13 / 19
いつも好調とは限らない
しおりを挟む
ひとまず大学に戻り、学生の本分たる勉強に励んでから、その日は早々に帰宅した。アルバイトのレポートを書かねばならないのだが、他人に見られる恐れのある場所では書かないようにというのが厳守すべき注意条項にあるのだ。覆面調査という仕事の内容から考えて、それは当然だろう。
加えて、事前に聞かされていたのとはどこか、いや、大きく事情が異なるような気配が漂っているのも気になる。そこを深く掘り下げて考える時間がほしかったこともあり、友達の誘いを断ってキャンパスをあとにした。その甲斐があってくれればいいんだけれども。
座卓に夕飯とメモ書きを並べて、食べながら下書きを考える。スーパーマーケットに立ち寄らずに戻ったせいもあり、冷蔵庫の中の余り物を材料にあり合わせで作ったおかずは、回鍋肉なのにキャベツの代わりに白菜を入れちゃった、みたいな出来映えで、まずくはないがおいしくもない代物になっていた。お昼の和カレーは、味は抜群によかっただけに、落差をしみじみと感じる。
それはさておき、店主の“異変”は何だというんだろう?
元来、ネットでそれなりに評価されていたお店で、店主がお客から見て明らかに分かるほど変化したのなら、多少なりとも話題になっているはず。でも、現実にはそのような話はネットに上がっていないみたいだから、店主に変化が起きたのはごく最近なのかしら。異趣欄でも把握していない、あるいは異趣欄に調査を頼んできたユーザーが把握しないまま、この調査が始まってしまったということ?
仮にそうだとして、じゃあ何が原因で店主はこれまでの接客態度を改め、変化したのだろうか。
頑固な人が態度を改めるというのは並大抵このとじゃない気がするのよね。お客から多くのお叱りの声をちょうだいしたからってだけで、じゃあお客にすり寄ろうってことにはならないと思う。
店主の自らの意志で変えたんだとしたら、それは異趣欄のような採点サイトを意識したから、とも想像できる。高評価を目指して、信念を曲げて接客するようになった……考えられなくはないものの、結局はすり寄りと同じだわ。頑固な店主というイメージからは大きく外れているなあ。
他にどんな原因が考えられるんだろう。想像したくはないけれども、仕事とは別に、家庭内の問題とか身内の不幸とか。ただ、そんな理由だと、味に悪い影響が出そうな感じがするのよね。今日食べた分はおいしかった。まさか、あれがいつもより数段落ちる味、なんてことはさすがにないでしょ。
まあ、今のところは私の感覚的推測に過ぎないわけで、異趣欄に「変ですよ」って知らせる段階ではまだなっていないと思う。たった一日、今日初めて行っただけの私がそうと決めつけるのはおこがましいというもの。誰にだって長い年月の内の一日ぐらい、塞ぎ込む日はあり得る。たまたま重なっただけで、明日には一転して、お客をどやしつけているかもしれないじゃない。
明日、あさってと回を重ねて、それでもおとなしいままだったら、そのときは異趣欄に問い合わせることに決めた。
とりあえず、明日は大学で受けるべき授業が少ない。だから時間の融通が利く。店に早めに行って、カウンター席に座ってみよう。
二日目。火曜日は朝からあいにくの雨だった。
今、“あいにく”と形容したけれども、私自身は雨自体はそんなに嫌いじゃない。窓越しに部屋から眺める雨降りの景色には、静謐できれいだなと感じることが割とある。
ただ、そのおかげで人生で一度失敗した。他人から見れば些細なことなんだろうけれども、今でも後悔するときがたまにある。
つづく
加えて、事前に聞かされていたのとはどこか、いや、大きく事情が異なるような気配が漂っているのも気になる。そこを深く掘り下げて考える時間がほしかったこともあり、友達の誘いを断ってキャンパスをあとにした。その甲斐があってくれればいいんだけれども。
座卓に夕飯とメモ書きを並べて、食べながら下書きを考える。スーパーマーケットに立ち寄らずに戻ったせいもあり、冷蔵庫の中の余り物を材料にあり合わせで作ったおかずは、回鍋肉なのにキャベツの代わりに白菜を入れちゃった、みたいな出来映えで、まずくはないがおいしくもない代物になっていた。お昼の和カレーは、味は抜群によかっただけに、落差をしみじみと感じる。
それはさておき、店主の“異変”は何だというんだろう?
元来、ネットでそれなりに評価されていたお店で、店主がお客から見て明らかに分かるほど変化したのなら、多少なりとも話題になっているはず。でも、現実にはそのような話はネットに上がっていないみたいだから、店主に変化が起きたのはごく最近なのかしら。異趣欄でも把握していない、あるいは異趣欄に調査を頼んできたユーザーが把握しないまま、この調査が始まってしまったということ?
仮にそうだとして、じゃあ何が原因で店主はこれまでの接客態度を改め、変化したのだろうか。
頑固な人が態度を改めるというのは並大抵このとじゃない気がするのよね。お客から多くのお叱りの声をちょうだいしたからってだけで、じゃあお客にすり寄ろうってことにはならないと思う。
店主の自らの意志で変えたんだとしたら、それは異趣欄のような採点サイトを意識したから、とも想像できる。高評価を目指して、信念を曲げて接客するようになった……考えられなくはないものの、結局はすり寄りと同じだわ。頑固な店主というイメージからは大きく外れているなあ。
他にどんな原因が考えられるんだろう。想像したくはないけれども、仕事とは別に、家庭内の問題とか身内の不幸とか。ただ、そんな理由だと、味に悪い影響が出そうな感じがするのよね。今日食べた分はおいしかった。まさか、あれがいつもより数段落ちる味、なんてことはさすがにないでしょ。
まあ、今のところは私の感覚的推測に過ぎないわけで、異趣欄に「変ですよ」って知らせる段階ではまだなっていないと思う。たった一日、今日初めて行っただけの私がそうと決めつけるのはおこがましいというもの。誰にだって長い年月の内の一日ぐらい、塞ぎ込む日はあり得る。たまたま重なっただけで、明日には一転して、お客をどやしつけているかもしれないじゃない。
明日、あさってと回を重ねて、それでもおとなしいままだったら、そのときは異趣欄に問い合わせることに決めた。
とりあえず、明日は大学で受けるべき授業が少ない。だから時間の融通が利く。店に早めに行って、カウンター席に座ってみよう。
二日目。火曜日は朝からあいにくの雨だった。
今、“あいにく”と形容したけれども、私自身は雨自体はそんなに嫌いじゃない。窓越しに部屋から眺める雨降りの景色には、静謐できれいだなと感じることが割とある。
ただ、そのおかげで人生で一度失敗した。他人から見れば些細なことなんだろうけれども、今でも後悔するときがたまにある。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
籠の鳥はそれでも鳴き続ける
崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
神の威を借る狐
崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる