その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや

文字の大きさ
2 / 72

日向家は異世界を旅する

しおりを挟む

あと一歩、近づけば後ろから襲える・・・!

じりじりと足音を立てずに子豚の魔獣【ポク】に近づく。
こいつはたまにマナの光にならずに丸々その姿を残すことがある。
そしてその味が美味いのなんの、今日の昼飯はこいつに決まりだ。

「えーい!」

踏み込んだ、飛びかかる、このまま背中に乗った。
この前教えてもらったばかりだが拳に魔力を込めてポクの背中を上から殴った。

「ぽっく!ぼぐほぐっ!」
「うわ!わわっ!」

暴れん坊のポクを抑えることが出来ずに振り解かれて地面に尻餅をついてしまい、傷んでいる隙に持ち前の逃げ足を発揮して気がついた時には遥か先に消えていった。

「なんだ、また失敗したのか」

後ろから聞こえたのは父の声、振り向くと両脇には2頭のポクを抱えている。

「あともうちょっとだった」
「逃げられてるんだからお前の負けだっての。母ちゃんとこ戻るぞ」

不貞腐れた顔をしながら父の背中を負う。
数分歩くと木々の無い開けた場所に出た。

「おかえりー凛斗、パパ」
「おう美穂。二匹も取れりゃ十分だろ」

そこには焚き火をしている母と馬とサイが合わさったような荷物引きの魔獣【ダリオル】が男達の帰りを待っていた。

「あれ、凛斗はまた失敗したの?」
「逃げられてたぞ」
「まっこー勝負ならぜっっったい負けないし」

この様に日向家は異世界であるハーモラルを父、母、凛斗の3人とペットのダリオルと一緒に旅している。

これは俺が大きくなってから知ったことだが、今このハーモラルを行き来できる人間は日向家と東雲家の二つの家の人間でもう一個、霧雨家というのがあったらしいが血筋が途絶えたらしい。

そして日向家は代々、ハーモラルで得た技術や知識などを調査して現代日本に提供することで家計を回しておりこの一瞬一瞬が仕事だと。

「飯も食ったしそろそろ動くか」
「そいえば、つぎどこむかってるの?」
「あん?そりゃだろ」

センタレア、それはハーモラルにおける中枢都市国家だ。
ハーモラルに現存する文化、技術、信仰、商業に多数の種族の人々が集まりここで生まれここで生を終える人も少なくはない。

「えー、あそこ人おーいだけじゃん!なんでそんなとこいくの!?」
「お前を小学校入れるから一旦帰る」
「しょーがっこー?」
「学校だよ。勉強しろ」
「いやー!いやいやいやー!」

「すぅー・・・すぅー・・・」

あまりにもいやいやうるさかったが荷車に放り投げたらあっさりと駄々を捏ね疲れて寝てしまった様だ。

「寝ちゃったね」

膝の上で眠る愛しい息子の頬を優しく撫でる。

「向こうに帰る前にギルドのみんなにも挨拶しとかないとね。手紙来てたけどライメルさんも今はセンタレアに戻って来てるみたいだし」
「ライメルか。そういえばあいつの娘も凛斗と同い年だったか」
「スノウちゃんね。確か誕生日も一ヶ月違いだったはず。最後に会った時は5年前だしもっと可愛くなってるかもね」

目を覚ますとそこに映ったのは自分を見守るように寝ている母親。
それを起こさない様にゆっくりと起きると外の景色は夕暮れを見せてくれた。

「おう、起きたか」

荷車から飛び降りて少しだけ土を歩くと父が脇を抱えて父の前のダリオルの背に跨る。

「一年ぶりのセンタレアだ。どうだ?」
「もっとキレイなとこ行きたかった」

ぷいっと顔を晒して臍を曲げた。
これだから子供は難しい。

「うっはぁー!にくにくにく!!!」

前言撤回、やっぱ子供単純だわ

向こうの世界に帰る前に日向家が所属しているギルド【夜明けの太陽】に顔を出すと急遽宴会を開いてくれることになりまだ子供の凛斗は目先の食事に釘付けだ。

「ようキョーヘイ!リントくんも随分大きくなったじゃねえか」
「おっすロック。まだまだチビだって」
「ミホ!久しぶりじゃない!」
「メティも元気そうで何よりよ」

父は仲間のギルドメンバーと楽しそうに酒を飲み話をしており母も母で同じ様に魔法使いの女性と会話しているのでこうやって一人で大皿の肉料理を独り占めしている。
周りを見渡しても同じくらいの子供などいないのでこうして料理と向き合うしかないのだ。

