マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿

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いつも好調とは限らない

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 ひとまず大学に戻り、学生の本分たる勉強に励んでから、その日は早々に帰宅した。アルバイトのレポートを書かねばならないのだが、他人に見られる恐れのある場所では書かないようにというのが厳守すべき注意条項にあるのだ。覆面調査という仕事の内容から考えて、それは当然だろう。
 加えて、事前に聞かされていたのとはどこか、いや、大きく事情が異なるような気配が漂っているのも気になる。そこを深く掘り下げて考える時間がほしかったこともあり、友達の誘いを断ってキャンパスをあとにした。その甲斐があってくれればいいんだけれども。
 座卓に夕飯とメモ書きを並べて、食べながら下書きを考える。スーパーマーケットに立ち寄らずに戻ったせいもあり、冷蔵庫の中の余り物を材料にあり合わせで作ったおかずは、回鍋肉なのにキャベツの代わりに白菜を入れちゃった、みたいな出来映えで、まずくはないがおいしくもない代物になっていた。お昼の和カレーは、味は抜群によかっただけに、落差をしみじみと感じる。
 それはさておき、店主の“異変”は何だというんだろう?
 元来、ネットでそれなりに評価されていたお店で、店主がお客から見て明らかに分かるほど変化したのなら、多少なりとも話題になっているはず。でも、現実にはそのような話はネットに上がっていないみたいだから、店主に変化が起きたのはごく最近なのかしら。異趣欄でも把握していない、あるいは異趣欄に調査を頼んできたユーザーが把握しないまま、この調査が始まってしまったということ?
 仮にそうだとして、じゃあ何が原因で店主はこれまでの接客態度を改め、変化したのだろうか。
 頑固な人が態度を改めるというのは並大抵このとじゃない気がするのよね。お客から多くのお叱りの声をちょうだいしたからってだけで、じゃあお客にすり寄ろうってことにはならないと思う。
 店主の自らの意志で変えたんだとしたら、それは異趣欄のような採点サイトを意識したから、とも想像できる。高評価を目指して、信念を曲げて接客するようになった……考えられなくはないものの、結局はすり寄りと同じだわ。頑固な店主というイメージからは大きく外れているなあ。
 他にどんな原因が考えられるんだろう。想像したくはないけれども、仕事とは別に、家庭内の問題とか身内の不幸とか。ただ、そんな理由だと、味に悪い影響が出そうな感じがするのよね。今日食べた分はおいしかった。まさか、あれがいつもより数段落ちる味、なんてことはさすがにないでしょ。
 まあ、今のところは私の感覚的推測に過ぎないわけで、異趣欄に「変ですよ」って知らせる段階ではまだなっていないと思う。たった一日、今日初めて行っただけの私がそうと決めつけるのはおこがましいというもの。誰にだって長い年月の内の一日ぐらい、塞ぎ込む日はあり得る。たまたま重なっただけで、明日には一転して、お客をどやしつけているかもしれないじゃない。
 明日、あさってと回を重ねて、それでもおとなしいままだったら、そのときは異趣欄に問い合わせることに決めた。
 とりあえず、明日は大学で受けるべき授業が少ない。だから時間の融通が利く。店に早めに行って、カウンター席に座ってみよう。

 二日目。火曜日は朝からあいにくの雨だった。
 今、“あいにく”と形容したけれども、私自身は雨自体はそんなに嫌いじゃない。窓越しに部屋から眺める雨降りの景色には、静謐できれいだなと感じることが割とある。
 ただ、そのおかげで人生で一度失敗した。他人から見れば些細なことなんだろうけれども、今でも後悔するときがたまにある。

 つづく

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