魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

文字の大きさ
64 / 65
第3章 魔王様と元勇者は諸悪の根源に喧嘩を売る

魔王様と元勇者は永遠に共にーー。

しおりを挟む
 その後の話をしよう。

 女神ルミエラがいなくなったことにより、人間には大きな混乱が訪れるかと思われた。しかしネーブルはその混乱を予測していたのか、自分の本来の名を隠し『女神ルミエラの代理』と名乗ってしばらくの間は人間と魔族両方に神託を下し、仲を取りもつことで、神に頼らずとも生きていける世界にしていくのだと語った。

 実際にその神託は下され、ルミエラの信仰を重視していた人間からの反発はありながらも、ルークが実質的に支配をした村や街にはすでに神託が下る前から魔族に友好的な人間も増えていたため、末端からではあるが徐々に魔族と人間との交流は増えていった。

 世間では魔王や勇者はどこへ消えたのか?ということが話題にもあったが、これもネーブルが新しい神話として『勇者と魔王の話』を作ったため魔王は消え、勇者も役目を終えて生涯を閉じたのだと人々の間には伝わった。

 ではルークとノアはどうなったのか。

 まずルークは約束通りネーブルへの願いを叶え、不老不死となった。最後の最後までノアは文句を言っていたが、ルークは断固として譲らなかったらしい。

 不老不死となったことで2人は他の知り合いの最期を看取ることとなった。まずはフェイロン、次にドロシー、ガルムとメルトは看取られるのが嫌だと言って、最期を迎える前にどこかへ去ってしまった。最後に残ったリリシュは、ベッドの上で2人の手を握りしめ、皺だらけになっても美しさを保った美貌で優しく微笑むと「2人とも、お幸せにね」と残してこの世から去っていった。

 こうして2人だけになったルークとノアはもうこの場所にはもう自分たちは必要ないと、少しの荷物だけ持って旅に出ることにした。

 自分の知らないことを知る旅へ。時間だけは山ほどあると東西南北の果てまで2人は歩みを進めた。
 東の果てにあるドラゴンの隠れ里を訪ねたり、西の果てにある砂漠の遺跡を一つ一つ調査したり、南の果てにある深海に眠る宝石を泳いで取りに行ったり、北の果てにある山岳の山頂まで氷でできた花を取りに行ったり。

 そんな忙しい毎日の中、時折り一つの街に逗留しては2人で享楽に耽ることもあったが、決して2人は離れることはなかった。

 そして数百年をかけてようやく満足したのか歩みを止めた2人。ノアはそこで初めてネーブルに己の願いを口にした。





 ・・・・・・・・・・





 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、バンッ!


「ん…ぅんー……」

「………ノア様、ノア様?もう朝ですよ」

「んんー…あと五分…」

「そう言って、前は三十分は寝たのを忘れましたか?はい、起きてください」

「うぅ…!寒い……おふとん…」


 べりっと布団を取られたせいか、ノアは寒そうに縮こまってしまう。それでもちゃんと起きようとしないあたりノアの寝汚さは筋金入りなのかもしれない。

 前までのルークであればこういう時に力づくで起こそうとしていたが、そこはもうすでに数百年の付き合いのせいか効果的な起こし方というものを会得していた。


「今日はせっかくノア様に喜んでいただこうとフレンチトーストのご用意をしましたのに…廃棄することになってしまいそうですね。僕はとっても悲しいです」


 先ほどまで夢の続きを見ようとしていたはずのノアは、その言葉にピクリと反応した。


「フレンチトーストってあの…この前俺がテレビで見ていたやつか?」

「はい」

「生クリームはついているのか?苺のジャムは?」

「もちろん両方ともご用意しております。ノア様がお好きですからね」

「んぐぅー…よし、交渉成立だ!」


 ガバッと身体を起こすと、ノアはルークに向かって腕を伸ばす。


「でもまだ眠いから移動は頼んだ」

「ふふっ、かしこまりました」


 数百年の付き合いともなれば気を許せないことはないのか、ノアはずいぶんとルークに対して甘えるようになった。ルークももちろん断ることはないため、気づけば室内ではずっと2人でくっついていることも少なくなかった。


