その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや

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雪国を後にして

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昨晩はかなり楽しんでしまった。
具体的には豪勢な食事にとても広い風呂に寝心地最高のベッド。
激闘も相まって普段より深い睡眠に入れたのか目の重みが一切ない。

「皆さま、おはようございます。朝食のご用意は出来ておりますのですぐに配膳いたします」

何より、マリーナがとても優秀だ。
戦闘だけでなく料理を含めたすべての家事をとても高いレベルで素早く行う。

「やっぱメイドっていうか…執事っつーか…そういうの欲しいよなぁ」

「少なくとも今みたいに旅を続けている間は無理ね。将来ちゃんとギルドハウス建てたら雇えば?」

独り言をスノウに聴かれていたようで夢という風船に現実という針を刺されて破裂した。

「でも確かにマリーナはすごい。ここまで優秀な使用人はそうそういない。うちにも欲しかった」

「シフラちゃん…もしかして良い所のお嬢様だったりする?」

シフラはマリーナのような使用人に使えられていたかのような口ぶりにアヤネが反応。

「………ナイショ」

「内緒かあ」

そういえばシフラの身の上話を聞いたことがない。
シンヘルキからナフィコへの道中にある川でぷかぷかと流されていたのでその場の流れで同行していたがどこの国の出身なのかも知らない。

そう思っているとマリーナがそれぞれの前にワンプレートの朝食を配膳する。
焼き立てのパンに特性のフルーツジャムが添えられており、目玉焼きや野菜も添えられており見た目も良い。

「ところで…皆さま次はどこへ向かわれるのですか」

配膳を終えるとマリーナが聞く。

「アヅラタンだ。オレはそこに用がある」

返事はアテラが。
特にアヅラタンに向かう理由はアテラにあるからだ。

「なるほど、アヅラタン…」

「ああ。オレはアヅラタンで鍛冶を学んで腕をもっと上げるんだ。そしていつか親方を超える」

「せっかくアヅラタンに行くなら武器とか色々新調するか。時間に余裕があるならちょっくら滞在するのも悪くないんじゃねえか」

「そうだね。シンヘルキが造船や工芸、大工の国だとすれば、アヅラタンは鍛冶の国。武器を使って近接戦をするバルくんはもちろん、リントくんやアヤネちゃんも装備を充実させるといいかもね。僕も薬を作る器具を色々と見たいからね」

「ふーん、そっか。ま、行ってから考えっか」



朝食を平らげ各々部屋に戻り、荷物を纏める。
居心地が良かった屋敷だったがこのまま居座り続けることはできない。

屋敷の外で餌を食べ終わったダリオルを表へと出すと団員全員が待っていた。

「ありがとうマリーナ、昇る太陽を代表して礼を言うよ。世話になった」

「いいえ。こちらこそレクゥーリアの件、心より感謝いたします」

「そういえばおっさんは?昨日の夜から見てないけど…」

「ダディオ様はこの後来られるお客様のために色々と準備をしております。意外とお忙しい方なのですよ?」

「そっか、おっさんにもよろしく言っといて。またなんか依頼があったら俺達が受けるってな」

「ふふ、かしこまりました。それでは皆さまの旅が良いものでありますように」

「うん、ありがとう。またいつか」

ダリオルに跨り手綱を握り前進するよう命ずると2台の荷車を引きながらアヅラタンへと少年たちは旅を再開。
彼らが見えなくなるまでマリーナは美しい姿勢の礼を続けており、昇る太陽へ最大限の感謝を示し続けた。

「行きましたね。このままお庭のお掃除を…む?」

感情を切り替え仕事へと移ろうとしたマリーナだったが新たな客人を乗せた馬車のようなものが見える。

近づいてくると先程の昇る太陽のダリオルより黒く凶暴性が高そうなダリオルが黒い荷車を引いており、それに跨る人物は黒いローブを羽織りフードを深く被り顔を隠していた。

屋敷の前で停車すると扉のついた荷車から3人の人物が降りる。

一人は少年に見紛うほど若い。
余裕を持っているのか緊張や不安といった表情は見られず、むしろここまでの道のりを楽しんでいるかのようだ。

後から降りてきた2人の人物は仮面によって顔面を隠しており表情はおろか顔のどのパーツも見ることができないが体格や髪の長さでかろうじて女性と分かる。

「お待ちしておりました」

怪しさでいうならば上限を突き破っているがマリーナは礼儀を忘れない。
それに今回、なぜダディオが客人を呼んだのか理由をマリーナは知らされていないのだ。
もし客でなく本当に不審者であるのなら始末すればいいだけだ。

「お出迎えありがとうございます。から参りました・ウォールデンと申します。どうぞよろしく」

「ダディオ様にお使えしているマリーナと申します。微力ながら、レオード様のお手伝いをさせていただきます」

「うん、よろしく!いやぁ~、硬っ苦しい話し方ボク嫌いなんだよねぇ。あ、後ろの仮面は、長い黒髪は…えーっと…?」

「…よ」

「そうそうメルト!初めて会ったし何にも喋らないから名前聞きそびれちゃったんだよね」

飄々としたレオード、何も喋らないエンヒ、不機嫌そうに話すメルト。

やはりアヴェダレオという国の者はどうも信用ならないが、ダディオの望みならそれを通すのが私の役目だ。

「それではダディオ様の下へご案内いたします。どうぞ中へ」

ダリオルと荷車を先程まで昇る太陽のダリオルがいた場所へ入れ、3人をダディオのいる部屋へと通す。

「ようこそ、はるばる遠い所ご苦労さまだ。依頼人のダディオ・ゴルドードだ。まあ座れ」

葉巻を蒸していたダディオが客人に座るよう促す。

「それじゃ、失礼して」

座ったのはレオードのみ。
エンヒとメルトは座らずに立ち続けている。

「手紙で要件は把握したけど…確認も兼ねて直接今回の依頼を教えてよ」

「ああ。今回、俺がお前らアヴェダレオに依頼したいことは一つ」

葉巻の煙を吐き出したダディオが一泊置いて本題に入った。

「もうじき、アヅラタンのベリダバ山に爆ぜる火山龍ことが現れる。

「っ!ダディオ様!?」

その発言に付き人のマリーナが珍しく驚愕の声をあげた。

爆ぜる火山龍はぜるかざんりゅう】レンジド・オーブナー

それはS級という魔獣の中でも頂点のランクに位置する世界最強峰の魔獣の名。

不死雷轟鳥ふしらいごうちょう】ヴォルトアン・ヘアット、【凍てつく大陸亀いてくつたいりくがめ】フロン・フロストと名を連ねる異界融合体と呼ばれる地球の科学とハーモラルの魔法が奇跡的に融合した新たな生命。

無論、この事は一般的には知られておらず世間としては極稀に姿を表す強力な魔獣という認識をされている。

本当の事を知っているのは地球とハーモラルを行き来する者と各国の王や位のある学者くらいだ。
あるいはこの男のように大量の金を持ち様々ながある富豪か。

「あっはっはっは!!まっさか本当にそんな事を依頼するなんて!」

動じず立っている仮面の2人とは対称的に無邪気な子供のようにケタケタとレオードは腹を抱えて笑っている。

レンジド・オーブナーを深く知る者がこの言葉だけ聞けば一種のジョークにも聞こえるだろう。
遭遇するだけでも一生分の運を使い果たすと言われているのにそれに加えて捕獲をするなど物書きも題材にしないであろう難題。

「っはっはっは…あー笑った笑った。じゃあ受けるよその依頼」

「…勝算はあるのか」

「あるよ。ボクの後ろにいる黒髪のメルトが切り札」

「ほう…」

「彼女は時渡りの国の末裔、それいレンジド・オーブナーと戦って引き分けたことがある。ボクやエンヒもいるし失敗するほう可能性の方が低いよ。まだ不安?」

「セトクルの末裔…出会うのは初めてだが力はあるのか?」

「それはもうばっちり。ねえメルト」

「………」

にこやかに話しかけているのにメルトは頑なに話そうとはしない。

「とにかく勝算はある。段取りも既に準備中。ボク達としてはお互いの合意があればすぐにでも動けるよ」

「ダディオ様」

少しだけ考えているのか黙り込んだダディオにマリーナが声を掛ける。

「やはりリスクが高すぎます。私は_」
「黙れマリーナ。この件にお前の意見は聞かん」

心配から出たであろう感情も今のダディオにとっては煩わしいのみ。

「分かった。お前たちに任せよう」

「オーケイ、取引成立。成功報酬は…」

「ああ。手紙に書いた通り俺の全財産を持っていけ」

「例え邪魔が入っても絶対成功させるよ。任せて」

レオードは自信があるようで終始笑顔を絶やすことはなかった。



「っくしゅん!!」

ダディオの屋敷から十数分歩いた所、アヅラタンに向けて移動していたリントが寒さのせいかくしゃみをした。

「風邪でも引いたのかい?」

「いやー、誰か噂でもしてんじゃないの」

リントとアテラが他愛もない会話している中、つい先程からアヤネが何か考えているようで腕を組みながら歩いている。

「ねーみんな。あのお屋敷ってマリーナさんとダディオさん以外に人っていた?」

「そういえば見てないわね」

「確かに。マリーナとおっさんしかいなかった」

「それがどうしたの?」

スノウとリント、おそらくアレタもあの2人しか見てないらしい。

「オルトノと戦ってる時にね、マリーナさん最後は両手から結構出血しながら戦ってたんだ」

「そういえばそうだったな。オレとアヤネとシフラが手伝ってもマリーナは結構血ぃ出してた」

「うん。普通だったら料理どころか包丁すら持てないくらい怪我してたのにお屋敷に着いたら何にも無かったみたいに料理作ってたから…」

「めっちゃ丈夫かめっちゃ回復力すごいんじゃねえの?」

「全員が全員あんたみたいにおかしいわけじゃないの」

「次に会えたら聞けばいい。あのダディオっておっさんもあんなに金持ちならいろんな場所に別荘持ってんだろ」

女子たちが利用する扉付き荷車の屋上で空を見ながら寝転がっていたバルが喋る。
それに同意する様にリントも返した。

「それもそっか。じゃあ次会えた時の楽しみするか」

「うーん…ま、いっか」

アヤネは半ば無理やり自分を納得させて話題を終わらせて再び他愛のない話へ。



第四章 世界の狭間のオルトノ ユガレミノ編 完結

Next Episode 第五章 父と娘と爆ぜる火山龍 アヅラタン
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