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6緩甘ネジ
あなたの色なら①
しおりを挟む直射日光がコンクリートに反射して熱を上げていく。
むわっとした熱気が漂い、店が開くたびに冷やされた空気を感じるだけでずいぶんと救われる気がした。
それと同時に中途半端に感じる冷気はもどかしくもあり、すごく暑いのに繋いだ手を外す気がおきない。
自分のこのくすぐったい気持ちを意識すると一層熱がこもる。
──翔さんといると自分らしいようならしくないような……
ベタベタするタイプではなくても、人肌は好きである。
ましてや付き合っている人である。好意があるから付き合うのであって、相手に好意を向けられ求められるそれは嬉しいし応えたい。
でも、拒否するわけではないけど暑いから嫌だと一言告げるタイプであったはずだ。
なのに、汗もかき物理的には離したほうがいいと思いながら、なかなか言い出せない。
自分より大きく節張った手なのに、その手を可愛いと思う自分は本当にどうかしてしまった。
もっと知りたいという欲求が止まらなくなった。
付き合い始めてどれだけ部屋で甘い時を過ごしていても、自分たちは一線を越えていない。
どこまで我慢するのか? とか、どれだけ理性保てるの? とか、もしかして魅力がない? とか、あれだけ愛をささやかれてもふと考えてしまうほど強固なものが小野寺にはあった。
付き合って一歩前に進んだはずなのに、たまに感じる気持ちの差。
千幸としては付き合うなかでぎこちなさや違和感は自然と埋まるもの、すり合わせる努力をすることがお付き合いだと思っている。
だけど、その差は小野寺には敏感に感じ取れるもので言動に支障をきたすほどのことらしいと、一緒にいると伝わってくる。
小野寺が千幸を意識してきた四年という歳月は、どうやらネジのつき方をおかしくさせてしまうほどの期間だったようで、やっぱり一筋縄にはいかない。
あれだけ好きだとアピールされ求められ気持ちもその気にさせられて、身体を許すのは難しいことではない。
初めてでもないし、ましてや自分たちは付き合っているのだ。千幸だって好ましく思っていて、変な人だけど今は小野寺と同じ意味で好きだ。
戯れに身体を触れ合わせながら、いつも苦しそうに熱い吐息とともに離れていく相手。
『これ以上は千幸が俺をもっと欲しいと思ってから』
そう言われて、欲しいとしっかり言えない自分。
『この先は貪り尽くすしかできなくなる』
そう鋭い眼差しで苦笑しながら言われれば、相手の身体の熱が欲しい、欲しくないという単純な話ではないのだと気づかされる。
『一度、それを味わえば手加減できる自信がない』
そっと身体のラインを撫でられて、ぴくりと強張る身体に『ほらね』と言われている気がした。
『大丈夫。壊さない。だから、早く……』
もっともっと俺を欲しがれと熱と空気で伝えられ、そう簡単に好きだとか欲しいだとか口にできなくなった。
ひたすら身体は熱を帯びいっこうに冷める気配がなく、きゅっと小野寺の手首を掴み、逃げたいわけではないと伝えるだけで精一杯。
そんな千幸に小野寺は少し目を眇め、唇の端が不穏な形で引き上がりペロリと唇を舐める。
『千幸は俺のものだ』
宣言とともに遠慮なく割り込んできた舌に口内を荒らされ、甘噛みされ、吐息すら吸われた。
唇は完全に小野寺のもの。口内もすべて、交わったところがないくらいいろいろ知られている。
『んん、そ、うです、ね。翔さん、も、私のもの』
睦言に息を切れ切れに同じように返すと、愛おしそうに身体を撫でられる。
その手はとても気持ちがよく、愛をささやく唇の愛撫に逃げるなと愛される日々。
すごくとろとろに甘やかされている。
手を取るまでは強引であったが、手を取ってからゆっくりとじわじわと距離を詰められている。
強引かと思えば理性的。
感情的に口説いておきながら、自重するように小野寺は一歩後ろに下がる時がある。
一歩下がられてとても寂しいと感じる。
でも、彼と同じように熱を返せていないのに、どう伝えればいいのかわからなくて結局反応できずに、愛されながらもどかしさは募っていく。
──なんて、ややこしい相手なのだろう。
それだけ真剣に愛してくれていると感じて嬉しいけれど、好きは同じ熱量でないといけないのだろうかともやもやする。
この関係を大事にしたい、育みたいと思う気持ちに、どっちが強いだとか優劣はつけられないと思う。
相手のことが知りたくて、小野寺の葛藤や強引なところ、向けられる思いのすべてが愛おしい、嬉しいと感じるのは好きだから。
好きだから、大事にされて愛されていることは疑う隙もないほどなのに寂しい。
この日常を愛おしいと思う今が、千幸の答え。
少しずつ好きは募り、自分の気持ちの変化は理解している。
だけど、そういうことではないのだろうと小野寺を見ていて思う。もっと明確な何かを小野寺は欲している。
そして、一歩下がり自重するのはきっと千幸のため。
二人の熱が離れていく時の、獰猛な視線は言葉通り千幸を『喰らい尽くしたい』と告げていた。
だから、その本人がそこで止めるというならば、本当にそこから先を越えれば『喰らい尽くされる』ということ。
好きだとか、大事にしたいとか、そういうもののもっと先。
欲望に触れる、本能に近いものを突き出されそれを受け入れる器が整うまで、『待ち』状態なのだと触れ合うたびにひりひりと感じた。
本当にとんでもない恋人だ。
いろいろ思い出しふっと息を吐くと、それを敏感に感じ取った小野寺が心配そうに千幸の顔を覗き込んだ。
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