喉が渇いたので少し離れたギルドの受付嬢さんに飲み物を欲していることを伝える。

「「ジュースください!」」

声が、被った?
横を見ると少しだけ背丈が低い長く、綺麗な白い髪の女の子がきょとんとした顔でこちらを見ていた。
というか、なんだこの女の子・・・

「かわいい・・・」
「はぁ!?なによきゅうに!?」
「ごめんねぇ。もう一人分しか残ってないのー」

受付嬢さんが申し訳なさそうに一本のビンに入ったジュースを持って来た、が。

「おれが!」
「わたしが!」

再度、見つめ合った。
本当に結構可愛い顔してるなこの子
だがそれはそれ、これはこれだ。

「なに、あんた」
「おまえこそなに?」

俺は今このジュースが欲しいのだ。

「スノウ、ここにいたのか」

スノウと呼ばれた少女の後ろには大きな金髪の優しそうな男の人が酒を片手に立っていた。

「パパ!」
「おう凛斗。ちゃんと食ってるか?」

そして俺の後ろには父親の恭平が。

「ライメルじゃねえか。久しぶりだな」
「キョーヘイ!会いたかったよ」

ライメル?
確か親父が結構話してたな。
なんでも昔よく一緒に戦った仲間だと。

「そこの白い髪の子はスノウちゃんか」
「そうだよ。リントくんもかなり大きくなったね」
「そっちこそ、あの時の赤ん坊がこんな可愛くなっちゃって」
「ねーパパ。この男の子、わたしのことかわいいって言ってきたよ」
「なんだ凛斗。ナンパするにはまだ10年早いだろ」
「ちげーし!」

いや、違くないけど。
だってこのスノウって女の子・・・めっちゃかわいいんだもん

「そんなことよりわたしジュース飲みたいのにこの子譲ってくれないの」
「いいかいスノウ?こういう時は自分から譲るんだ」
「いやいやいいって。凛斗我慢しろ」
「や!」

子供同士が睨み合う。
父親達はそれにすこしだけ呆れた目をしたが、あるギルドメンバーがこんな疑問を口に出した。

「キョーヘイさんとライメルさんって確か家族で旅してんだろ?どっちの子供が強いか気になるなぁ!」

三度、見つめ合った。



「おれに勝ったらジュースあげるよ」

即座に外の訓練場に出た。
観客はお互いの両親に加えて陽気なギルドメンバーがガヤを飛ばしながら今後の夜明けの太陽を背負う人材の大事な一戦を見守る。

「じゃああんたがわたしに勝ったらなんでもしてあげるわ」
「なんでもぉ?」
「そうよ、わたしつよいもの。ジュースもタルごとだろうがかってあげる(パパが)。あ、そうだ!あんたとケッコンしてあげてもいいわよ?顔はちょっとかっこいいし、あんたも私に惚れたんでしょ?」

ひゅーひゅーと外野のおじさんおばさん達が白熱する中、展開された子供だけの戦場。

「最近の若い子はオマセさんだなぁライメルさんよぉ!うちのクソ坊主にも見て欲しいぜ!」
「スノウはああやって挑んできた人全てを完膚なきまでに叩きのめすのが好きなんですよ」
「あっはっはっ!凛斗!気の強え嫁さんもらうと苦労するぞー・・・はっ!」
「へえ・・・苦労してるんだぁパパぁ?」

何故か後ろから母の殺気を感じたが無視しよう。

「じゃあおれに勝ったらおまえドレイでもなんでもなってやるよ」
「へぇ・・・言うじゃない。ハッタリじゃないといいわね」

スノウの持っている気の杖が怪しく光る。
それに応じる様に凛斗も拳を構えた。

少しだけ、風が吹くとそれをスタートの合図と感じ取りスノウの氷魔法で生成された氷塊が凛斗に発射され、凛斗はスノウに近づくべく駆け出した。

「はぁぁぁ!」
「うぅるぅぁぁ!!!」




そしてこの夜が、ハーモラルで過ごす最後の夜になってしまった。

「またこの夢か」

目覚ましが鳴ったので目を覚ましてそれを止める。
少しだけ天井を眺めて10年前の記憶に浸った。

当時6歳でハーモラルを家族で旅していた俺はあの後すぐに起こった事件をきっかけにこちらの世界に俺帰還した。
そんな俺も立派に成長して今では高校生だ。

「今日の夜は出ないといいな・・・」

眠い目を擦りながらベッドから降りて下のリビングに足を運んだ。

--------

第一話に続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える

遊鷹太
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、 家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。 降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。 この世界では、魔法は一人一つが常識。 そんな中で恒一が与えられたのは、 元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。 戦えない。派手じゃない。評価もされない。 だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、 戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。 保存、浄化、環境制御―― 誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。 理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、 英雄になることではない。 事故を起こさず、仲間を死なせず、 “必要とされる仕事”を積み上げること。 これは、 才能ではなく使い方で世界を変える男の、 静かな成り上がりの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...