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第四章
第四章①-ex(6日目)
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昨晩へ遡るーー僕はグレンと毎日の念話をしていた。例の、"定例会話"だった。
『てっきり、しばらく念話はないものと思っていました』
『この通り体は問題なければ、お主と話す時間も存分にあろう』
僕が伝えると、グレンは不本意そうに唸る。僕の心配する気持ちはまるで伝わっていないようだった。ただ、体が問題ないとかは念話じゃ分からないけど、強がりはしてなさそうだし、本人の言葉を信じることにした。日中、最後に会ったときの言葉を思い出す限り、癒しの泉に行くとか言っていたから、それで回復することができたんだろう。
『それでは、今日は何を話せばいいですかね?』
『そうだな。お主と直接話せもしたから、人柄は何となく分かったつもりだ。今日は逆にお主がワシに聞きたいことを聞くが良い』
それはまた難しい――いや、聞きたいことはたくさんあるけど、地雷系の質問をしてしまうことを恐れているんだ。ないとは思うけど、気を悪くしてへんな契約を追加されちゃうとか。いや、それはないか。
僕は少しの間黙ってしまった。その間に、気を悪くしたようなグレンが先に反応した。
『ワシに興味ないのか』
『いや、待ってください!……何でもいいんですよね?』
『無論なんでもよいぞ』
本人がそう言うなら、グレンのプライベートよりも、僕の旅に関わることを聞いても……いいよな?
そう考えた僕は、恐る恐るも"一連の出来事"を尋ねてみることにしたのだ。
『あの、気を悪くしないてくださいね。実は先程訪れた村が、一ヶ月ほど前に"黒いドラゴン"に襲われたらしいのです。そこが結構な被害で……何かご存知だったりしないかなと』
思い切ってストレートに聞いてみることにして、包み隠さず尋ねてみた。すると、グレンは返答を考えているのか、喉を唸らせて間を空けた。
この様子だと、何か知っているはずだ――と言うか、ドラゴン界隈ってそもそも狭いなら、嫌でも知っているのかもしれないよな。
考えを巡らせていると、長考を終えたグレンが返答した。
『……黒いドラゴン、若いあいつやも知れぬな。場所はどこだ?』
『ハイエル村というところです。グレンさんと別れた近くにありますよ。もしかして……行くつもりですか?そのドラゴンが存在した痕跡とかはあまり多くなさそうでしたけど』
やはり、グレンは黒いドラゴンを知っていた。そして、そのドラゴンに襲われた村を探りにでも行くのだろうか。興味深そうにしている。
『同胞がしでかした過ちを見て回らないとな。それでは、今から行く故、これで念話は終了としよう』
『念話は終わり?今から行くんですか?』
グレンにしては短いやり取りだった。しかし、体調はもちろんのこと、クルエスの存在など心配な面は他にも多数あるのだ。
『グレンさんの怪我はーー万全ではありませんよね?……そして、僕たちの敵はあなたも標的にしているかもしれません。心配なんです。少なくとも、今日は体を休めてください』
『ワシのことは心配するでない。体は無事だし、山から降りるときの輩は、魔力不足故、守りに遅れを取っただけだ……だが、そうだな、今日は大事を取って休むとしよう。あとこの先、夜は当然ながら昼間も念話でやり取りできないかもしれん』
グレンがしゅんとした声でそう告げた。唐突に就寝前のルーティンが無くなることになり、とても驚いた。何より話好きなグレンの言葉に驚きを覚えたし、これからやり取りが出来なくなるなら、僕も伝えるべきことを伝えておく必要があったのだ。
『あの、それなら……三日後にグレンさんの力を借りたいんです。それまでしっかり体を癒してもらってーーまた助けてくれますか?』
今度もまた、ストレートにお願いをしてみた。もし、今日まで助けてくれたのは気まぐれだったなら、断られても納得するしかない。でも、グレンはーー
『当然ではないか!いつでも連絡をよこすが良い』
と、やっぱり快諾してくれた。満面の笑みが想像できるような、陽気な声だった。疑ったのが申し訳なくなってしまうほどだった。だからこそ、僕は踏み込んだ話をしたいと思った。
『あの、最後に』
『なんだ?』
『いえ、最後って、今日の最後に、ってことなんですけど、教えてください。なんで"僕"だったんですか?なぜ、僕と契約をしたんですか?前にも聞きましたけど濁されて、でもそれがずっと気になっいて……教えて欲しいんです』
『それは……次に会ったとき話そう。ではな!』
僕の想いなぞ露知らず、一方的に念話は切れた。いつもの気まぐれで念話を切られたんだろうから、不思議ではなかった。またそのうち夜の念話が始まったら続きを聞こうと思った。
でも、やっぱりグレンのことは心配だーー
僕は、静かになった途端に生まれた静寂を噛み締めながら、眠りに落ちた。
『てっきり、しばらく念話はないものと思っていました』
『この通り体は問題なければ、お主と話す時間も存分にあろう』
僕が伝えると、グレンは不本意そうに唸る。僕の心配する気持ちはまるで伝わっていないようだった。ただ、体が問題ないとかは念話じゃ分からないけど、強がりはしてなさそうだし、本人の言葉を信じることにした。日中、最後に会ったときの言葉を思い出す限り、癒しの泉に行くとか言っていたから、それで回復することができたんだろう。
『それでは、今日は何を話せばいいですかね?』
『そうだな。お主と直接話せもしたから、人柄は何となく分かったつもりだ。今日は逆にお主がワシに聞きたいことを聞くが良い』
それはまた難しい――いや、聞きたいことはたくさんあるけど、地雷系の質問をしてしまうことを恐れているんだ。ないとは思うけど、気を悪くしてへんな契約を追加されちゃうとか。いや、それはないか。
僕は少しの間黙ってしまった。その間に、気を悪くしたようなグレンが先に反応した。
『ワシに興味ないのか』
『いや、待ってください!……何でもいいんですよね?』
『無論なんでもよいぞ』
本人がそう言うなら、グレンのプライベートよりも、僕の旅に関わることを聞いても……いいよな?
