その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや

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旅する理由

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集合場所はダディオの屋敷の庭、各々のコンディションは上々、武器の手入れも道具も抜かりない。

「いい!500万エルは絶対もらうわよ!」

その庭からひときわ大きな声でスノウはダディオに叫んだ。

「もちろんだ、レクゥーリアを持って帰ってくればな。おい」

ダディオの背後に佇んでいたメイドのようなマリーナという名の付き人の女性に目を配る。
マリーナからはスノウやアヤネのような少女の可憐さではなく、落ち着いた成熟した大人の女性としての魅力を感じ、特徴的な紺色の長髪は後頭部に丸く纏められている。

意図を察したマリーナは主人の前に立ち一礼。
振り向いて昇る太陽一行にも一礼したあとこう言った。

「私も同行致します」

同行、とはいえ戦闘に赴くわけなので生半可な力の持ち主であれば却って迷惑になってしまう。

そう思いリントとバルは怪訝な顔でマリーナを見ているとダディオが言う。

「心配するな。うちのマリーナはこう見えてもBランク冒険者くらいの力はある。お前らの監視役兼戦力だ」

「え゛っ!?俺より上!?」

「場所はマリーナが知ってる。用意ができたらとっとと向かうんだな。俺はこの屋敷で待ってらぁ」

背を向けたダディオは屋敷のドアを開けその中へ戻る。
するとマリーナがリント達の前へと歩いた。

「それでは向かいましょう。歩いて1時間ほどです」



やや薄く雪が積もる道を歩き目標の場所へと向かう最中、マリーナは振り向き語りかける。

「改めて、今回皆様をご案内させていただくマリーナ・ツヴィラと申します。もしよろしければお名前を一人づつお伺いしても構いませんか?」

「そっか、名乗ってなかったっけ。俺はリント・ヒナタ。このギルド“昇る太陽”のギルドマスターやってる。白い髪がスノウで眼鏡の片っぽつけてるのがうちの医者のアレタ、灼けた肌はアテラで後ろで髪束ねてるのはアヤネ。んで俺の横にいる赤髪はバル。荷車の上でぼーっとしてるのがシフラ」

「…大所帯なのですね」

一人シフラは団員じゃないけどね。なんでついてきてくれるんだろ」

暇だから。それに何度かご飯を分けてもらった恩もある」

「そんなの気にしなくてもいいのに」

「いいえ、ご飯は大事。恩は返すのがあたし」

「そっかぁ。でも危なくなったら逃げろよ~」

「リント様は…いえ、このギルドは何を目的として活動されているのですか?」

「目的…目的かぁ…俺個人の目的は親探すことと…」

あれ?そういえば何だっけ…
なーんかあった気がすんだよなぁ…

『異界管理局を代表してケンゾー・タカハシがリント・ヒナタに命じます。地球に魔獣が出現する理由をハーモラルと地球の二つの世界を巡り解明せよ』
『はい!Dランク冒険者リント・ヒナタ!確かに拝命いたしました!』

思い出すはハーモラルに来てすぐの異界管理局でのケンゾーとのやり取り。

俺って地球に魔獣が出る理由を調べに来たんだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「リント様?顔色が…」
「いや大丈夫!大丈夫なんで!!」

ここ最近、冒険とかヴォルトアン・ヘアットとかのことで頭いっぱいで忘れてたぁ…

ま、いっか
こうやって歩いてればなんか分かんだろ

「このギルドは…目的……ある?」

数秒考えるもギルドのそれらしい目標が思い浮かばなかった。
そもそも成り立ち自体がリントの冒険をしたいという欲が原点であり、メンバーもほぼほぼスカウトなので成し遂げたい目標とかは特にないのだ。

「私は上の命令」
「私付いてきただけー」
「オレは親方が付いてけって」
「僕はスカウトかな」
「俺も似たようなもんだ」

「「「「「だから目的とか(ないわ)(ないよー)(ないな)(ないかなぁ)(ねえな)」」」」」

「…らしいです」

「あら…それは…」

「ま、そういうのもいいんじゃねえか」

「ほぇ?」

「俺は不死ヴォルト雷轟鳥アン・ヘアットだけじゃなくてこの世界に存在する全部の種類の魔獣の魔獣図鑑を作る。そのためにお前と旅をするのも悪くない、俺を下したお前にな」

「バル…」

「少なくともここにいる奴らはそれぞれに旅をする目的、していい理由がある。もちろん俺にもな。だから少しでもお前をみっともねえと感じたら降りるぞ、俺ぁ」

警告するような鋭い目つきでリントを睨む。
対してリントは屈託のない笑顔で返す。

「そうならないように気ぃつけるよ」

「…はっ」

バルも笑い飛ばすかのように満足気に軽く口角を上げた。

「男子ってよくわかんないねー」

「わからなくてもいいわ。こういうのは」

少し後ろから見ていたアヤネとスノウの一言。



そして歩き続けること数十分後、おそらく今回の目的であろう場所に到着した。
誰が見ても一目でわかる異様な光景。

なにもないはずの空間に人の背丈ほどある明らかに何かが裂けたかのような切れ目、その奥からはそこにいるであろう主の威圧感をひしひしと身に浴びる。

「ではもう再度ご説明します。この切れ目は通称、。出現する理由も条件も正確には判明しておらず発生すらもなかなか確認されない物です。狭間の中には強力な魔獣が生息しており、その魔獣の生命活動を止めることでレクゥーリアという物に姿を変えます」

荷車からそれぞれ戦いに必要な物を取り出して身に纏ったり道具を引っ張り出したりと最終準備を整える。

「放置しておいてもなんら問題はなく消滅するのですが…多少の荒事を起こしてまでレクゥーリアを求める方もいらっしゃいます。ダディオ様のように」

「なんでおっさんはそこまでしてレクゥーリアが欲しいんだろうな」

大金積んでまで欲するのならそれなりの理由があるはず。

「申し訳ございません。詳しくはお話できかねます」

「あんま深入りすんなよ。おっさんとオレ達はあくまで依頼だけの関係だ」

「そうよ。シンヘルキの時みたいに大事に巻き込まれるのは勘弁だからね」

商売人であったアテラはその線引がしっかりとしているようで勘ぐるリントに釘を刺し、スノウもこれまでの経験からリントが余計なことを起こす確率が高いと分かっているので便乗する。

「それもそっか」

ここまで荷車を引いてくれた荷引きの魔獣のダリオルの角張った額を軽く撫で感謝の意を示すと同時に留守番任せたと伝えて歩き裂け目の前に立つ。

「よーしお前らぁ!準備できたか?」

士気を上げる…訳では無いがフィクションでよく見られる、主人公達が冒険や死地赴く際の掛け声を真似してみる。

「えぇ」

スノウはいつもと少し見慣れない杖を持ち返事した。

「おっけー!」

アヤネも自分の祖父から譲り受けたり盗んだりしたクナイの持ち手部分の穴に指を通して回しながら元気に返事した。

「とっとと終わらせんぞ」

アテラは少し気だるげに大槌を持つ。

「無茶はだめだからね」

アレタは少し不安げだがそれでも助けてくれるだろう。

「気ぃ張れよ。ハンパで勝てる相手じゃねえ」

バルはその先にいるであろう敵に最大の警戒をしている。

「うまくやる」

シフラもここまで付いてきてくれるとは思わなかったが協力してくれるのであれば心強い。

「しゃあっ!!じゃあ…行くぞおらぁ!」

その狭間の向こうへ、足を踏み入れた。
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