人間らしいというか」
「桜田」
それ以上言うなと声を張った小野寺に、桜田はふふふっと笑う。
「だって~。いろいろ振り回された分、収まるところに収まって嬉しいし。やっぱり友人が幸せそうなのは見ていて気持ちがいいし、翔があたふたしてる姿とか面白いしね。だから、千幸ちゃんが離れたら翔はどうなるかわからないの。もう、千幸ちゃんは翔にとって不可欠な存在なのよ。万が一、腹が立って殴りたくなったら手伝うし、その前に相談してね」
「そんなことはさせない」
ぶすりとふてくられた小野寺の一言に、桜田は肩を竦めた。
「わからないじゃない。生きてきた場所や環境は違うものだし、帰国子女の翔とずっと島国で過ごしてきた私たちと認識のズレが全くないとは言い切れないじゃない。それに今日みたいなことはなきにしもあらずでしょ?」
「お前が言うか?」
「まあ、今日のことは悪かったと思ってるの。だから、私は千幸ちゃんの味方よ~って伝えておくのは千幸ちゃんにとって悪いことではないと思うけど」
そう言ってウインクした桜田は知っていても女性にしか見えず、不思議な感じだ。
だが、自分たちのことを応援してくれている人が身近にいると思うと心強い。
何せ、小野寺は規格外。
それを知っている人が他にもいるというだけ、この独特な苦労をわかってもらえる人がいると思うだけでも、気分は違うというか。
「ありがとうございます。心強いです」
そう告げならが、ふてくされたように鼻を鳴らした小野寺の足の上に手を置いた。すでに繋がれていた手ではあるが、さらにぐっと握り込まれる。
それにくすりと笑みを浮かべると、絡めあうように繋がれた。
それを見ていた桜田はぽかんと目を見開き、ふふふっと機嫌よく笑うとボタンを留め直し身支度を整えると席を立つ。
「余計な御世話だったかな。なんか、当てられたというか。まあ、私もちょっと頑張ってくるわ~。また、ゆっくり話しましょうね~」
髪をさっと靡かせると、玄関に置いてあった荷物を取り桜田は出ていった。
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