闇と光と告白と

崎田毅駿

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承前 プラス  三.表の書・裏の書 1

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 衛兵の一人が、いらいらしたように声を荒げた。
 その視線を物ともせず、ランペターは答える。
「しばしお待ちを。ここは自然の力で、最後の一押しをしてもらうことが必要なのかもしれません」
 そう言うと、彼はカイナーベルに目で何か合図を送った。こくりとうなずく金髪のカイナーベル。
 何をするのかと思ったら、カイナーベルは部屋の窓へ素早く歩み寄り、大きく窓を開け放した。当然のことながら、風がふわりと流れ込んでくる。満月の光もその強さを増したような気がする。
 頭を窓に向けているマリアスの髪が、かすかに揺らめいた。
 するとどうだろう! 高熱のために倒れて以来、ほとんど意識を取り戻さないでいたマリアスが、この瞬間に動いたのである。
「ん」
 口元から、わずかな息と共に声が漏れ出てきた。ランペターとカイナーベルを除く部屋にいる誰もがざわめく。
 次には、マリアスの両目はしっかりと見開かれていた。
「あ……私……?」
 横になったまま、首を動かして様子を探ろうとするマリアス。父王を始め、周囲に多くの人間がいることに驚いているのが、ありありと分かる。
「マリアス!」
「姫!」
 そんな歓声が、一気に沸き起こった。中でもレオンティールは、自分の娘をしっかりと抱きしめる。
「お父様、これはいったい」
「よかった……よかった」
 事態が呑み込めず、ぽかんとしたままのマリアスの頭を、レオンティールはくしゃくしゃとなでた。
「姫、姫は熱を出されて、倒れてしまったんですよ」
 横からスワンソンがそっと言った。それでようやく記憶がはっきりしてきたらしく、マリアスは少し口を開けてから、何度かうなずいた。
「とりあえず、意識を取り戻されたようで、何よりでございます」
 ランペターは、相変わらず静かな口調であった。
 声に反応して、レオンティールらは振り向いた。
「おお、そなた達のおかげだ。まずは礼を言うぞ」
「ありがとうございます。ですが、その前に、まだ姫様は回復されたばかりです。あまり無理をなさると、お体に障ることになりかねません。我々もそこまでは、この金剛石の効力を保証できませんので」
「そうか。では、ロッツコッドとスワンソンを残し、他の者はひとまず、引き上げることとしよう」
 レオンティールはそう言ってから、再びマリアスの方を見た。
「お父様、どうなっているんです? 熱が下がったのだけは分かりましたけれど……」
「マリアス、詳しいことはスワンソンから聞きなさい。今のところは、こちらがおまえを救ってくれたとだけ、言っておこう」
 レオンティールはランペターとカイナーベルを指し示した。
 見たことのない男達を前に、きょとんとするマリアス。そんな彼女に、ランペターら二人は、うやうやしく頭を下げて一礼をするのだった。


3 表の書・裏の書

 金剛石の力が発揮されたあの夜から三日かからずに、マリアスは前以上に元気になっていた。
 大事をとって部屋にこもっていたが、もう我慢できないとばかり、今日は朝から中庭を歩き回っていた。
「私が倒れている間に、小鳥の数が少なくなった気がするわ」
 マリアスは空を見上げながら、不満そうに言った。
 いつものように、スワンソンが受け答えする。
「そんなこと、ございませんでしょう。小鳥達と会いたいと、あまりにも期待を膨らませていた分、その反動で数が少なく思えるだけです、きっと」
「そうかしら。蝶や花の数は変わらなく見えるのに」
 まだ納得できないでいるマリアスの前に、大きな影が差した。
「――ディオシス!」
「お久しぶりでございます、姫」
 今日は軍の制服のディオシスは、優しげな声で語りかけ、同時に跪いて一礼をした。帯剣こそしていないが、凛々しい戦士の姿である。
「やめて、ディオシス。そんな堅苦しい挨拶は」
「そのお声からすると、もう完全によくなられたみたいですね」
 顔を上げて、ふっと笑みをこぼすディオシス将軍。
「そうなのよ。本当はね、あの金剛石のおかげで目が覚めたときから、元気満々だったのよ。なのに、お父様やこのスワンソンがうるさくて」
 と、マリアスはスワンそうの方を振り向いた。
 スワンソンはやれやれといった身ぶりで、自分の立場をディオシスに伝えた。
「そうだわ、ディオシス。わざわざお見舞いに来てくれたんだ。私、眠っていたから分からなかったけど、どうもありがとう。本当に嬉しいっ」
「いえ、あのときは休みでしたから、兵士を代表してと思いまして」
 マリアスの感謝の言葉に、ディオシスは戸惑ったようになる。
「あら、じゃあ、今は何なの? その格好、まさか休みのときでも軍服を着ている訳じゃあないんでしょう?」
「それは……その通りです」
「本当に意地悪な言い方しかできないんだから。そんなことじゃ、誰も女の人から相手にされなくなるわ。ねえ、スワンソン?」
 相づちを求めてきたマリアスに、スワンソンは曖昧に笑ってごまかした。
(姫の方がディオシス将軍を好きなのに……ね)
「あまり目立つことは差し控えておりますので……。いや、これはこちらのことでした。それより」
 ディオシスは表情を引き締めた。
「それより、ランペター殿らはどうされているか、存じておられますか」
 レオンティールの信を一気に高めたランペターとその一行は、今やこのライ国において重要な地位を手にしつつあった。
「さあ……。確か、お父様やお兄様、それに臣下全員と何か会議を開いていたと思うけど、よく知らない」
「そうですか」
「あの方達はいい人よ。私のことを治してくれたし、今も国のためになることに力を貸してくれようとしているそうなのよ。今朝の会議だって」
「別に私は……」
 ディオシスは首を横に振った。それをマリアスは両手で止める。
「だめ、知ってるんだから」
「何を、でしょうか?」
「ディオシス、あなた、スワンソンに言ったそうじゃないの。ランペター達は怪しいってね」
「そこまではっきりと言い切ってはおりません」
 ディオシスは抗弁しながら、スワンソンの方を見た。
 スワンソンもそんなことは姫に伝えていないという意志表示をする。
「確かに私、あのときの将軍の言葉を姫にお伝えしましたけど、それを姫が勝手に解釈したのです」
「どっちだっていいの。ちらっとでも疑ったんでしょ、ディオシス?」
「……」
「どういう風に考えているか知らないけれど、あの方達がもし、ライ国にとって悪いことを企んでいるのだったら、どうして私を助けるのよ? そのまま、放っておけばいいじゃないの」
「……分かりました。あのときの言葉は取り消しておきましょう」
 納得した訳ではなかったが、この場を丸く収めるために、ディオシスはそう答えておくことにした。
 そして、ディオシスの予感していたことは、思いもよらぬ形で発露する――マリアスだけの耳元へ。
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