魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

文字の大きさ
36 / 65
第2章 隠居に成功(?)した魔王様

魔王様は人に感謝される

しおりを挟む
 ノアはルークと別れて元の場所に帰っていた。

 別れる際に「次、何かあったら今回のように様子見なんてせずに即座に転移してきますからね」とルークに真顔で念を押されて、さらには危ない時でなくても面倒ごとに巻き込まれた時点でルークを呼ぶことを約束をさせられた。


(俺、本当に大人気なかったよなぁ…ルークの前で泣くとか、子供じゃないんだし…。それにしても…こんな外であんなこと……うぅっ…誰にも見られてなきゃいいけれど…。しかも…)


 ノアは首元をするりと撫でるが、そこには何もあるはずもなく、触った感覚しかしない。


(痛くも痒くもない…でも…あいつが言ってた…。人間で言う『所有印』だって…それが、ここに……。「あなたを思う僕のことを忘れないように、おまじないですよ」とか……。あいつ…俺の知らない間にずいぶんと歯の浮くようなセリフ言うようになりやがって…)

 ノアはこの日までそんなものが存在することさえ知らなかった。
 肌に強く口づけると赤く色づくものらしいのだが、それを恋慕う者に付けることによって、この人は自分のものだと周囲に牽制する役割にもなるらしい。


(独占欲……。ルークが…俺に…?そんなまさか……いや、でも…もしそうだとしたら…)


 嬉しい、だなんて。


「あーくそっ…頬が熱い…ッ」

(こんなの…忘れたくても忘れられるわけないだろ…!)


 周囲に見せつけるかのような赤色は、まるで自分はすでにルークのものなのだと、そう刷り込むかのようで。
 ノアは一度意識してしまったせいで赤く火照った頬をなかなか冷ますことができなかった。





 ・・・・・・・・・・





「いやー助かったよ、旅人さんみたいな腕に覚えのある人がたまたま近くを通ってくれるなんて。まさか街道から離れて馬を休憩させていたら、盗賊に襲われるなんて思わなかったからなぁ。本当にお礼は良かったのかい?」

「こうして馬車に乗せてもらえるだけでありがたいからな。これ以上の礼はいらない」


 荷馬車の持ち主は少し怪我をしていただけで命に別状もなく、効き目の遅い普通の薬でも動けるまでになるほどだった。
 話を聞くとこれから向かう目的地が同じだったこともあり、金銭を頑なに受け取らないノアにせめてものお礼として目的地まで荷馬車に乗せてくれることになった。


(自分の足で歩くのもいいけれど、こうやって荷馬車に揺られるなんて経験はしたことがなかったな。これはこれで旅らしくて良い)

「旅人さんは謙虚だねー。俺は商人だしたまたま目的地が同じだったからこんなの礼の一つにもならないのに。その犬は旅人さんの相棒かい?ずいぶんと勇敢だったね。武器を持ってる盗賊に噛みつくなんて」

「俺もこんなに血の気の多いやつだとは思わなかった。俺の前では大人しくしてただけだったんだな」

「きゃわ!くぅーん…」

「別にそんな悲しそうな顔をしなくても、お前が戦闘狂だからといって捨てないから安心しろ」

「わんっ!あぉん!」

「あっはっは!まるで本当に会話してるみたいだな!」


 歩いていた時よりも早く周りの景色が流れていく。生まれてから荷馬車になど乗ったことのなかったノアは、初めての体験に少し浮かれていた。


「それにしても…旅人さんは何しにマギアソルテへ行くんだい?あそこに行くのは俺みたいな村から通っている商人か学園に通う学生さんがほとんどだと思っていたけど」

「俺は冒険者だからそんな大層なものじゃない。故郷に帰るまでの道中に、少し寄り道をしたいと思ったんだ。あんたはこの近くの村出身なのか?」

「あぁそうさ、と言っても…もうすでに魔族に降伏しちまったとこだけどね…」

「それの何がいけないんだ?無理に戦って死人を出すよりよほど懸命だと思うが」

「旅人さんはここら辺の人じゃないんだろう?なら知らないかもしれないが、人間が魔族に下ることは悪だっていう人も多いんだよ。だからそういう人たちからすれば、俺たちは裏切り者同然なんだろうな」

「その…変なことを聞くようだが、魔族に降伏して後悔したことはないのか?」

「後悔?まさか!今じゃ感謝しているよ」


 予想外の言葉にノアは驚く。
 人間からすれば魔族は自分の領土を奪いにきた侵略者であり、憎みこそすれ感謝などされるわけがないと思っていた。


「それは、どうして…」

「俺たちの村は小さい農村でな、こういう時に国から真っ先に切り捨てられる運命なんだよ。農作物は税金として大量に持っていくくせに、俺たちのところには簡単な薬一つ回ってくるのだって何日もかかる。今回の魔族の侵攻だってそうだ。国は『最後の1人まで勇敢に戦え』だってさ。俺たちの生活なんて何も考えちゃいなかった。けれど俺たちの村に来た魔族は病人がいれば薬をくれて、壊れた建物の修理を手伝ってくれた。他の村も同じようだって聞くから、俺たちみたいな奴らはきっと魔族にも魔王にも感謝していると思うよ」

「そうか…教えてくれてありがとう」


 生まれてこの方、魔王として死ぬまで人間に憎まれ続ける運命だと思っていた。
 けれどこうしてルークのおかげで魔族が感謝されていることが、自分のことのようになんだか誇らしかった。


(次にルークと会う時は、たくさん褒めてやらないといけないな。そうだ!何かプレゼントでも用意したら喜ぶかな?)

「聞きたいことがあるんだが…人に、プレゼントをする時はどんなものが喜ばれるだろうか…?」

「お、旅人さんもしかしていい人でもいるのかい?若いねぇー!そうだなぁ、今流行っているものといえば………」


 そんな話をしながら旅をすること3日後、ようやくノアは目的の地に降り立つことができたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...