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4.運がよすぎてステップを踏み外す?
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映画はまだ公開されていないし、柏原さんは名前のない一部代役に過ぎないから、誰も知らないはずなのにと思っていたら、あのとき船に同乗していたスポンサーの偉いさんが柏原さんの物怖じしない演技ぶりが気に入ったらしくて、知り合いの関係者数名に推薦したとのことだった。
獲得に動いたのが、如月芽衣も所属する事務所Aだったから、柏原さんもその気になっちゃって。それでいきなりテレビCMに起用された。事務所Aはモデルが中心で、テレビタレントや俳優はほとんど抱えていなかったから、その方面の仕事がばんばん入るってわけじゃなかったけれども、順調にステップアップしていった。それこそ一時は彼女自身が人混みの中心になるくらいの認知度があった。
でも高校受験を機に、仕事をカットしたら、あっという間に忘れられた。僕はこれでいいと思ったけどね。だって、デートらしいデートなんてできなかったんだから。僕の母や柏原さんの両親は割と、いやかなり寛大でお付き合いOKだったんだけど、事務所Aだけはうるさかった。付き合うのは仕方がない、ばれないようにしてくださいって。僕と彼女の親しい友達数名は元から知っていたけど、協力してくれて助かった。
それから無事、高校に合格して、半年ほど経った頃に、活動再開しませんかってことになった。以前のようにゆるめの条件でいいのならってことで、柏原さんも同意して、ぼちぼち仕事を増やし始めた。
その矢先、ばれてしまったんだ。
僕と柏原さんは休みの日に、ある超有名な遊園地に行って、デートを楽しむつもりだった。やたらめったら混むことででも知られている遊園地で、ここなら軽い変装をしておけば大丈夫だろうっていう認識だった。実際、それまでに二度ほど利用したんだけど、全然気付かれなかった。
ところがねえ……柏原水純はやっぱり幸運の星の下に生まれたんだなって、肌で実感する出来事が起きた。
僕に続いて彼女がゲートを通過した途端、パンパカパーンてファンファーレが鳴った。いや、ほんとにパンパカパーンだったかは覚えてないけど、とにかく音楽がかかった。
彼女の手を引いて早く行こうとしていた僕だったけど、これには思わず何だ?となった。柏原さんも同様で足が止まった。
そこへ、施設の女性スタッフがマイク片手に掛け寄ってきて、「おめでとうございます! 当園のオープン以来、三百三十三万三千三百三十三番目のご来場者はあなたです!」と祝福してくれた。
何でそんなぞろ目で記念イベントをやろうと思ったのか疑問だったけど、考えてみればその遊園地のマスコットキャラクターが3をモチーフにしてたんだ。ま、そんな疑問が浮かんだのは少し経ってからのことで、祝福されたときはまずいことになったぞと汗がどっと出た。
咄嗟に僕は離れようとした。が、そのマスコットキャラクターや他のスタッフやらが出て来て、取り囲まれてしまった。「彼氏さんですか。彼女がちょうど三百三十三万三千三百三十三番目になるなんて、ラッキーですね」とマイクを通して彼氏認定された。いやどこがちょうどなんだよと突っ込みたいくらいだったが、テレビカメラがあると気付いてますます焦った。ニュースか何かで映像が流れるのか。もうあとは気付かれないことを祈るだけだ。
って、こっちは必死に念じてるのに、マイクのおねえさん、柏原さんの顔を覗き込んで、「あら。タレントの**に似ているって言われません?」と来た。言うまでもないが、**は柏原さんの当時の芸名。うわーってなったよ。客のプライベートに立ち入るとは社員教育がなってない!と怒ってもしょうがない。
すでに周りで見ていた他の入場者達が、ざわざわし始めていた。距離は十メートル近く取ってあったのに、人生で一番人混みが怖いと感じたのはあのときだった。人数もそうだけど、視線と囁く仕種がね。
でまあ、ばれた。
獲得に動いたのが、如月芽衣も所属する事務所Aだったから、柏原さんもその気になっちゃって。それでいきなりテレビCMに起用された。事務所Aはモデルが中心で、テレビタレントや俳優はほとんど抱えていなかったから、その方面の仕事がばんばん入るってわけじゃなかったけれども、順調にステップアップしていった。それこそ一時は彼女自身が人混みの中心になるくらいの認知度があった。
でも高校受験を機に、仕事をカットしたら、あっという間に忘れられた。僕はこれでいいと思ったけどね。だって、デートらしいデートなんてできなかったんだから。僕の母や柏原さんの両親は割と、いやかなり寛大でお付き合いOKだったんだけど、事務所Aだけはうるさかった。付き合うのは仕方がない、ばれないようにしてくださいって。僕と彼女の親しい友達数名は元から知っていたけど、協力してくれて助かった。
それから無事、高校に合格して、半年ほど経った頃に、活動再開しませんかってことになった。以前のようにゆるめの条件でいいのならってことで、柏原さんも同意して、ぼちぼち仕事を増やし始めた。
その矢先、ばれてしまったんだ。
僕と柏原さんは休みの日に、ある超有名な遊園地に行って、デートを楽しむつもりだった。やたらめったら混むことででも知られている遊園地で、ここなら軽い変装をしておけば大丈夫だろうっていう認識だった。実際、それまでに二度ほど利用したんだけど、全然気付かれなかった。
ところがねえ……柏原水純はやっぱり幸運の星の下に生まれたんだなって、肌で実感する出来事が起きた。
僕に続いて彼女がゲートを通過した途端、パンパカパーンてファンファーレが鳴った。いや、ほんとにパンパカパーンだったかは覚えてないけど、とにかく音楽がかかった。
彼女の手を引いて早く行こうとしていた僕だったけど、これには思わず何だ?となった。柏原さんも同様で足が止まった。
そこへ、施設の女性スタッフがマイク片手に掛け寄ってきて、「おめでとうございます! 当園のオープン以来、三百三十三万三千三百三十三番目のご来場者はあなたです!」と祝福してくれた。
何でそんなぞろ目で記念イベントをやろうと思ったのか疑問だったけど、考えてみればその遊園地のマスコットキャラクターが3をモチーフにしてたんだ。ま、そんな疑問が浮かんだのは少し経ってからのことで、祝福されたときはまずいことになったぞと汗がどっと出た。
咄嗟に僕は離れようとした。が、そのマスコットキャラクターや他のスタッフやらが出て来て、取り囲まれてしまった。「彼氏さんですか。彼女がちょうど三百三十三万三千三百三十三番目になるなんて、ラッキーですね」とマイクを通して彼氏認定された。いやどこがちょうどなんだよと突っ込みたいくらいだったが、テレビカメラがあると気付いてますます焦った。ニュースか何かで映像が流れるのか。もうあとは気付かれないことを祈るだけだ。
って、こっちは必死に念じてるのに、マイクのおねえさん、柏原さんの顔を覗き込んで、「あら。タレントの**に似ているって言われません?」と来た。言うまでもないが、**は柏原さんの当時の芸名。うわーってなったよ。客のプライベートに立ち入るとは社員教育がなってない!と怒ってもしょうがない。
すでに周りで見ていた他の入場者達が、ざわざわし始めていた。距離は十メートル近く取ってあったのに、人生で一番人混みが怖いと感じたのはあのときだった。人数もそうだけど、視線と囁く仕種がね。
でまあ、ばれた。
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