そう考えた僕は、恐る恐るも"一連の出来事"を尋ねてみることにしたのだ。
『あの、気を悪くしないてくださいね。実は先程訪れた村が、一ヶ月ほど前に"黒いドラゴン"に襲われたらしいのです。そこが結構な被害で……何かご存知だったりしないかなと』
思い切ってストレートに聞いてみることにして、包み隠さず尋ねてみた。すると、グレンは返答を考えているのか、喉を唸らせて間を空けた。
この様子だと、何か知っているはずだ――と言うか、ドラゴン界隈ってそもそも狭いなら、嫌でも知っているのかもしれないよな。
考えを巡らせていると、長考を終えたグレンが返答した。
『……黒いドラゴン、若いあいつやも知れぬな。場所はどこだ?』
『ハイエル村というところです。グレンさんと別れた近くにありますよ。もしかして……行くつもりですか?そのドラゴンが存在した痕跡とかはあまり多くなさそうでしたけど』
やはり、グレンは黒いドラゴンを知っていた。そして、そのドラゴンに襲われた村を探りにでも行くのだろうか。興味深そうにしている。
『同胞がしでかした過ちを見て回らないとな。それでは、今から行く故、これで念話は終了としよう』
『念話は終わり?今から行くんですか?』
グレンにしては短いやり取りだった。しかし、体調はもちろんのこと、クルエスの存在など心配な面は他にも多数あるのだ。
『グレンさんの怪我はーー万全ではありませんよね?……そして、僕たちの敵はあなたも標的にしているかもしれません。心配なんです。少なくとも、今日は体を休めてください』
『ワシのことは心配するでない。体は無事だし、山から降りるときの輩は、魔力不足故、守りに遅れを取っただけだ……だが、そうだな、今日は大事を取って休むとしよう。あとこの先、夜は当然ながら昼間も念話でやり取りできないかもしれん』
グレンがしゅんとした声でそう告げた。唐突に就寝前のルーティンが無くなることになり、とても驚いた。何より話好きなグレンの言葉に驚きを覚えたし、これからやり取りが出来なくなるなら、僕も伝えるべきことを伝えておく必要があったのだ。
『あの、それなら……三日後にグレンさんの力を借りたいんです。それまでしっかり体を癒してもらってーーまた助けてくれますか?』
今度もまた、ストレートにお願いをしてみた。もし、今日まで助けてくれたのは気まぐれだったなら、断られても納得するしかない。でも、グレンはーー
『当然ではないか!いつでも連絡をよこすが良い』
と、やっぱり快諾してくれた。満面の笑みが想像できるような、陽気な声だった。疑ったのが申し訳なくなってしまうほどだった。だからこそ、僕は踏み込んだ話をしたいと思った。
『あの、最後に』
『なんだ?』
『いえ、最後って、今日の最後に、ってことなんですけど、教えてください。なんで"僕"だったんですか?なぜ、僕と契約をしたんですか?前にも聞きましたけど濁されて、でもそれがずっと気になっいて……教えて欲しいんです』
『それは……次に会ったとき話そう。ではな!』
僕の想いなぞ露知らず、一方的に念話は切れた。いつもの気まぐれで念話を切られたんだろうから、不思議ではなかった。またそのうち夜の念話が始まったら続きを聞こうと思った。
でも、やっぱりグレンのことは心配だーー
僕は、静かになった途端に生まれた静寂を噛み締めながら、眠りに落ちた。
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