「はい、どうぞ。熱いので気をつけてお召し上がりくださいね」

「うまそー!いただきまーす!」


 子供のように目を輝かせてノアはフレンチトーストを頬張る。ルークは向かい側でそれを幸せそうに見つめていた。


「あれ?ルークは食わないのか?」

「僕は朝はあまり食べないので。これで充分です」


 そう言うとルークは手元のコーヒーを一口飲んだ。しかしノアはその返答に不服そうな顔をすると、せっせとフレンチトーストを一口大に切り、その一つにフォークを刺してルークにずいっと差し出した。


「何も食べないってのも身体に悪いだろ!一個でも食べろ!」

「しかしそれはノア様の分で…」

「いいから、早く!」


 こうなれば引くことがないのはノアの方である。ルークがフレンチトーストの一欠片を食べると、ノアは満足そうに笑った。


「上手いだろ!料理人が特別だからな!」

「お粗末さまです。それより、ノア様の今日のご予定は覚えておられますか?」

「当たり前だ!講義は三限目からだな。心理学と…後はこの国の歴史の授業だ。それが終われば特には無いな。ルークは経済学と外国語の講義だっただろう?そういえば…この前お前のことを噂している女の子がいたぞ、格好いいだとかなんだとか…」

「あいにくノア様以外には全く興味がないもので、今後もその女性にはお会いすることもないでしょうね」

「ま、まぁそれならいいけど…。とにかく、ネーブル殿に頼んでよかったな。おかげで俺はまだまだ知らないことを学ぶことに専念できるわけだし」

「ノア様が『他の世界へ行きたい』と言い出した時は、ついに僕といることが嫌になったのかと思いましたよ…。まぁ僕としては、あなたと共に居ることができればどこでもいいですからね。それよりも、僕もノア様も午後は特に予定がないようですから良ければ新しくできたカフェに行きませんか?」

「いいのか!あそこフルーツパフェが美味しいって聞いてたから一度食べたかったんだよなー」

「そうですか、つかぬことをお聞きしますがそれはどちらからお聞きになられたので?」

「どちらからって…普通に同級生から…ってお前、顔怖いぞ?」

「その件に関しては後ほどノア様の口から詳しく聞かせていただきますね?とりあえずそろそろ出る時間ですけれど、お支度はお済みですか?」

「おうばっちり!いつでも出れるぜ!」


 着替えて荷物を持ったノアは準備万端とばかりに自慢げに胸を反らした。


「あれ?お忘れものですよ、ノア様」

「あ、えぇ…またやるのかよ…」

「もちろんです、それにしてもノア様は相変わらずこういったことはまだ慣れないみたいですね」

「し、仕方ないだろ!こんなことお前以外やったことないんだし…」


 そう言うと、ノアは背伸びをしてルークの唇に軽く口づけた。自分からしたものの恥ずかしくなったのか、ノアは真っ赤になったままプイッと横を向いた。


「い、行くぞ!ルーク!」

「はい、ノア様」


 2人は新しい世界でも共に生き続けることを選んだ。たとえどんな世界であっても2人はきっとこの先も離れることはないのだろう。


「ノア様」

「なんだよ」

「隠居はなさる気はないのですか?」

「あー…まぁ…この世界には俺の知らないことがまだまだあるからな。もうしばらくはいい」

「では僕もまだまだノア様の側近ですね」

「おう、せいぜい気張ってついてこいよ!」





『魔王様は切実に隠居したい』

(と思っていましたが、どうやら魔王様は当分隠居する気はなさそうです)

 終
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ

BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。 実直皇子×お人好し美人 ※ほかのサイトにも同時に投稿しています。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...