69 / 72
圧倒的な達成感
しおりを挟む止めの一撃を放ち終わりほんの数秒の静寂な空間。
状況から察するに勝利は確信している。
なぜなら今の今まで相対していた敵の金色の体が埃のような薄暗い灰色へと変色しているからだ。
あとは達成感が遅れてくるだけ。
その空間を破ったのは当然と言うか、最も愚直で直線的な騒がしい男だった。
「よっしゃぁぁぁぁぁ……おぁ?」
体から力が抜けると視界が天井へと移り変わる。
背中にはごつごつと硬い地面が当たっているようで寝心地は最悪。
けれど心身にあふれる圧倒的な達成感。
それが満ちて自然と笑顔がこぼれてしまう。
「なんか…すっげぇ疲れたぁ…」
勝手に口から出た言葉は本音。
「なあマリーナ。レクゥーリアってのはどうやって取るんだ?こいつ倒したらどこかに現れるのか?」
構えていた大剣を背中の鞘へと収めたバルが事情を詳しく知っているマリーナへと視線を向けた。
ここに突入する前にマリーナはこの空間に巣食う魔獣の生命活動を止めることでレクゥーリアという物に姿を変えるとのことだったがそのオルトノは変色して動かなくなっている。
「従来であればオルトノの体が割れてレクゥーリアが出現するのですが…」
途端にここにいる全員が身に降りかかった強い殺気を身に受ける。
「ッ!?」
「うっ!」
ただの殺気というにはあまりにも重い。
そして憎しみという強い感情が籠もっているように感じた。
ありえない、あってほしくない、もしあってしまったならもうどうしようもない。
寝ていた体をすぐに起こして跳び上がり自分の直感で咄嗟に体を反らした。
あと0.3秒遅かったら右腕が飛んでいただろう。
空中に跳んだリントの視界に映ってしまったのは金色の輝きを取り戻すだけでなく、鉄くずの両翼は神々しい白金の両翼へと進化している。
『異…合……第…を確認。第…の優先対処を最…限に。排除プロ…コ…62を実行します。リミットレベルを無視』
明確に人の言葉を話した。
それもハーモラルに似つかわしくない現代的な堅苦しく格式張った言語を。
「着火…!?」
対処が遅かったのではなく、オルトノがあまりにも早すぎた。
目と鼻の先まで音もなく距離が縮まっておりオルトノは寸分の狂いもなく心臓を狙っている。
ここからの対処は99.9%不可能。
仲間たちも反応できていない。
命の終わりとは存外あっけなく迎えるものなのかと悟りすら開くことが出来るほど意識外の死を受け止めるには時間が足りなかった。
「おい、どうなってんこれは」
だがこの少年の命はここで果てる運命ではない
オルトノに何か黒くて人並みの大きさがある塊がぶつかるとそのまま跳ね飛ばされ、リントは寸前の所で命を拾う。
見間違いでなければ大型バイクのように見えたが…
なんとか着地をしたリントが視界に収めたのは黒いライダースーツを来たサングラスをかけたオールバッグの若い男。
あと見間違いではなかった黒い大型バイクが独りでに男の下へと動く。
「こいつをここまで追い込んだんは評価したる。普通やったら御の字や」
ハーモラルで聞けるとは思わなかった関西弁。
違和感がとてつもないが今はそんな事を気にする状況ではない。
関西弁の男がポケットに片手を入れながらオルトノに向かい歩くと再びオルトノが頭部を光らせる。
『状況更新、目標変更無し。続行し』
「まあ待てや」
移動を試みたオルトノの頭部を右手で掴む。
そして離さず地面へと叩き伏せると自身の魔法を使用するための詠唱を挟んだ後その場から爆発が起こる。
「うわ!」
「きゃあ!?」
「くっ!」
関西弁の男以外の人間が爆風に巻き込まれ各々目などを覆う。
恐る恐る目を開くとオルトノが最後にいたであろう場所に一際強く美しい緑の光を放つバスケットボールほどの大きさがある玉が浮かんでいた。
おそらくこれがレクゥーリアだろう。
「ったく、あいかわらず人使いが荒いやっちゃ」
まずはっきりさせなければならない事がある。
この男は敵なのか、協力者なのかだ。
しかしこれはマリーナが反応しなかった時点で後者である可能性はかなり少ない。
「…助けてくれてありがとう。あんたが来なかったら俺は多分その辺血塗れにして死んでたと思う」
とはいえこの男に命を救われたのも事実。
感謝の意を示すため、人の道として頭を下げて礼をする。
一見、気の良さそうな男ではあるが断言できるのは
(こいつには俺達が万全の状態でも絶対勝てねえ…下手すりゃレカルネラよりもずっと強い…!)
