61 / 72
旅する理由
しおりを挟む集合場所はダディオの屋敷の庭、各々のコンディションは上々、武器の手入れも道具も抜かりない。
「いい!500万エルは絶対もらうわよ!」
その庭からひときわ大きな声でスノウはダディオに叫んだ。
「もちろんだ、レクゥーリアを持って帰ってくればな。おい」
ダディオの背後に佇んでいたメイドのようなマリーナという名の付き人の女性に目を配る。
マリーナからはスノウやアヤネのような少女の可憐さではなく、落ち着いた成熟した大人の女性としての魅力を感じ、特徴的な紺色の長髪は後頭部に丸く纏められている。
意図を察したマリーナは主人の前に立ち一礼。
振り向いて昇る太陽一行にも一礼したあとこう言った。
「私も同行致します」
同行、とはいえ戦闘に赴くわけなので生半可な力の持ち主であれば却って迷惑になってしまう。
そう思いリントとバルは怪訝な顔でマリーナを見ているとダディオが言う。
「心配するな。うちのマリーナはこう見えてもBランク冒険者くらいの力はある。お前らの監視役兼戦力だ」
「え゛っ!?俺より上!?」
「場所はマリーナが知ってる。用意ができたらとっとと向かうんだな。俺はこの屋敷で待ってらぁ」
背を向けたダディオは屋敷のドアを開けその中へ戻る。
するとマリーナがリント達の前へと歩いた。
「それでは向かいましょう。歩いて1時間ほどです」
やや薄く雪が積もる道を歩き目標の場所へと向かう最中、マリーナは振り向き語りかける。
「改めて、今回皆様をご案内させていただくマリーナ・ツヴィラと申します。もしよろしければお名前を一人づつお伺いしても構いませんか?」
「そっか、名乗ってなかったっけ。俺はリント・ヒナタ。このギルド“昇る太陽”のギルドマスターやってる。白い髪がスノウで眼鏡の片っぽつけてるのがうちの医者のアレタ、灼けた肌はアテラで後ろで髪束ねてるのはアヤネ。んで俺の横にいる赤髪はバル。荷車の上でぼーっとしてるのがシフラ」
「…大所帯なのですね」
「一人は団員じゃないけどね。なんでついてきてくれるんだろ」
「今は暇だから。それに何度かご飯を分けてもらった恩もある」
「そんなの気にしなくてもいいのに」
「いいえ、ご飯は大事。恩は返すのがあたし」
「そっかぁ。でも危なくなったら逃げろよ~」
「リント様は…いえ、このギルドは何を目的として活動されているのですか?」
「目的…目的かぁ…俺個人の目的は親探すことと…」
あれ?そういえば何だっけ…
なーんかあった気がすんだよなぁ…
『異界管理局を代表してケンゾー・タカハシがリント・ヒナタに命じます。地球に魔獣が出現する理由をハーモラルと地球の二つの世界を巡り解明せよ』
『はい!Dランク冒険者リント・ヒナタ!確かに拝命いたしました!』
思い出すはハーモラルに来てすぐの異界管理局でのケンゾーとのやり取り。
俺って地球に魔獣が出る理由を調べに来たんだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「リント様?顔色が…」
「いや大丈夫!大丈夫なんで!!」
ここ最近、冒険とかヴォルトアン・ヘアットとかのことで頭いっぱいで忘れてたぁ…
ま、いっか
こうやって歩いてればなんか分かんだろ
「このギルドは…目的……ある?」
数秒考えるもギルドのそれらしい目標が思い浮かばなかった。
そもそも成り立ち自体がリントの冒険をしたいという欲が原点であり、メンバーもほぼほぼスカウトなので成し遂げたい目標とかは特にないのだ。
「私は上の命令」
「私付いてきただけー」
「オレは親方が付いてけって」
「僕はスカウトかな」
「俺も似たようなもんだ」
「「「「「だから目的とか(ないわ)(ないよー)(ないな)(ないかなぁ)(ねえな)」」」」」
「…らしいです」
「あら…それは…」
「ま、そういうのもいいんじゃねえか」
「ほぇ?」
「俺は不死雷轟鳥だけじゃなくてこの世界に存在する全部の種類の魔獣の魔獣図鑑を作る。そのためにお前と旅をするのも悪くない、俺を下したお前にな」
「バル…」
「少なくともここにいる奴らはそれぞれに旅をする目的、していい理由がある。もちろん俺にもな。だから少しでもお前をみっともねえと感じたら降りるぞ、俺ぁ」
警告するような鋭い目つきでリントを睨む。
