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5甘重ネジ
一歩②
しおりを挟む自分が自分でないようで、名前を呼び捨てで呼んで、敬語はなしでと言う小野寺こそ、そろそろ等身大の千幸を見てほしい。
それと同時に、そのフィルターが外れた時にガッカリだと思われるのも何だか怖くて、自分でもどうしていいのかわからない。
小野寺のもたらすそれらに、こそばゆさともどかしさを感じる。そして、言葉とキスに愛されていると満たされる。
自分でも結局どうしたいのかわからず、またピタリと重ねられた唇を甘受した。
「んんっ」
背中に回っていた小野寺の腕が、髪を愛おしそうに撫であげさらに力が込められ自分たちの隙間をなくす。
そのまま身体が傾いていき、押し倒される。
ぐいっと舌が喉奥を舐め、唇が放れると唾液が糸を引いた。
欲の孕んだ眼差しに、頭がくらくらした。
それと同時に欲とは無縁のように優しく髪を梳かれる。その相反するような行動にまで、胸がキュッと軋むのだから重症だ。
自分で放った『一歩』が、確実に千幸の中の意識を変えていた。
「キス魔ですね」
ここ最近キスばかりだと告げると、小野寺が額を合わせ、鼻先を擦り寄せる距離でささやかれる。
「千幸にだけだ」
ふっと微笑んだ小野寺が唇を触れ合わせた。
また、キス。
小野寺とのキスは甘くて、まるで毒のようだった。
甘い蜜。知れば知るほど、じわじわと千幸の中に浸透してくるようだ。
キスの分、思いが流れ込み確実に小野寺の存在を植え付ける。
柔らかな唇が吸い付くように自分の唇とくっつき、そのまままた舌を差し込まれた。
どこもかしこも柔らかくて、ぴたりとくっつくそれにもっと隙間を埋めたいとさえ思うほど気持ちいい。
キスの合間、合間で吐息とともに熱のこもった愛のささやき。
「こんなに胸が苦しくなるのも、焦がれるのも、そしてこんなにキスをしたいと思うのも千幸だけなんだ」
そう言う小野寺もまだ重なり足りないとばかりに、何度も角度を変えて隙間を満たそうとしてきた。
それと同時に深く舌をねじ込まれ、吐息さえも奪うように舌が絡められた。
「離れたくないと思うのも、離れた瞬間にまた腕の中に閉じ込めたいと思うのも、千幸だけ」
「んんっ、ふぅっ」
甘いセリフと声。何より、すべてを持って千幸が欲しいと向けられる欲望に気持ちが高ぶる。
きゅっと苦しく満たれるそれに、思わずこぼれた声がものすごく甘さを含み、恥ずかしい。
だけど、恥ずかしがっている暇もないくらい、態度と言葉で小野寺が攻めてくる。
千幸の反応を探るように時おり目を開けて、榛色の瞳が自分を捉えて離さない。くちゅりと室内に二人の唾液の混ざる音が響き、羞恥心を煽る。
さすがに唇が痺れ出し、はぁっと息苦しくなったところでようやく小野寺が唇を離した。
キスの余韻で濡れた唇は腫れ、乱れた呼吸が周囲の酸素を薄くする。
「手放す気はないから」
「……んっ」
熱のこもった瞳。恥ずかしげもなく告げられるそれは、胸の奥がそわそわし恥ずかしくて下を向く。
こんなにまっすぐに何度も愛を語られたことはなく、こんなに熱いものは知らない。
何より、熱いと感じるほどの人肌といまだに乱れて整わない呼吸のせいで、いつまでたっても熱が冷めそうになかった。
冷めぬ間もなく、熱っぽい吐息とともに「千幸」と掠れた声でささやかれる。
熱が溢れて止められないとばかりの視線に、千幸の脳は溶かされる。
言葉で表す好き、気持ちのともなう好き、そういったものはどうでもよくなった。
わからない感情はもどかしいが、今、こうして一緒にいて心地よくて溶けてしまいそうなのは事実で、それをもたらすのは目の前の男。恋人である小野寺翔だ。
その事実だけでいい。
「千幸はもう俺のものだ。勝手に離れようとしないでほしい」
それはさっき、二人の前から思わず逃げようとしたことを指しているのだろう。
それだけ、小野寺には肝が冷えたということなのか。そう思うと、やはり向けられる思いとともに目の前の人物が可愛い。
これほど想ってもらえる事実に、自然と表情が緩くなる。問いかける声も甘えたものになった。
「……なら、翔さんは私のもの?」
「当然だ」
言い切られて、こそばゆくなった。言葉遊びだ。だけど、惜しむことのない言葉にとくんと胸が高鳴る。
ちょっとした恋人同士の戯れでさえ、恥ずかしくて嬉しくて胸が満たされた。
軽いリップ音のあとそう告げられて、とぷんっと胸が弾ける。愛おしさに満たされながら、どこかで怯える自分を意識する。
想いを向けられて、そのまま返すことがまだ怖い。だけど、この人ならと気持ちが揺らぐ。
大好きで初めて付き合った人。その彼がいなくなった時にすごく千幸の心は傷ついた。
それでも、新たな恋をしたりとずっと傷心だったわけではない。
なのに、小野寺といるとたまにそのことが頭に掠める。胸が苦しくなる。
包み込まれるような愛が心地よすぎて、逆に不安になる。
それをも見透かすように、「信じて」と言われているようで、「大丈夫だ。好きだ」と言われているようで……。
キスされるたびにそれらは小野寺で埋め尽くされていく。
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