魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第3章 魔王様と元勇者は諸悪の根源に喧嘩を売る

魔王様と元勇者は決意する

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「うぅ…足痛いぃ…まだジンジンする…お前のせいだぁ…」


 日頃からの睡眠不足や直近の食生活の乱れを含む不摂生を身をもって思い知らされたノアは、ベッドに突っ伏してルークに恨み言を吐いていた。


「毎日日付が変わる前に眠って、バランスを考えた食事を摂っていればこうはならなかったでしょうね。日頃から自分がどんな生活をしているか知れて良かったですね」

「くそぉ…いつか仕返ししてやるからなぁ…!」

「どうぞ?僕はいつでも大歓迎です」


 未だにすんすんと鼻を鳴らしながら目元に涙を浮かべるノアに近づいたルークは、その目元を優しく指で拭ってやる。


「なんだよ…」

「いえ、少しいじめ過ぎてしまったかなと思いまして」

「ならこれだけ耐えた俺にご褒美を所望する!」

「構いませんよ。僕に何を望まれますか?先ほど仰られていたように仕返しを?それとも、お好きなスイーツでも作りましょうか?」

「ん!」


 ノアはルークに向かって両腕を広げる。
 その予想外の行動に、ルークは珍しくどうしていいのか戸惑っている様子だった。


「あの、ノア様…?」

「お前こういう時は察しが悪いな!いいから早く!こういう時の答えは一つだろ!」


 ルークとてその挙動の意味が全くわからないわけではなかった。ただそれが本当に合っているのかが疑問だっただけである。


「分かりました。では、失礼しますね」


 そのままノアを抱き上げると、今度はルークがベッドヘッドに背を預ける形になり自分の上にノアを乗せた。そのままその身体を抱き締めると、ノアは満足そうな様子でルークの首に腕を回した。


「よし、正解だぞルーク」

「これは…本当にノア様のご褒美になっているのでしょうか?強いていうなら僕へのご褒美のような気もするのですが」

「まぁ…それもあるな。ルークにはいつも頼らせてもらってるからな!でもまぁ…お前とこうしてると安心するんだ。俺もお前もちゃんと生きてるんだなぁって思ってさ」

「そうですか…」


 ただ黙って静かな部屋で抱き合う2人。密着した身体からはお互いの鼓動が聞こえており、しばらくの間2人とも何も喋ることはなかった。


「その、あのな…。お前に…お願い、があるんだけど…」

「僕もノア様にご褒美をもらっているわけですし、なんでも望んでいただいて構いませんよ」

「じゃ、じゃあ…あのな…」


 まるで内緒話でもするかのように、ノアはルークの耳元へ唇を寄せる。声は消え入りそうなものだったが、確かにルークには聞こえていた。


「俺のこと…抱いてくれないか?」

「え…」


 まるで過去にあったやりとりをなぞるようなその言葉。だが、その本来の意味はちゃんと説明したはずだ。そこだけ都合よく忘れたわけでもないだろう。


「それは…本当の意味をわかって言っていますか?」


 そうルークが念押すように聞くと、ノアは「分かって言ってる」と呟き頷いた。


「では…自分が今からどうなるかも?言葉の意味をわかった上で誘われて、後でやっぱり無かったことにはなりませんよ」

「いい、俺がお前に抱いて欲しいのは本当だから…」


 だがルークは、そんなノアの様子に違和感を覚えていた。誘われたことは嬉しいが、なんとなく何かに焦っているようなもしくは、何かを怖がっているような。そんな雰囲気に見えていた。


「…ノア様、僕の思い違いであれば後でどれだけでもお詫びいたします。ですが、どうしてもお聞きしたいのです。ノア様はどうしてそんなに怯えていらっしゃるのですか?」

「そ、そんな…怯えてなんて…」

「話してみてください、あなたの不安を。あなたを苦しめ苛む全て、僕が払って差し上げます」


 その言葉にノアは目を見開き、その瞳はゆらゆらと不安そうに揺れていたが、やがて苦笑いのような表情になる。


「やっぱりお前には敵わないな…」


 そう呟くと、ノアはぎゅっとルークを力強く抱きしめた。ルークはそれに答えながら頭を撫でる。


「俺たちは…これから起こる戦いからは逃れられない。女神も勇者も俺が生きていることをすでに知っていてもおかしくないし、今度は本気で俺を殺すことを考えているだろう。明日戦いは起こるかもしれないし、もっと先かもしれない…。ただ言えることは、全てが終わったその時に俺もお前も生きている保証がないことだ」

「それでもあなたは諦める気は無いのでしょう?」

「もちろんすぐにやられてやる気なんかないし、ギリギリまで抵抗してやるつもりだ。でも、お前と二度と会えなくなるのは…嫌だ」

「ノア様…」

「だから…だからな…?今日一日…一晩だけでいい。お前がまだここにあるってことを感じさせて欲しいんだ…」


 自分は明日死ぬかもしれない。そして、愛する人も同時に死ぬかもしれない。明日が保証されていない中、ノアはルークとの触れ合いを求めたのだった。


「分かりました、あなたの不安を拭うためなら如何様にもいたします。ただ一つだけ、謝罪と訂正をさせてください」

「何を?」

「まずは謝罪を。僕はノア様を生かすためならば自分は死んでもいいと思っていました。僕にとってあなたは生き残るべきであり、あなたを失うくらいなら、刺し違えてでも女神の命を持っていく覚悟でした」

「そんなこと、俺は求めてないぞ…!」

「えぇ…先ほどあなたに言われて目が覚めました。第一、僕がいなくなることであなたが悲しむのであれば、わざわざ涙を流す理由を作るわけには参りませんね。それと、僕は決してあなたを死なせる気はありません。勇者にも女神にも、あなたの命を奪わせはしませんから」


 そう言うと、ルークはノアの手を取りその甲へと口づけを落とした。


「願わくば、あなたと共に未来を生きていきたいのです。この戦い、2人で勝ちましょう」


 ノアはその言葉に呆然としていたが、やがて感極まったようにルークに抱きついた。
 ルークはその身体を難なく受け止め、しばらくの間見つめあった2人は、躊躇わず口づけを交わした。
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