魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第2章 隠居に成功(?)した魔王様

魔王様は元勇者の好みが少しだけ気になる

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「えっと…確かここにこれを置いて…これをここに、垂らす…と…。よし!できた!俺ってばやっぱり天才だな!」


 ノアは気絶させた男から特別資格証と少しの血を小瓶に拝借した後、路地裏に隠してきた。後できちんと返すつもりである。
 今回は自分が美女に見えるように魔術を使って男に近づいたわけだが…。


(あの偉そうだった男の態度が急に変わったくらいだ。ちゃんと綺麗な女性には見えていたはずだけど…。あの男、ずっと俺の胸ばっかり見てたな)


 ノアは服の上から自分の胸を抑えてみる。
 当然だが男であるノアのそこは平たくなっており、膨らみはほぼ無いと言っていい。


「ルークも大きい方がいいのかな…」


 ぽつりと呟いた後、自分が何を言ったのかを理解したのか、ノアはぶんぶんと頭を振った。


(い、いやいやいや…好みなんて人それぞれだからな!俺はルークがどんな好みでも気にしないぞ!うん!それよりも、さっきは油断させるための手段として仕方なくだったけれど、無理やり肩を抱かれたのは気持ち悪かったな…。うぅっ…思い出すだけで寒気がする……)


 ノアは無意識に自分の肩を擦る。
 美女に見せる魔術はあっても、美女になれる魔術は無いのだ。つまり男に肩を抱かれていた美女は正真正銘ノア自身だった。
 今すぐにでも男に触られた感覚を払い落としたかったが、今はそれどころではないと思い、ノアはなるべく考えないように努めた。


「流石に中は広いな……。ここから1人で必要な書物を探しだすのは相当な時間がかかりそうだ。かと言って時間をかけすぎるのも………。あ、そうだ『ルーク、いるか?』」

「ここに」


 まるでそう呼ばれるのを待っていたのかと思えるほどの早さでルークがノアの側に現れた。


「……お前、暇なのか?」

「ノア様に早くお会いしたかったから、という理由ではご不満ですか?」

「お、おぅ…まぁ…いいけど…。ってかそれよりもお前を呼んだ理由だよ。この書庫が意外に広くてな、使える時間もそんなに無いし、探すのを手伝ってくれるとありがたいんだけど」

「もちろんです。探すのは勇者の召喚方法、ですか?」

「そうだな、多分魔術に関係することなら俺の方が早くわかるだろうし、それは俺が探そうかな。ルークは女神についての書物を探してくれるか?多分歴史書とかに載ってると思う」

「かしこまりました。それでは見つけ次第、ノア様にお声をかけさせていただきますね」

「頼んだ」


 こうして2人は書庫の中を手分けして目当ての書物を探し始めた。
 さすがにノアの部屋のようにどこに何があるか普通の人にはわからない無法地帯ということもなく、書物はその分類や書かれている内容で細かく分かれており、それらしき書物がいくつか見つかるのは早かった。

 中身を読んで、それらしいページがなければ次の書物へ。それを何度か繰り返し、ノアが何十個目の書物を読んでいた時だった。


(『異世界からの召喚魔術について』…?これか!)


 ようやく見つけた書物には、異世界から様々な物を呼び寄せる魔術についてが書かれていた。

 ノアが知っていた異世界の種やこちらの世界には存在しない動物の皮を呼び寄せた話はもちろん、生きている動物を呼び寄せた話まで書いていた。


(俺の知らないことまでこの書物には載っているのか…。……これだけ書物があるんだし一個くらい持っていっても……いやいやいや、いくらなんでも盗みは駄目だな。とりあえず…この書物には異世界の人間を召喚した例は書いていないのか…?動物までならあるのに……)


 やはり自分が一番知りたいことは書いてないのか、とノアが諦めかけたその時だった。
 読んでいた書物の最後の方に不自然に真っ白なページが数枚あったのだ。ノアがそのページに触れると、微かに魔力を帯びていることが感じられた。


(これは……。魔術で見えなくなっているだけだな。この魔力を上書きすれば見えるか?)


 大事な情報の隠蔽に魔術を使うのはよくあることだ。そしてそれを看破する術もノアは知っていた。
 魔力の帯びたページの上から自分の魔力を当てて相殺することで、魔力を消していく。すると真っ白だったページに次々と文字が浮かんでいく。


(よし、できた。さてと、ここには何が…)


 隠されていたページは数ページ。ノアであれば読むのにかかる時間は一瞬だ。
 けれど、ノアは読み進めていくうちに言葉を失ってしまった。


「ノア様、お待たせいたしました。いくつか女神についての書物を見つけてきました。中身も確認しましたが、なかなか興味深いことが………ノア様?」


 ルークがノアに声をかけるが、ノアは俯いたまま動かない。ルークが静かに近づくと、ノアはようやくその顔をあげた。

 その顔は血の気が引いて真っ青になっており、身体はガタガタと小刻みに震えていた。
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