魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第3章 魔王様と元勇者は諸悪の根源に喧嘩を売る

魔王様は意外とお菓子が大好き

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「あぁ…魔王様!ご無事でしたか!よかった…!ディート!お前は…いつも1人でフラフラといなくなっているとは思ったが、今度は嘘で魔王様を騙したのか!」


 2人はネーブルに礼を言い、少年を連れて村の入り口へと転移で戻ってくると、村長が慌てた様子でこちらへ向かってきた。

 開口一番、少年はノアを騙したという理由で怒られてしまうが、黙って俯く少年を背に庇い、ノアが前に進み出る。


「彼の言っていたことは全て本当だ。女神ネーブルは確かにいた。我もこの目で見た。それとも…お前は我の目が子供の嘘すら見抜けないほど曇っているとでも言いたいのか?」

「い、いえ…そんな失礼なことは…」

「ではこれからはこの子のことを信じてあげることだな。それと、女神ネーブルからの伝言だ。『今まで皆様から逃げてしまって申し訳ありません。これからは、私からも皆様に歩み寄りたいと思っております』だそうだ。しばらくはこの子をメッセンジャーにすればいい。突然大人数で女神のところへ押しかけるわけにもいかないだろう?」


 そうすればきっと少年は今よりももっとネーブルの元へ通えると考え、ノアはさりげなく村人と女神の橋渡し役として少年を任命した。


「ディート…その、お前は女神様に会いに行っていたんだな…。お前の言っていたこと、信じてやれなくてすまなかった!お前のことを信じてやれなくて!てっきりもう女神様は私らに愛想を尽かしていなくなったと思ったんだ…。本当にすまなかった!」

「いいよ、大丈夫。女神様は、前に僕が森で魔獣に襲われて怪我をした時に助けてくれたんだ。その時に『自分の居場所は内緒にしてほしい』って言っていたから。だから僕も、今日までどこに行っていたか言わなかったし」


 少年はどうやら存外義理堅い性格のようだ。きっと女神と村人の仲を取り持つ係もやりきってくれるだろう。

 城へ帰る2人を見送ってくれるという村人たちに転移で帰るだけだから不要だと伝えたが、少年はたたっとノアの元へ走ってくると必死に背を伸ばして耳打ちをする。


「僕、頑張るから。魔王様もお兄さんとお幸せにね」

「なっ…!…あぁ、うん…まぁ…そうだな…ありがとう…」


 真っ赤になる顔を必死で隠し、ノアは急いで転移の魔術を発動させた。





 ・・・・・・・・・・





「本日はお疲れ様です、魔王様」

「おう、ルークもお疲れ様。しっかし久しぶりに山歩きなんてしたなぁ…。正確な場所なんてわからないから転移できないし、日頃の運動不足が祟って途中で何回バテそうになったか…。明日は筋肉痛だな」

「疲労に効くマッサージでもしましょうか?」

「マジ!いいの?やってやって!」


 行儀悪くベッドに寝転びながら子供のように足をバタバタさせるノアに、笑みを抑えられない様子のルークは「失礼します」と声をかけて同じベッドへと乗り上げる。

 うつ伏せになったノアのふくらはぎや足の裏に圧をかけると、ノアからは弛みきった声が漏れた。


「うぁ~~~っ…マジで気持ちいい…。お前本職になれるんじゃねぇか?」

「まさか、僕なんてプロの方と比べればまだまだですよ。強いて言うなら人よりも人体の構造に少し詳しい程度ですから」

「あー…それってお前が勇者だったことと何か関係があるのか?」

「えぇ、魔族と人間は種族こそ違いますが身体の構造はほとんど同じ場合が多いです。魔王が人型だというのは事前に聞いていたので、人間の急所だったりは一通り網羅させられましたね」

「はぁー…お前ほんと苦労してたんだなぁ。うっ!そこ痛てぇ…」

「ここは胃のツボですね。普通は暴飲暴食なんかで痛みを感じますが…。…そういえば、ネーブル様の元でやたらとお菓子を召し上がっていましたね?」

「い、いいだろたまには!むしろお前いっつも俺にもっと食えって言うくせに…痛ったぁ!」

「そんなにお菓子が食べたいのでしたら…今後はノア様がお召し上がりになるお菓子は全て僕が作りますので。遠慮なく食べてくださいね」

「え…っじゃあ、あの…城下町にあるケーキ屋のショートケーキは?」

「駄目です」

「じゃ、じゃあ…隣町の広場に時々出てる屋台のワッフルは?」

「駄目です。というか、既製品は全部駄目です」

「そ、そんなぁ…」

「それよりもノア様」


 ずいっとルークの顔が近づき、思わずノアは息を止めた。


「最近やたらと外出されるなと思ってはいましたが…。まさか、お菓子を食べにわざわざ外出をされていたわけではありませんよね?」

「そ、そんなわけ…なぃ…デス………。いったぁい!」

「本当にノア様が嘘をつく時はわかりやすいですね。お仕置きです」

「ま、待て…ルーク、話せばわかるからぁ!」


 その後小一時間ほど、ノアの部屋からは悲鳴が聞こえていたらしい。
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