107 / 143
6緩甘ネジ
好き、だから side翔③
しおりを挟む「いや。ただ、俺がもっとと欲張りになっているだけ」
悔しいけど、好きの容量は増えるだけ。
それを伝えると、呼吸一つ分の沈黙の後に告げられる言葉に翔は心臓が跳ねた。
「……翔さんだけではないですからね」
「何?」
今、なんて?
この流れで、俺だけではないとはどういう意味?
悔しそうに軽く唇を噛み上目遣いになるその眼差しが、どうしても可愛く見えてしまう。
驚きと期待を隠せずじっと見つめると、また呼吸一つ分の間。
その間は、千幸がしっかり考えて言葉に出して伝えようとしてくれていることを教えてくれる。
「……私だってその腕に飛び込みたいとか、もっと一緒に過ごしたいなって思うことあります。だから、翔さんが俺ばかりが好きみたいな態度は嫌です」
「そうなんだ?」
やばい。頬が緩む。
意識して表情を引き締め、千幸の一挙手一投足を見逃さないようにじっと見つめる。
咎めるような視線がさらに強くなり、それがまた嬉しい。
「そうですよ。だから、そろそろわかってほしいというか。ああっと、どう言えば伝わるんですかね。…………翔さん!!」
「何?」
「……前の付き合いの話とかするのはあまりよくないと思うのですけど、少し話を聞いてもらってもいいですか?」
躊躇いながら告げられる視線。過去の男の話。それらすべてが不快であるが、先を期待した翔はここで止めることはもう無理だった。
不承不承、肩を竦め先を促す。
「嫌だけど、千幸が話したいなら」
「すみません。ただ、そういったことを伝えないとこの気持ちが伝わりにくいかと思うので聞いてください」
「ああ」
「……その、私の気持ちのあり方の話なんですけど」
大事な話を伝えてくれようとしているのに、前の男のことはやっぱり嫌で。
翔はしぶしぶ頷いた。
「…………うん」
「今までのお付き合いも好きで付き合ってきて、その関係を大事にしたかった気持ちは本当でした。それが叶わないから終わってしまったんですけど。そういった思いは嘘ではなかったけど、いつもどこかでダメになる可能性も視野に入れていたんだなって今は思います」
そこで千幸が悲しそうに笑った。
「良い関係であればいいとそれが長く続けばと思う反面、人の思いは常に同じベクトルではないんですよね。環境は変わっていくし、それに伴い人は成長だってするし興味も変わります」
「言っている意味はわかる」
「はい。その結果、相手にもだけど自分にも求めるものも変わってくるのは仕方がないんです。そういった仕方がないと思う部分がいつもどこかにありながら、付き合っていたのかなと思うところはあって」
「…………それは」
続く言葉を持てなかった。千幸は悔いているようだが、翔はそういう悔いさえ派生しない付き合いばかりであったから。
千幸は寂しそうに続ける。
「だから、心の底から本気にならないようにとか。そうなった時にあまり傷つかないようにとか、良い関係でいようと思いながらもどこか冷静な部分とか。相手に対して失礼な部分が常にあったのかなと」
話を聞いていて、自分が傷つかないように自衛するのは仕方がない思う。
したくてしているわけではない。無意識に己を守ろうとすることは仕方がないのだろう。
でも、その仕方がないことを悔いているのか。
そして、なぜこんな話をするのだろうか。
元彼の話はやはり面白くなさすぎて、千幸の言わんとすることもなんとなくわかるがやはり嫌だ。
「正直、前の男との話はあまり面白くない話だな」
それに、千幸が予防線を張ってしまうというのは前に傷ついたことがあるからではないだろうか。
そういったことがあって、怖いと思うことがあって、だから知らず知らずのうちに自分を守ってしまう。その経験があるから自衛してしまう。
千幸のどこか遠くを見る表情がそう語っていて、その視線の先にいる相手に腹が立つ。心底面白くない話だ。
誰だ、千幸を傷つけたヤツは。
「だから、話すのはって前置きしたのですけど。その前のというか、私の気持ちというのを説明したくてなのでそこはスルーしてください。伝えたいことはまだ先なんでできたら聞いてほしいです」
「……わかった」
まだ続くようなので、自分に向けて伝えたいことがあると言われれば頷くしかない。
だから、しぶしぶと顎をひくと、寂しそうだけど優しい眼差しを向けられ、胸がきゅっと締め付けられる。
過去の男の話は腹が立つが、今、自分に向けられる眼差しは愛おしすぎて。
だから、嫉妬も、汚い感情も無理やり抑えつける。
終わったことをあれこれ言って、格好悪いところを見せたくない。変に触れて傷つけたくない。ドロドロしたものを無理やり押し込める。
そうできるのは、そうしたいと思うのは、惚れた弱みというやつなのだろうか。
「翔さんも知っての通り、そういう部分も原因で前のこともあったのかなって。相手もこういった私に不安というか、ただでさえ甘えるのは下手で物足りないというか。そういった部分をうっすらとでも感じ取っていたからあの結果なのかなって今は思うんです」
「……千幸が思うならそういうこともあるのかもな」
二人にしかわからないものはあったのだろう。
面白くはないが、腹も立つが、今さらの話なのでつっかかることなく先を促す。
「はい。大事にしてもらっていたと思うし、終わり方はあれでしたけど信じていた部分を全部否定したくはありません。後日話す機会があった時もそうだなって思いました。見ていたもの、感じていたもの、付き合った時間まで無駄ではないと。だから最後はお互いに悪いんだろうなって」
「戻りたいとか?」
そういうことではないとわかっているが、むっとして思わずそう聞いた。
元彼との時間。知らない千幸の時間。思い。
そういうのを見せつけられ押し込めようとした嫉妬が顔を出す。
「違います。こんな話をしている私が悪いとは思いますが、さすがに怒りますよ」
むっと拗ねたように睨まれて、すぐさま否定が返ってきたことにほっとする。
22
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる