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第五章
第五章②-ex(アリシア)
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私は、思いの丈をゾラへすべて話した。事の発端でもある初めての依頼から、この何日かの内に巻き起こった数多くの出来事ーー
ゾラは、私の一言一言を目を見ながら聞いて、頷いて、真面目に受け止めてくれた。幾時間が経って私の話に区切りがついたときも、揺れる馬車は、未だ目的地へ到着していなかった。
「……沢山悩んで、悩んで、悩んだ結果であれば、後悔する必要ないわ。あの子達もそれはわかっているはずよ。だからこそ、あなたの意志を尊重して別れるという決断を、"みんな"が受け入れたのよ。あなたに責任はありません。これから何を基に前を向いていくのかが大事だと思います」
ゾラに話す前よりも気持ちが晴れていることに気が付いた。前を向いて先に進みたいと、自然とそう思えたのだ。
「話を聞いて頂き、ありがとうございました。でも、ひとつ教えてください。多分、私よりあなたの方が辛い決断をしてきているはずです。どうやって乗り越えてきたんですか?」
「ーーまず、大前提として否定させて頂くけど、あなたより辛い経験をしてきたということはないわ。誰かの経験は、誰かにとって財産であったとしても、他の誰かには損失にしかなりえないということは、ままある話。辛かったと感じてきた経験は沢山あるけど、もしかしたらあなたなら取るに足らない出来事だったのかもしれない。"あなたの方が辛いから私は頑張りが足りない"とか、"辛そうな経験には必ず得るものがある"とか、思い詰めたり、過度に期待しちゃダメ。いい?」
私は無言で頷いた。その言葉の重みが身に沁みたし、素直に納得できた。
「その上で――私の行為は全て、私の仲間を踏みにじったうえで成り立っているのです。生まれ育った村の仲間ーー息子はもちろんのこと、グレンというドラゴンも。あなたにへどんなに偉いことを言っても、大義名分があったとしても、結果として、どれも自分が生き永らえるための決断でしかなかった。私は今もまだ乗り越える段階にたどり着けていないのです。だからこそ、私のように仲間を蔑ろにしてほしくなくて、私はただの反面教師でしかないのです――さて、聞こうか聞かまいかと考えていたんだけど、あなたはこの先、どうするの?」
突如私のことを聞かれた。多分今何を決断しろと迫られているわけではなく、これから何をしたいのかということ……そこで、ふいに原点に戻ろうかということが脳裏をよぎった。
「私は元々、孤児院に入るような人を減らしたかったんです……だから、一度、孤児院に戻りたいと思います。一度帰って、自分と向き合いたいなって」
「それがいいわ。私以外の人にも話を聞いてもらうのがいいわ。それにしても、あなたは孤児院の出だったのね……実は私にも知り合いがいるのです。どちらの出ですか?」
「辺境なのでご存知ないとは思いますが、孤児院アイデルです。ちなみに、昨日の仲間――ハルも知り合ったばかりですが、同じく孤児院から出発しています」
すると、ゾラの顔がぱあっと明るくなって、声が一段と高くなった。
「え、私の知っている孤児院と同じよ。じゃあ、シスター、エリナは知っている?」
私は当たり前だという表情で頷いた。あの孤児院の顔といえばシスターなのだから、数珠繋ぎで知っていて当然だ。
「実は、あの人は古くからの知り合いでね。何度も助けてもらったわ。……もしかしたらこれも巡り合わせなのかもしれないわね」
「私もシスターに命を助けられたんです。実は昔、サヌールでーー奴隷として過ごしていました。その時に手を差し伸べてくれたのが彼女でした」
「エリナが奴隷から救った?……あの、失礼でなければあなたのスキルを教えてもらえる?」
突然の問いかけに疑問を抱いたが、隠すほどのことでもないので答えることにした。
「スキルレベルが高いものだけに絞ると、『魔法』は水と風がそれぞれ9、『技能』は近撃が8、気配察知が6です」
「それはまた……なるほど、エリナがあなたを見出したのかもしれないわね……ごめんなさい。話を脱線させてしまって。言いたくない過去だっただろうに、喋らせてしまったわ」
「あ、でも成り行きはそれくらいです。奴隷落ちしたのも両親が行方不明になったことが原因でしたが、シスターはそんな私を両親替わりとして育ててくれたんです――ああ、すいません、こちらこそ楽しくもない昔の話を話してしまいました」
話の流れで泥水をすすった過去の話を話してしまった。すると、ゾラは少しだけ記憶を手繰るような仕草をして、真面目な顔で聞いてきた。
「……もう少しだけーー失礼でなければ、ご両親が行方不明になったのはいつの話?」
「そうですね……ちょうど10年前だと思います」
ゾラは顎に手を当てて考え始めた。そして、もう一度私を見、質問した。
「ーーお父様とお母様のお名前は?」
「えっと、父がディオン、母がメリナがです」
それを聞いたゾラは、「なんてことなの」と小声で嘆き、私の顔を何度も見た。
「確かに、面影があるのかもしれない――これも運命なのかもしれないわ。このあと、私の家に来なさい。ミストラ村の近くにあります。あなたには知る権利があります。あなたの両親の最期をね」
ゾラは、私の一言一言を目を見ながら聞いて、頷いて、真面目に受け止めてくれた。幾時間が経って私の話に区切りがついたときも、揺れる馬車は、未だ目的地へ到着していなかった。
「……沢山悩んで、悩んで、悩んだ結果であれば、後悔する必要ないわ。あの子達もそれはわかっているはずよ。だからこそ、あなたの意志を尊重して別れるという決断を、"みんな"が受け入れたのよ。あなたに責任はありません。これから何を基に前を向いていくのかが大事だと思います」
ゾラに話す前よりも気持ちが晴れていることに気が付いた。前を向いて先に進みたいと、自然とそう思えたのだ。
「話を聞いて頂き、ありがとうございました。でも、ひとつ教えてください。多分、私よりあなたの方が辛い決断をしてきているはずです。どうやって乗り越えてきたんですか?」
「ーーまず、大前提として否定させて頂くけど、あなたより辛い経験をしてきたということはないわ。誰かの経験は、誰かにとって財産であったとしても、他の誰かには損失にしかなりえないということは、ままある話。辛かったと感じてきた経験は沢山あるけど、もしかしたらあなたなら取るに足らない出来事だったのかもしれない。"あなたの方が辛いから私は頑張りが足りない"とか、"辛そうな経験には必ず得るものがある"とか、思い詰めたり、過度に期待しちゃダメ。いい?」
私は無言で頷いた。その言葉の重みが身に沁みたし、素直に納得できた。
「その上で――私の行為は全て、私の仲間を踏みにじったうえで成り立っているのです。生まれ育った村の仲間ーー息子はもちろんのこと、グレンというドラゴンも。あなたにへどんなに偉いことを言っても、大義名分があったとしても、結果として、どれも自分が生き永らえるための決断でしかなかった。私は今もまだ乗り越える段階にたどり着けていないのです。だからこそ、私のように仲間を蔑ろにしてほしくなくて、私はただの反面教師でしかないのです――さて、聞こうか聞かまいかと考えていたんだけど、あなたはこの先、どうするの?」
突如私のことを聞かれた。多分今何を決断しろと迫られているわけではなく、これから何をしたいのかということ……そこで、ふいに原点に戻ろうかということが脳裏をよぎった。
「私は元々、孤児院に入るような人を減らしたかったんです……だから、一度、孤児院に戻りたいと思います。一度帰って、自分と向き合いたいなって」
「それがいいわ。私以外の人にも話を聞いてもらうのがいいわ。それにしても、あなたは孤児院の出だったのね……実は私にも知り合いがいるのです。どちらの出ですか?」
「辺境なのでご存知ないとは思いますが、孤児院アイデルです。ちなみに、昨日の仲間――ハルも知り合ったばかりですが、同じく孤児院から出発しています」
すると、ゾラの顔がぱあっと明るくなって、声が一段と高くなった。
「え、私の知っている孤児院と同じよ。じゃあ、シスター、エリナは知っている?」
私は当たり前だという表情で頷いた。あの孤児院の顔といえばシスターなのだから、数珠繋ぎで知っていて当然だ。
「実は、あの人は古くからの知り合いでね。何度も助けてもらったわ。……もしかしたらこれも巡り合わせなのかもしれないわね」
「私もシスターに命を助けられたんです。実は昔、サヌールでーー奴隷として過ごしていました。その時に手を差し伸べてくれたのが彼女でした」
「エリナが奴隷から救った?……あの、失礼でなければあなたのスキルを教えてもらえる?」
突然の問いかけに疑問を抱いたが、隠すほどのことでもないので答えることにした。
「スキルレベルが高いものだけに絞ると、『魔法』は水と風がそれぞれ9、『技能』は近撃が8、気配察知が6です」
「それはまた……なるほど、エリナがあなたを見出したのかもしれないわね……ごめんなさい。話を脱線させてしまって。言いたくない過去だっただろうに、喋らせてしまったわ」
「あ、でも成り行きはそれくらいです。奴隷落ちしたのも両親が行方不明になったことが原因でしたが、シスターはそんな私を両親替わりとして育ててくれたんです――ああ、すいません、こちらこそ楽しくもない昔の話を話してしまいました」
話の流れで泥水をすすった過去の話を話してしまった。すると、ゾラは少しだけ記憶を手繰るような仕草をして、真面目な顔で聞いてきた。
「……もう少しだけーー失礼でなければ、ご両親が行方不明になったのはいつの話?」
「そうですね……ちょうど10年前だと思います」
ゾラは顎に手を当てて考え始めた。そして、もう一度私を見、質問した。
「ーーお父様とお母様のお名前は?」
「えっと、父がディオン、母がメリナがです」
それを聞いたゾラは、「なんてことなの」と小声で嘆き、私の顔を何度も見た。
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