圧倒的な強者であるということ。
立ち振舞や戦闘時の様相、小さな行動までもが男の戦闘力の高さを示している。
「あー…気にせんでええよ。仕事やし」
協力者の可能性が高くなり気さくな返事がかえてくると一度安堵したリントが頭を上げる。
が
雫のような煌めきがリントの頬を掠り後方で爆発音が発生した。
「ところで誰なん?おまえら?」
前言撤回
少なくともマズイ状況になった。
「ユーゲイさん待ってください!彼らは私の仲間です!」
声を張り上げたのはスノウ。
口ぶりからして既知の関係であると予想できるが関西弁の男は首を傾げている。
「…嬢ちゃん誰や?」
「ス、スノウです!ナフィコのユーレア学院を卒業して3ヶ月前にセンタレア直属魔法士団に入団したスノウ・メロウルです!」
「ほー?そう言われりゃ何ヶ月か前に似とる顔を見たことある気がするわ。てことはここにおる皆んなはスノウちゃんの部下ってわけかいな」
「スノウ、知り合いか?」
仲間たちが緊張を張り詰める中、リントがスノウに尋ねる。
「ええ…この人は…」
「ま、お前みたいなもんや。スノウちゃんがおるんやったら悪い事はしてへんやろ」
「俺みたいな?じゃあ冒険者!?」
「おー。そうやそうや俺冒険者やねん。ほな俺帰りますわ」
「違う!この人はセンタレア直属魔法士団の第四席のユーゲイ・スグキさんよ!つまり、私の上司って事!!」
スノウが男の素性を明かすとユーゲイは手で目を覆う。
まるで『言わんでほしかったわ…』と言っているかのように。
「センタレア直属…フィナンシェさんの同僚って事!?」
思い出すのは小柄すぎる空色の髪を持つフィナンシェ・モンブランという名のセンタレア最強の魔法士。
顔を合わせたのは一回だけで勝負等はしたことはないが、それでもなおセンタレア最強という肩書に間違いはないと確信させられた。
「そんな人がなんでわざわざこんな所にいんの?ここミガレユノだけど」
「休暇中やったんや。けど緊急招集来たらセンタレア戻らなあかんやん」
「緊急招集…?そんな事私知らないですよ」
「あれま。これ言ったらあかんかったやつ?ほな忘れてや」
バイクの収納スペースからヘルメットを取り出してそれを被り、跨るとエンジンの音が轟くとこの形に馴染みのないバルやアテラが更に警戒を強める。
「ちょ…!」
「ほな、またもう二度と会わんことを期待してるわ」
更に大きい音を轟かせると出口に向かってハンドルを曲げて動き出す。
あとに残ったのは多くの疑問とレクゥーリアのみだった。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
遊鷹太
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。
この世界では、魔法は一人一つが常識。
そんな中で恒一が与えられたのは、
元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。
戦えない。派手じゃない。評価もされない。
だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、
戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。
保存、浄化、環境制御――
誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。
理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、
英雄になることではない。
事故を起こさず、仲間を死なせず、
“必要とされる仕事”を積み上げること。
これは、
才能ではなく使い方で世界を変える男の、
静かな成り上がりの物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる