闘技者と演技者

崎田毅駿

文字の大きさ
41 / 58

2-4.大物を希望

しおりを挟む
「とにかくだ。こいつはすでに決定事項だからな。格闘技路線に舵を切る一発目に、ワンデートーナメントと実木ジュニアのデビュー戦、この二本柱でなら間違いない」
「トーナメント、ですか」
「ああ。勘違いするなよ。息子は別枠だ。ほら、リザーバーってやつに回る。トーナメントには俺が出る。他にも何人か、うちから出場させてもいい。若手エースの小石川が出たいなら出すし、鶴口や福田辺りは久々に本領発揮したいだろう。出たい奴はみんな出す。あとは相手だ。国内及びアジアの、強い奴、でかい奴でフリーの連中は片っ端から集めてこい」
「アジア限定にするんですか。確かに、まだあまり世界には出ていないから、未知の強豪がいる可能性は比較的高いとは思いますが」
「あ、これも言ってなかったか。一発目はアジア予選トーナメントとして行う。その次は世界と銘打つぞ」
「ええ?」
 未定のこととは言え、大風呂敷を次々に広げられて、役員達は目を白黒させ、顔を赤くしたり青くしたりした。その様子を見て、またもや実木が大笑いする。
「社長、笑い事じゃないですよ。アジアのトーナメント、そこはまあいいとしましょう。ギャラも低めで済むだろうから。その先、世界トーナメントを開こうって言うんなら、大変ですよ。アジア予選をやるからには、北米、中南米、欧州、ロシア、アフリカ、中近東ぐらいの区切りで、似た規模の予選トーナメントを開催しなければ、辻褄が合わなくなる。そういう点、日本のファン、マスコミは敏感ですからね」
「いや、そこは拘らなくていいだろ」
 実木はあっさり、否定する。
「アジアトーナメントで成功を収めて、大金を引っ張ってくる。とらぬ狸のなんとやらじゃないぞ。当てはあるんだ。その金で大物を一本釣りして行けば、コマは揃うさ」
「い、違約金も払えるような大金が集まると?」
「ああ。ただし、いくつかのスポンサーは条件を出してきている。アジア大会に、ぜひともこいつを出場させよ、それなら気前よく資金援助してやろうってのが」
「だ、誰なんですか」
「まさか、他団体のプロレスラーじゃないですよね。その……長羽さんとか」
「あはははっ! 面白えこと言うな、新妻。そのアイディア、採用したいぜ。念のため、打診してくれるか」
「は、はあ」
 永遠のライバルと目される長羽の名を人前で出されると、実木は不機嫌になることが多い。しかし、このときは違ったようだ。
「だが、スポンサーのお偉い面々は、格闘技とプロレス、そして今現在の人気というのを昔よりも分かってらっしゃるぞ。大竹おおたけが欲しいんだとよ」
 その名前が出て、場にはこれまであとは別のざわつきが広がった。
 大竹益明ますあき。志貴斗が地盤沈下したあと、立ち技格闘技でブームを巻き起こした神拳館しんけんかんのトップ空手家である。格闘技の世界で重量級においては、日本人選手はなかなか歯が立たない。特に立ち技となると、海外勢と比べるとスピードで劣るため、的になるケースがほとんどだった。しかし大竹はその定説を打ち破り、世界の強豪と互角に渡り合った。KO勝利こそ、外国人ファイターのそれにパーセンテージで劣るが、日本人離れした打撃力を拳のみならず、脚にも秘めている。加えて、ボクシング、キック、拳法など空手以外の道場・ジムに通って培った、様々な捌きやステップを匠に駆使し、相手の強打を紙一重で交わすことにも長ける。現代の日本格闘技界のトップスターの一人に、確実に数えられる存在だ。
「確かに、彼なら私も面識がありますし、神拳館とも親交があります」
 新妻が考え考え、少しずつ言葉を紡ぐ。
「しかし、打撃系の重量級第一人者で絶頂にある大竹選手が、ガチンコの総合格闘技に出陣してくれるとは思えません。あちらさんだって興行があり、大エースに傷を付けかねない危険を冒したくはないに決まっています。総合の練習をしているとも聞きませんし。もしや、彼がMMA対応の練習をしているという極秘情報でも?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

2回目の逃亡

158
恋愛
エラは王子の婚約者になりたくなくて1度目の人生で思い切りよく逃亡し、その後幸福な生活を送った。だが目覚めるとまた同じ人生が始まっていて・・・

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...