その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや

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集団の頭であるならば

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その生物は銀の繭から羽化し、地面に落とされた

やがて何事もなかったかのように立ち上がり首を捻りリントたちを見た

背中に翼膜のない鉄くずでできた両翼、ヒト型でありながら刃で構成された四肢、複眼にも見える六つ目の顔面を持つ金色の生物オルトノ


この場にいる誰もが襲われたことのない未曾有の感覚。
恐怖、焦燥、未知、畏怖、どう考えてもポジティブな思考は一切不可能。
声は出せず、体も動かず、手を打つ策を考えることも出来ず、ただただオルトノがその場を動かないことを願うだけ。

しかしそんな願いが叶うことはあるはずもなくオルトノは一歩、リント達に向けて足を動かしてしまった。

「…スノウ」

緊迫が支配する空間の中でようやくリントは言葉を発することが出来た。

「アヤネ達を連れて今すぐ逃げろ。生き残ることだけ考えて動け」

このギルドの長たるリントが下した命令は逃亡。
スノウもリントに声をかけられてようやく体が動く。

「その命令は賛成。だけどあんたはどうするのよ」

「俺がこいつを抑える。5秒は稼げるはず」

「ふざけないで!いくらあんたでもあんな怪物__」
「俺も手伝ってやるよ」

スノウの荒げた声を遮るようにバルがリントに向けて言う。

「…死んだらどうする?」
「そうだな…死後の世界にも魔獣がいたらいいな」
「ははっ。それ最高」

何かを悟ったかのような男二人にスノウと声を出せるようになったアヤネが二人の犠牲に猛反対する。

「あんた達何言ってんの!!こんな所で死んでいいわけないでしょ!」
「そうだよリントくん!まだ一緒に旅した__」

音もなく、オルトノはアヤネの正面に移動していた。
足を使った移動ではなく、まるで初めからそこにいたと言わんばかりに、自然に。
悟った感情はたった一つ。


あ、死んじゃった。私


金色のオルトノの腹部が盛り上がり鋭い刃と化してアヤネの腹部にめがけて動いた。

誰も助けに間に合わない。

そうして刃がアヤネの衣服を貫いた瞬間、自分の影に溶けるように姿を消してスノウの影から再び現れる。

「はぁ…はぁ…」

アヤネ自身も知らない内に影溶ようようを反射的に発動して事なきを得ることが出来たが、圧倒的な力を身近で感じたので気分もすぐれないのか顔面蒼白だ。

影溶ようようは影に身を落とし影が続いている場所であれば瞬時に移動することができ、明溶めいようはその逆で明かりに身を落とす。

影溶ようようは闇属性、明溶めいようは光属性の魔法でありどちらか一方を使用できるだけでも明暗どちらかの大きなアドバンテージとなるがアヤネは光と闇の二重属性ツインエレメンツ
朝昼夕夜だけでなく様々な環境で活躍できる可能性を秘めているだけでなく本人の才能も凄まじい。
今はまだ荒削りな力だがいずれは大きな花を咲かせるだろう。

そんなアヤネが初撃を躱したのは気持ち的にかなり晴れる。

「へへ…どんなもん…だい」

精一杯の強がりをアヤネがオルトノに吐き捨てると、再度首を捻りアヤネの方向を向いたオルトノが今度こそ確実に仕留めるべく動く。

「おいコラ、テメェ。オレらの事はシカトかよ」

不意にアテラが大槌を思い切り振り、オルトノを壁までぶっ飛ばした。

「え…」
「マジかよおい…!」

既に男二人で戦う心意気であったリントとバルは唖然とする。
アテラの戦闘能力を侮っていた事もあってこの形態のオルトノに対するこちらからの初撃がまさかアテラになるとは想像すらしていなかった。

「おいバカ男二人組。お前らより弱ぇアヤネがあのバケモンの攻撃避けてお前らより弱ぇオレでも一撃入れられるんだ。なーに日和ってんだよバカが」

「……」

「初手で自己犠牲を選ぶんじゃねえ。それでダメだったら何もかもが水の泡だろうが。集団むれテッペン張ってんならまずは全員生きて帰ること考えろや。少なくともここにいる全員はテメエらを置いて逃げるつもりはねえぞ」

スノウを始めとした各団員を見るとその目には間違いなくこの場を乗り越えてやるといった闘志と覚悟が滾っている。

そんな頼もしい団員をみてリントは自らの浅はかさを悔いパチンっと顔を両手で叩き喝を入れる。

「わりぃアテラ。お前の言う通り、

そして正面向いてぶっ飛ばされたオルトノをしっかりと視界に捉えてにっと笑う。

「まずは3分あいつの出方を見る!配置はさっきまでと一緒…いやバルは下がって観察に徹底してくれ!」

「おう!」

「スノウ、俺は近距離戦インファイトしかけるから小細工してきたらつららとかで対処よろしく!」

「死なないでよ…」

「言ったろ。俺は約束破んないよ」

「…から」

「任せろ!!」

ザッ…

物音が聞こえる。
オルトノに纏わりついていた壁のかけらが落ちる音。
堂々と立っているオルトノが何の動作も見せずに水平に移動してまたアヤネに接近した。

「ニ度も通じると思うなよ。ボケが」

着火イグナイテッドを発動したリントがワンテンポ遅れてオルトノに接近して、遠慮もためらいもなく、右拳をオルトノの顔面にめり込ませる。

「yftgvbuinfok」

だが軽く揺れただけで大きいリアクションは感じられない。
痛覚が通ってるのかは知らないが殴ると理解不能な金属音にも聞こえる言語を発した。

「あ?」

頬に当たる部分に拳をめり込まされながら3つの目でリントを
そして一瞬だけ目が光る。

「やっべ」

とっさにオルトノに背負投げを決め込んでしまうと天井を向いた顔から3本の光線が発射されると天井にかなり深い穴ができた。

「まともに食らったら頭飛んでたな…」

そう呟きながら再び顔面に向けて拳を振り下ろす。
だがオルトノは地面に、リントのに姿を消していった。

「消えた!これは…」

「私の影溶ようよう!?」

面食らったのはリントだけでなく真似されたアヤネもだった。

「どこ行った!」

背中に危険察知の身震いが走る。
己の直感に従って上へと跳躍すると地面にあるリントの影からオルトノが両腕の刃を突き出してきた。

「っぶね!」

「しかも私より使い方うまいんだけど!!」

その中で冷静にバルは起こった事実を受け入れる。

「1回見ただけで学習完了って訳かよ…でかい大技は乱発するなよ!決めの一撃だけだ!」

影から身体の一部分のみを出現させるにはまだアヤネの技術が足りていない。
しかしオルトノは簡単にその技術の上を行った。

「おっけー。じゃあ…身体能力フィジカル勝負と洒落込むか!!」

着地したリントと同じタイミングでオルトノは姿を表し、流れるように近距離戦インファイトへと状況は遷移する。

オルトノの刃とリントの拳が混じり合い、時に傷つけ合う。

「すごい…今までよりも動きが冴えている…」

我らがギルドマスターであるリントの強さを誰よりも信頼していたアレタは驚愕する。
想像を上回る程の戦いを見せるリントに心の底から湧き出る興奮を隠せない。

(見える…リントがどう動くか分かるようになってきた)

それだけではない。
リントの動きを完全に理解したスノウが生じた隙を埋めるように氷魔法での追撃を始める。

「【踊るつららアイスクロウ】」

スノウの周りには数十本のつららが浮いており適切なタイミングでの発射をすることでオルトノの攻撃阻止にも繋がっている。

「でやぁっ!」

蹴り飛ばす。
一瞬の隙を見つけて炎を纏った前蹴りが腹部に入った。

その瞬間、一瞬だけ眼から光が消えると何かを感じ取ったバルはリントに告げた。

「いっぺんデケェの叩き込め!」
「りょーかいッ!!」

大地を蹴って自分で蹴り飛ばしたオルトノに急接近。

そして

「【魔拳 連炎れんえん】」

炎を纏った拳が何十回とオルトノを叩く。
抵抗する素振りは見せるもののそれすらもリントが打ち砕き圧倒的な優位を得たかのように見える。

しかし相手は未知なる生物。
勝った気になるには十二分に早すぎたようで、途中の一発がオルトノの体をすり抜け再び姿を消す。
おそらくアヤネの影溶ようようを使ったのだろう。

「くそっ!」

振り向くとオルトノは後方でリントの支援を行っていたスノウの正面に立っていた。
まるでリントのように両腕の刃に炎を纏わせながら。

「bvywiusnovhsRNEN」

「…ッ!【舞い踊るつららサベージアイスクロウ】!!」

咄嗟に後ろに下がったスノウは現在、現出させているつららに加えて一瞬で数十のつららを新たに生成し刃振るうオルトノにすべてぶつけた。



それがだとは気付く事はなく

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