無意味な努力

無意味な努力

　「あなたのことが好きです、俺と付き合ってくれませんか？」
とあなたは言う。しかし私は彼のことを何も知らない。
　私は恋愛に興味がない、友達や家族に好きと言った感情を抱くことはあっても恋人になりたいなどといった好きはよくわからないのだ。返事はどうしたらいいのだろうか、彼は今にも逃げ出しそうな顔でこちらを見ている。
　「ごめんなさい、私はまだあなたのことを何も知らないの」
といって私はとても申し訳なくなった。しかし彼は、
「ならまずは知ってもらうところからだ！俺は同じクラスの鈴木海斗です。麻衣さんのことを一目見た時からずっと好きでした」
といった。
　高校に入学してからまだ二週間しか経っていないというのにどうしてこうも人のことを簡単に好きになれるのだろうか、到底理解ができない。話したこともなければ会った回数だってまだ少ないのに本当にこの人はまともな人なのだろうか。
　こんなことを考えているうちにもうあたりは真っ赤に染まっていた。急いで家に帰らないと母に叱られてしまう。
「もう、遅かったじゃないの。何かあったの？」
と母に聞かれ私は首を横に振るだけで何も答えることはできなかった。考えれば考えるほど何もわからなくなっていくような気がした。
　今日はもうお風呂に入って早く寝よう、そうしてまた明日の朝になったらきっとこの悩みも解決していくことだろう。
　翌朝、私は激しい光の中で目が覚めた。布団を干すには絶好のいい天気だった。さあ今日も学校に行かないと、そうして私は朝ごはんにパンと目玉焼きを食べ終わるとゆっくりと学校へ歩いていった。なんて気持ちのいいスタートだろう、こんなにも楽しく1日を始められるなんてきっといいことがあるに違いない。
　そうして学校に着くと何やらクラスが騒がしかった、なんと昨日私に告白をしてきた男子がクラスでみんなに笑われていたのだ。
「あれだけ美人な子に急に告ったわそりゃ振られるわ」
そう笑っている男子達に私はなんだか憤りを感じた、どうしてこうも人の気持ちを蔑ろにするのだろうか。私には到底理解ができない。
　私はなんだか気まずくなってその場から逃げ出した、なんて最悪な日だ。私には人の気持ちを理解することはできないのだろうか。
あんなに気持ちよかった日差しが今では自分のことを突き刺す刃に見える。頭の中を整理するにはまたきっと多くに時間がかかるだろう。
　私は人の気持ちがわからない化け物だ、社会に馴染むことはできず誰のことさえ理解することができない。私のこの努力はきっと無駄なのだろう、だっていくら考えても人の考えていることが理解できないからだ。私は私のままでいい、世界の全てがよりよく変わればいいのに。
　こうして世の中に何百万人と潜む社会不適合者が生まれたのだった。