対してリントは屈託のない笑顔で返す。
「そうならないように気ぃつけるよ」
「…はっ」
バルも笑い飛ばすかのように満足気に軽く口角を上げた。
「男子ってよくわかんないねー」
「わからなくてもいいわ。こういうのは」
少し後ろから見ていたアヤネとスノウの一言。
そして歩き続けること数十分後、おそらく今回の目的であろう場所に到着した。
誰が見ても一目でわかる異様な光景。
なにもないはずの空間に人の背丈ほどある明らかに何かが裂けたかのような切れ目、その奥からはそこにいるであろう主の威圧感をひしひしと身に浴びる。
「ではもう再度ご説明します。この切れ目は通称、世界の狭間。出現する理由も条件も正確には判明しておらず発生すらもなかなか確認されない物です。狭間の中には強力な魔獣が生息しており、その魔獣の生命活動を止めることでレクゥーリアという物に姿を変えます」
荷車からそれぞれ戦いに必要な物を取り出して身に纏ったり道具を引っ張り出したりと最終準備を整える。
「放置しておいてもなんら問題はなく消滅するのですが…多少の荒事を起こしてまでレクゥーリアを求める方もいらっしゃいます。ダディオ様のように」
「なんでおっさんはそこまでしてレクゥーリアが欲しいんだろうな」
大金積んでまで欲するのならそれなりの理由があるはず。
「申し訳ございません。詳しくはお話できかねます」
「あんま深入りすんなよ。おっさんとオレ達はあくまで依頼だけの関係だ」
「そうよ。シンヘルキの時みたいに大事に巻き込まれるのは勘弁だからね」
商売人であったアテラはその線引がしっかりとしているようで勘ぐるリントに釘を刺し、スノウもこれまでの経験からリントが余計なことを起こす確率が高いと分かっているので便乗する。
「それもそっか」
ここまで荷車を引いてくれた荷引きの魔獣のダリオルの角張った額を軽く撫で感謝の意を示すと同時に留守番任せたと伝えて歩き裂け目の前に立つ。
「よーしお前らぁ!準備できたか?」
士気を上げる…訳では無いがフィクションでよく見られる、主人公達が冒険や死地赴く際の掛け声を真似してみる。
「えぇ」
スノウはいつもと少し見慣れない杖を持ち返事した。
「おっけー!」
アヤネも自分の祖父から譲り受けたり盗んだりしたクナイの持ち手部分の穴に指を通して回しながら元気に返事した。
「とっとと終わらせんぞ」
アテラは少し気だるげに大槌を持つ。
「無茶はだめだからね」
アレタは少し不安げだがそれでも助けてくれるだろう。
「気ぃ張れよ。ハンパで勝てる相手じゃねえ」
バルはその先にいるであろう敵に最大の警戒をしている。
「うまくやる」
シフラもここまで付いてきてくれるとは思わなかったが協力してくれるのであれば心強い。
「しゃあっ!!じゃあ…行くぞおらぁ!」
その狭間の向こうへ、足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
遊鷹太
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。
この世界では、魔法は一人一つが常識。
そんな中で恒一が与えられたのは、
元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。
戦えない。派手じゃない。評価もされない。
だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、
戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。
保存、浄化、環境制御――
誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。
理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、
英雄になることではない。
事故を起こさず、仲間を死なせず、
“必要とされる仕事”を積み上げること。
これは、
才能ではなく使い方で世界を変える男の、
静かな成り上がりの物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる