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婚約申し込み
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単刀直入な問い掛けに、結月は「そういえば、無意識にそういうイメージを抱いていたかも」と呟き、安藤に同意を求める目線を送った。安藤もよくしたもので、すぐに頷き、口を開く。
「確かに、砂漠の国の王子と聞けば、国は豊かな印象が強いですね。最初の方に伺った産業にも原油関連があったし」
「なるほど、それがあったかー。ならばしょうがない。しかし現実は厳しいもの。恐らくあなた方が思い描いているほどは豊かじゃないよ。設備は元々属していた国からの払い下げみたいな代物で、まともに稼働するのが奇跡とまで呼ばれてる。オイルが爪弾きになる世界の到来も近いみたいだし、新しい何かを技術開発しようにも、うちはその基盤さえ脆弱なんだ」
拙い発声で、やや難しい言葉を操るのは違和感があった。結月と安藤はこれってどういうこと?とアレッサの方を見やる。
「アッシャー王子には、我が国の窮状を訴えるためのフレーズを、頭にたたき込んでいます。いつどこに協力を求める機会に転がっているか分からないので」
「丸暗記に近いから、似たような言い回ししかできないぞ、わははは」
アッシャーは自嘲気味に、でも豪快に笑った。
「あ、そういう……でも、お忍びなんですよね?」
「念のためです。第二夫人候補の女性が、日本の政府要人と遠戚であるなんてことが、絶対にないとは言い切れない」
「断っておくけれども、僕は人となりを最優先して選ぶつもりでいる。家柄とか人間関係とかもその人物の“人”ではあるかもしれないが、気にしようとは思わない。はっきり言えば政治も国王の座も、さほど興味関心持てないんだ。三番目だし気楽に行きたいんだよね」
教育係の目の前でずいぶんな放言だ。が、アレッサには特に怒った気配は見られない。最早慣れているのかもしれないなと、結月は想像した。
「そういうわけで」
アッシャーが、自身の持ち物であるバッグをガサゴソ探る。カーキ色をしたウェストポーチにもなりそうな小ぶりなそれから取り出したのは、小さな箱。片手の親指と人差し指だけでぐるっと周りを掴めそうなサイズだった。色は白、上を向いている面だけ、半分ほど半透明のガラスかプラスチックになっているようだ。でも中は見えない。
「これを受け取って欲しいのだが、いかがでしょう、結月柚希さん」
「何です、それ?」
結月が「それ」と呼ぶ内に、「それ」は近くまで、つまり結月の手に接する距離まで来ており、「これ」と呼ぶべき位置にあった。
「それは西洋の社会でいうところのエンゲージリング、あれの代わりになる物である」
持って回った言い方に、結月は頭の中で日本語に変換する。
「婚約指輪? どうして自分が受け取るのでしょう?」
「いや。受け取る受け取らないはそちらの自由ですが……」
アッシャーは目を見開いてから瞬きを何度も繰り返し、戸惑いを露わにした。
「先ほどまでの話を聞いていれば分かると思うのだけれど、僕は婚約者を探しにこの国へ来た。僕の中では観光がメインイベントだったが、それでも一応、お嫁さん探しもしてみるつもりで来た。その婚約者を探すアンテナで気になる人のことが傍受できた。それが結月柚希さん、あなたであるということです」
「……えーと」
結月はそう呟いたきり口ごもり、安藤は逆に?口をぽかんと開けている。
「あのー、アレッサさん」
王子に向けていた顔を、お付きの人に向けた。
「何でしょう、結月さん」
アレッサはアッシャーのいきなりの発言にも涼しい顔でいる。
「取材いうか確認になりますけど、交際を申し込むときにエンゲージリングと同等の物を渡すという風習が、お国にはあるのですか」
「いささか端折ってはいますが、風習そのものはあります。尤も通常は、交際して当たり前の男女間で、正規のお付き合いを始めるために形式として渡す物なのですが」
「よいではないか、アレッサ。七分の一の欠片を渡すのは打診のサインであるのが、現在の我が国の常識だ」
「若者から発生した、独自の決まり事です」
外国人二人のやり取りを耳にし、結月は「七分の一の欠片?」と気になるワードを繰り返した。
「シャンドリテ王国では砂竜という架空の生き物を国獣として指定しており、その首の骨をひと連なり渡すのが結婚を申し込む証なんです。七分の一の欠片とは、砂竜の首の骨は七つの部位からなり、その一つ一つを七分の一の欠片と称する」
「待って待って。架空の生物の首の骨って……」
「砂漠で時折見付かるんですよ。竜の首の骨を思わせる連なった水晶が。シャンドリテ特有の鉱物で、大まかな理解で言うとスナナズナの一種がある病気に罹って枯れた後、その周囲の砂の状態によって、結晶が作られる場合が起こるということです。形は英語のアルファベットのWに似ている」
