ホシは誰だか知っている、が

崎田毅駿

文字の大きさ
13 / 14

13.解決と解釈と想像と

しおりを挟む
「そう。せめて、普通に受験して、社会の厳しさの一端を知っておけ、みたいなこと言ってた。……これ、お父さんが死んだのと関係あるの?」
「あるかもしれないんだよ」
 私は曖昧に答える他なかった。
「信じられない」
 震えが来たかのように首を振る神取知子。うなじが隠れる程度に切りそろえられた髪が、ふわりと広がる。これまで会ってきた彼女のクラスメイト達も、判を押したように同じ髪型だった。
「私も調べている途中でね。それよりも話の続きだ。あの日――事件の日に君の家に来ていた友達の中で、君が違う高校に行くことになるかもしれないと知っていた人、いる?」
「……みんな知ってるわ。何でも話せる友達だから、誕生日に呼びもするんだし。そうでなかったら、パーティなんて恥ずかしいこと、できない」
 そういうものか。またどうでもいいことを気にしながら、私は次の問に移った。
「反対した友達、大勢いたよね?」
「それは、まあね。ほとんどみんな、反対。私だってみんなと一緒に上がりたいし」
「特に強く反対した子、いるかな。その、印象に残るぐらい強く反対したって意味だけど」
「ん……。そう言われたら、ユカが」
「ユカって」
 私がニックネームについて聞き返すと、相手ははっと気付いたように言い足した。
「外山優香。『ゆうか』を縮めて『ユカ』よ。おじさん、みんなにも会ってるんでしょ? 誰が誰だか分かる?」
「あ、ああ。何とかね」
 ここでも曖昧な返事。本当は犯人の顔と名前を忘れるなんて、できるはずもない。それにしても、やはり外山優香か……。
「それで――」
 重ねて質問しようかと思ったが、やめた。これ以上続けると、この少女に勘付かれてしまうかもしれない。父親を殺されただけでもショックだろうに、その犯人がクラスメイトだと知れば、心的衝撃は少なくとも倍加されるに違いない。
「……どうしたんです、途中で黙って?」
「あ、いや、やっぱりいい。今日はこれでいいよ。色々と答えにくいことも答えてくれてありがとう」
 最後まで、私は曖昧を通した。

 事件は解決した。だが、嫌な気分だった。
 私は自分の調査結果を基に、知り合いを通じてこの事件を担当している捜査陣に進言した。結果、外山優香は意外なほどあっさりと犯行を認めたらしい。
 親友たる知子の進学について、知子の父親の神取氏が口出しし過ぎると感じていた外山優香は、誕生パーティの日、機嫌よさそうな知子の父を見て、今なら自分みたいな中学生の言うことでも素直に聞き入れてくれるかも、と期待。一人でこっそりと、神取氏に会いに行ったという。そして知子の生き方を一つに縛るようなことはしないでほしいと、願い出た。
 ここで神取氏はかんしゃくを起こしたように怒りを露にした。その様が、あまりにも自分達『子供』の立場をおとしめるような物言いだったので、彼女は発作的に強烈な反感――殺意に近い――を抱いたらしい。相手が背を向けた隙に、手近にあったブロンズ像を手に取ると、勢いをつけて素早く神取氏の頭部を一撃。神取氏はあっけなく、動かなくなった。血が少し飛び散ったが、大したことはない。念のため、ブロンズ像の血と部屋のあちこちに着いたであろう指紋を拭き取り、部屋を出た。恐らく、午後一時半ぐらいの出来事だったろうという話である。
 一時半に『犯行』があって、一時間後の二時半に、神取氏は娘達の前に姿を見せている。つまり、神取氏は即死ではなかった。脳内の出血はその量が極わずかずつの場合、頭部に衝撃を受けてから時間を置いて死に至るケースがある、という話はあとから聞いた。北川君による「アリバイ工作をしたか?」の問いに、外山優香がノーと答えた背景がこれで理解できた。
 では、何故このとき、神取氏は外山優香に殴られたことを誰にも言わなかったのか。こればかりは想像するしかないが、神取氏自身、自分の言葉があまりにも大人げなかったと後悔を覚えていたのではないか。そして外山優香に謝罪するために部屋から出たものの、外山はすでに帰ってしまっていた。それなら他の者に聞かせる話ではないと考え、また自室に戻った……こんなところではないかと想像する。
 残る問題は血文字のDだ。これも、警察の現実的な想像によって、次のような解釈が与えられた。もし犯人を示すために書き遺すのなら、わざわざ血文字で書かなくてもいい。部屋にはいくらでも筆記用具があったのだから。故に、この血文字は被害者が書こうとして書いた物ではなく、頭部の出血具合を手で何度か確かめる動作が重なり、たまたまDという字の型ができあがったのだろう、と。

「京極、ありがとう」
 仕事場に私を訪ねてきたデウィーバーは、大げさな身ぶりで感謝の意を示してくれた。私の両手を大きな手で包み込み、何度も上下に振る。
「本当に助かった、よ。こんな結果が待っているとは、思いもしなかったのですが……」
「君が気にする筋合いじゃないよ。濡れ衣を着せられていたんだから……っと、濡れ衣って分からないか?」
「分かる分かる。知り合い何人かによく言われたから。やってもいない罪をやったと言われること、だね」
「まあ、そうかな」
「思わぬことで、日本語の勉強になったよ」
 本気なのかはたまた皮肉か、デウィーバーはにやりと笑った。
「ところで、京極。どうやって真相を見破ったんだい?」
 そう問われて、私はちらりと理恵子さんの方を見やった。今は知らん顔しているからといって、図に乗ってこちらが長話をすると、仕事を怠けたと見なされかねない。
「うーん、その話はまたいつか。食事でも一緒にやろうじゃないか」
「それは賛成だね。けれど、少しぐらいいいじゃないか」
 デウィーバーに粘られ、焦る。しょうがない、少しだけ。
「超能力のお陰だよ」
 この答に、デウィーバーはきょとんとしている。無理あるまい。彼には北川君のことを話していないし、オーストラリア人の彼に日本人の顔は区別しにくいのだろう。北川君がかつての超能力少年の成長した姿だとは、思いも寄らなかったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サウンド&サイレンス

崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。

籠の鳥はそれでも鳴き続ける

崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つむいでつなぐ

崎田毅駿
ライト文芸
 物語はある病院の待合ロビーから始まる。言葉遊び的な話題でおしゃべりをしていた不知火と源に、後ろの席にいた子が話し掛けてきて……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

集めましょ、個性の欠片たち

崎田毅駿
ライト文芸
とある中学を中心に、あれやこれやの出来事を綴っていきます。1.「まずいはきまずいはずなのに」:中学では調理部に入りたかったのに、なかったため断念した篠宮理恵。二年生になり、有名なシェフの息子がクラスに転校して来た。彼の力を借りれば一から調理部を起ち上げられるかも? 2.「罪な罰」:人気男性タレントが大病を患ったことを告白。その芸能ニュースの話題でクラスの女子は朝から持ちきり。男子の一人が悪ぶってちょっと口を挟んだところ、普段は大人しくて目立たない女子が、いきなり彼を平手打ち! 一体何が?

処理中です...