ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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7激甘ネジ

今思うこと⑤

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「わっ、やっぱりイケメンよねぇ」

 多田母は素直な感情をぽろりと吐き出し、母なんかは、「どこの王子様?」っとからかい半分で千幸を見てくる。
 千幸も千幸で身内の前でそんな表情をされて、全身がかゆくなるくらいこそばゆくなった。
 姉なんかは、義兄に「ちーちゃんが珍しく照れてる。めっちゃ貴重~」とこそこそとだが聞こえるように話している。

「ちょっ」

 ──スッ、スト~ップ!

 身内とほぼ身内のような人たちばかりのなか、彼氏を褒められ反応を観察されるのは羞恥プレイだ。
 何より小野寺の変わらぬ態度。

「からかうの禁止」
「からかうわけないじゃないか。心配されてるみたいだから、仲良くしてますよって言っただけだし」

 ねっ、と覗き込んでくる。
 よくよく見ると、からかうような色がその双眸には混ざっている。

「さっきの」
「さっきの?」
「…………もういいです」
「こういうところが可愛いですよね?」

 と、母と多田母を見る。

 ──ちょっ、また色気出てますけど!?

 自分の隣の席に座っていた母と多田母がうわぁっと頬染めてますけど?
 年上も魅了するのか。この人は。

 造形がよいって微笑むだけで相乗効果があるんだなと、母たちの反応で実感しながらちらりと母を見る。
 特に好きも嫌いもないけど、生のアイドル美に思わず鼓動を高鳴らせる主婦って感じだ。

「ファンになっちゃう」
「そうよねぇ」
「じゃ、ファンクラブ入ろうかなぁ」
「じゃ、私も」

 姉と多田長兄のお嫁さんもノリよく交じり冗談半分で言い合っているが、ファンクラブなんてあったら本当に入会しそうだ。
 だが、姉よ。あなたは新婚なのだからそういうのはやめとこうよ。

 義兄は笑っている。やっぱり大らかな旦那さんだ。
 相手は身内の恋人だから許されているとはわかるのだが、楽しいことは楽しまないととばかりにここでずっと過ごしてきた女性陣は小さなことでも楽しめる。

 接客業で自営業だと休みもあってないようなものだし、こんなふうにミーハーに騒いでいても家族や仕事を優先的に考えているので、ちょっと行き過ぎた空気もここの男性陣は理解して静観する。
 ふふふっと笑い合っていた母だったが、にんまりと目を細めると聞きたくて仕方がなかったと期待のこもった眼差しを千幸に向けてきた。

「そうそう。私、聞いてないのよね。彼氏を連れてくるってことだけで詳しいことは話さないし。昔から自分のことあんまり話さないから、母として寂しいのなんのって」
「別に話すことって……」
「ないとは言わないわよね」
「えっ。ないけど?」

 親に何でもかんでも話す年齢でもないし、本当に大事なことは報告しているつもりだ。

「千~幸~っ! ここに小野寺さん連れてきたってことは、話を聞かれてもいいって思ってるのだけど」
「まあ、確かにそうだけど」

 ただ、今まで隠すつもりもなかったが、積極的に己のことを話すという感じでもないというだけで。
 そこでちらりと小野寺を見る。
 小野寺は楽しげに目を細めるだけで、千幸がどのように伝えるのか待つようだ。

 ──うぅぅぅ、すっごく期待されてる気がする。そして、若干意地悪モードだ。

 そうなる心当たりがないわけでもないので、少し負い目。
 それと同時に何度も言うが、別に隠す意図はないので話すなら話す。だけど、こういう場はやけに気恥ずかしくなって言葉がスムーズに出てこない。

「えっと、小野寺さんは今勤めている現在の社長ではないのだけど、今の会社を立ち上げた人でいくつもの会社の経営者。それで同じ大学の先輩でいろいろあって今は隣に住んでる」

 いろいろ。本当にいろいろあったがここでは省略だ。
 深く突っ込まれても話せる自信もないので、必要最低限の情報を述べる。

「経営者? って結局社長ってこと? それか、そのまた上の方だよね。まあ、そんな人と」
「わあ、社長さん」
「へえ、というか隣?」
「大学の先輩って?」

 それぞれの質問に千幸は曖昧に微笑み、小野寺を見る。

「うん。後から知ったのだけど。そうですよね?」

 バトンタッチだ。バトンタッチ。彼自身のことは彼自身に話してもらおう。
 小野寺は千幸にしかわからないくらいににっと口端を引き、少し照れたように眉根を寄せて周囲を見回した。

「はい。そうですね。隣に住むことになったのも偶然・・ですし。大学の時も千幸さんはこちらを認識してなかったので。俺は知ってましたけど」

 そう言うと、愛おしそうに千幸を眺める。
 今日はそういった眼差しばかりだ。いや、今日・・もと言ったほうがいいのだろうか。

 やっぱり、小野寺は小野寺だ。身内がいようがいまいが、千幸が好きというのが本人曰く溢れるらしいので仕方がないのか。
 とにかくだ。身内の前でいつも通りに雄弁に語られるそれらは恥ずかしいの一言に尽きる。

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