栄尾口工はAV探偵

崎田毅駿

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クレームはできればメーカーの方へ

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 そして現在。
「ホームページはあきらめます。メールで受け付けるくらいのシステムは取り入れましょう」
 大前田は事務所に入ってくるなりそう言った。机の前に陣取ると、胸元に引き寄せた両腕、その先に拳を作りってから続ける。
「無理。ネットとか面倒だもん。だいたい、二十四時間稼働のお気軽お気楽お手軽に依頼できるシステムがあったら、誰も彼もが簡単に依頼をよこして、結果、こっちは捌ききれなくなるかもしれない」
 栄尾口は数字をメモすると、計算機のアプリを閉じた。
「全然依頼来ないくせに何言ってるんですか」
「あ、いや、だからAV部門に依頼が殺到するかもしれない」
「結構じゃないですか、殺到」
「知っての通り、我がアダルトビデオの知識なんてたいしたことないからなあ」
 謙遜でも恥じらいでも何でもなく、栄尾口の持っているAVに関する情報量はたいしたものではない。自身が興味を持っていたのは若かりし昭和の時代が大半で、以前、連続絞殺魔の事件で役に立った知識というか記憶も、たまたま好みに合ったシリーズ作品を覚えていたに過ぎない。
 それよりあと、平成以降となると守備範囲に入るのは一九九二年辺りが関の山。加えて、真っ当なアダルトビデオしか知らない。裏を返せば、裏物はほぼ分からない(駄洒落だ)。さらに、今はどうだか知らないが当時キワモノとされたゲイやスカトロといったジャンルはたとえ表の作品だったとしても、全く詳しくないどころか、見ると気分が悪くなってしまう。SM物でも刺したり血が出たりするようなのは受け付けないし、強姦物はあまり真に迫っているようなら途中で観るのを放棄する。
「それにさ、自分からすれば謎の拘りを持っている人なんか、ちょっと怖いんだよな。『お探しの作品はブルーレイになっていますよ』と伝えても、『いーや、モザイクが違うんだ。VHSじゃなければだめだ』と目の前で真顔で主張される身にもなってくれ」
「見える物じゃなくて、見えない物に対する拘りって面白いじゃないですか」
「他人事だと思って……。少し前になるが、『Aという作品だと思って買ったら別の女優で撮り直した復刻版Aダッシュだった。販売店を詐欺で訴えたい』という相談が持ち込まれたこともあった。お門違いなんで、丁寧に説明して帰ってもらったよ」
「その内、栄尾口さんが被害者になりそう。依頼をちゃんとこなしてくれなかった、とかの言い掛かりを付けられて」
 しみじみと、残念そうな声音で語る大前田。栄尾口は作業を終えて、デスクを離れた。
「冗談きついよ」
「冗談だと分かってるのならいいじゃないですか。でも、念のために用心するに越したことはないと思います。うちにアダルト物を漁りに来る人の中にも、たまに変わった人がいると聞くもの」
「……参考までに知っておきたい。どんな人?」
「覚えているところでは、パッケージにある写真と同じ場面が作品の中になかったぞ、って。メーカーに言ってよってやつよね」
「なるほどな。でもまあ、メーカーが倒産しちゃってる場合もそれなりにあるみたいだけど」
「あとは、栄尾口さんのところでは扱ってないけど、裏物関係。といっても、うちだって販売してるんじゃなくて、中古の市販ビデオテープを、録画内容を記さずにまとめ売りしているだけなの。『録画内容の消去は行っておりません。アダルト映像が記録されている場合がありますので、小さなお子さんのいるご家庭では十分に配慮ください』と注意書きしているにも関わらず、買っていったお客さんが不満をぶつけに来る」
「『アダルト映像を子供が見てしまったぞ!』って?」
「それもあるけど、少なめ。多いのは、『アダルト映像、入ってないじゃないか』という苦情だよ。知らんがな。記録されている場合があるってだけで、絶対に入ってる訳じゃないっつーの」
「それはちょっと面白い」
 笑いをかみ殺したところで、訪問者があった。五所川原刑事だった。

 続く
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