言葉で説明しようとするアレッサに対して、アッシャーは「形は見せるのが早い。百聞に……何だっけ」と言い出し、持っていた小さなケースの上蓋を外した。
「これが砂竜の首の骨」
「確かに、砂漠の国の王子と聞けば、国は豊かな印象が強いですね。最初の方に伺った産業にも原油関連があったし」
「なるほど、それがあったかー。ならばしょうがない。しかし現実は厳しいもの。恐らくあなた方が思い描いているほどは豊かじゃないよ。設備は元々属していた国からの払い下げみたいな代物で、まともに稼働するのが奇跡とまで呼ばれてる。オイルが爪弾きになる世界の到来も近いみたいだし、新しい何かを技術開発しようにも、うちはその基盤さえ脆弱なんだ」
拙い発声で、やや難しい言葉を操るのは違和感があった。結月と安藤はこれってどういうこと?とアレッサの方を見やる。
「アッシャー王子には、我が国の窮状を訴えるためのフレーズを、頭にたたき込んでいます。いつどこに協力を求める機会に転がっているか分からないので」
「丸暗記に近いから、似たような言い回ししかできないぞ、わははは」
アッシャーは自嘲気味に、でも豪快に笑った。
「あ、そういう……でも、お忍びなんですよね?」
「念のためです。第二夫人候補の女性が、日本の政府要人と遠戚であるなんてことが、絶対にないとは言い切れない」
「断っておくけれども、僕は人となりを最優先して選ぶつもりでいる。家柄とか人間関係とかもその人物の“人”ではあるかもしれないが、気にしようとは思わない。はっきり言えば政治も国王の座も、さほど興味関心持てないんだ。三番目だし気楽に行きたいんだよね」
教育係の目の前でずいぶんな放言だ。が、アレッサには特に怒った気配は見られない。最早慣れているのかもしれないなと、結月は想像した。
「そういうわけで」
アッシャーが、自身の持ち物であるバッグをガサゴソ探る。カーキ色をしたウェストポーチにもなりそうな小ぶりなそれから取り出したのは、小さな箱。片手の親指と人差し指だけでぐるっと周りを掴めそうなサイズだった。色は白、上を向いている面だけ、半分ほど半透明のガラスかプラスチックになっているようだ。でも中は見えない。
「これを受け取って欲しいのだが、いかがでしょう、結月柚希さん」
「何です、それ?」
結月が「それ」と呼ぶ内に、「それ」は近くまで、つまり結月の手に接する距離まで来ており、「これ」と呼ぶべき位置にあった。
「それは西洋の社会でいうところのエンゲージリング、あれの代わりになる物である」
持って回った言い方に、結月は頭の中で日本語に変換する。
「婚約指輪? どうして自分が受け取るのでしょう?」
「いや。受け取る受け取らないはそちらの自由ですが……」
アッシャーは目を見開いてから瞬きを何度も繰り返し、戸惑いを露わにした。
「先ほどまでの話を聞いていれば分かると思うのだけれど、僕は婚約者を探しにこの国へ来た。僕の中では観光がメインイベントだったが、それでも一応、お嫁さん探しもしてみるつもりで来た。その婚約者を探すアンテナで気になる人のことが傍受できた。それが結月柚希さん、あなたであるということです」
「……えーと」
結月はそう呟いたきり口ごもり、安藤は逆に?口をぽかんと開けている。
「あのー、アレッサさん」
王子に向けていた顔を、お付きの人に向けた。
「何でしょう、結月さん」
アレッサはアッシャーのいきなりの発言にも涼しい顔でいる。
「取材いうか確認になりますけど、交際を申し込むときにエンゲージリングと同等の物を渡すという風習が、お国にはあるのですか」
「いささか端折ってはいますが、風習そのものはあります。尤も通常は、交際して当たり前の男女間で、正規のお付き合いを始めるために形式として渡す物なのですが」
「よいではないか、アレッサ。七分の一の欠片を渡すのは打診のサインであるのが、現在の我が国の常識だ」
「若者から発生した、独自の決まり事です」
外国人二人のやり取りを耳にし、結月は「七分の一の欠片?」と気になるワードを繰り返した。
「シャンドリテ王国では砂竜という架空の生き物を国獣として指定しており、その首の骨をひと連なり渡すのが結婚を申し込む証なんです。七分の一の欠片とは、砂竜の首の骨は七つの部位からなり、その一つ一つを七分の一の欠片と称する」
「待って待って。架空の生物の首の骨って……」
「砂漠で時折見付かるんですよ。竜の首の骨を思わせる連なった水晶が。シャンドリテ特有の鉱物で、大まかな理解で言うとスナナズナの一種がある病気に罹って枯れた後、その周囲の砂の状態によって、結晶が作られる場合が起こるということです。形は英語のアルファベットのWに似ている」
言葉で説明しようとするアレッサに対して、アッシャーは「形は見せるのが早い。百聞に……何だっけ」と言い出し、持っていた小さなケースの上蓋を外した。
「これが砂竜の首の骨」
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