ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g

文字の大きさ
5 / 24

第5話:奇跡の変身、そして……

しおりを挟む

 目覚めた時、最初に感じたのは「寒さ」だった。

 寒い。とにかくスースーする。
 自慢の漆黒の毛皮はどうした? 換毛期にしては抜けすぎだろう。
 それに、体が妙に重い。鉛でも詰め込まれたように気だるく、節々が痛む。

(……生きてる、のか?)

 俺は重いまぶたを押し上げた。
 視界に入ってきたのは、見慣れない天井……ではなく、洞窟の岩肌だった。
 どうやら俺たちはまだダンジョンの中にいるらしい。安全地帯(セーフティエリア)にテントを張ったのだろうか。焚き火の燃えさしが、チロチロと赤い光を放っている。

 記憶が蘇る。
 バジリスクとの死闘。俺の特攻。そして、アレクセイの絶叫と魔力の流入。
 俺は慌てて体を起こそうとした。

「うわっ、っと……!」

 バランスが取れない。
 いつもなら四つ足でピョンと起き上がれるはずが、重心がおかしい。
 ドサッ、と無様に横転してしまう。
 その拍子に、自分の視界に「自分の手」が入った。

 そこにあったのは、黒い毛に覆われた丸い前足ではなかった。
 肌色の、細長い指。
 爪は短く、関節があり、手のひらがある。
 それはまごうことなき、「人間の手」だった。

(……はい?)

 俺は固まった。
 恐る恐る視線を下ろす。
 胸板がある。腹筋がうっすら割れている。へそがある。
 そして、その下には――立派な、男のシンボルがついている。

 もちろん、服など着ているはずもない。
 生まれたままの姿。全裸である。

「え……えええええッ!?」

 声が出た。
 「キュゥ」ではない。低い、少年の声だ。
 俺はペタペタと自分の顔を触った。
 鼻が低い。口がある。耳は……あ、耳は頭の上に長いのがある。尻尾もお尻に丸いのが残ってる。
 だが、それ以外は完全に人間だ。
 年齢で言えば、10代後半くらいか? 前世よりは若いが、子供というほどでもない。

 これが、『進化』?
 アレクセイの魔力を浴びすぎて、人化のスキルを獲得したのか!?

「……ん……」

 俺の悲鳴(という名の絶叫)に反応して、隣で寝ていた男が身じろぎした。
 アレクセイだ。
 彼はマントをブランケット代わりにし、座ったまま仮眠を取っていたようだ。その顔には濃い疲労の色が滲んでいる。

 まずい。
 非常にまずい状況だ。
 勇者が目を覚ましたら、隣に「見知らぬ全裸の男(不審者)」がいるのだ。
 斬られる。寝起きドッキリにしてはハードすぎる。

 俺は慌てて隠れようとしたが、慣れない手足が絡まって、再び派手に転んだ。
 ドンガラガッシャン! と近くにあった金属製の水筒を蹴飛ばす。

「――敵襲ッ!!」

 アレクセイが弾かれたように跳ね起きた。
 寝起きコンマ一秒で剣を抜くその反応速度はさすがだが、今はそれが寿命を縮める。
 切っ先が、俺の喉元にピタリと突きつけられた。

「貴様、何者だ! 結界をどうやって抜けた!」

 殺気。
 本気の殺気だ。碧眼が爛々と輝き、俺を敵と認識している。
 俺は腰を抜かし、両手を上げた(全裸で)。

「あ、あのっ、違います! 不審者じゃありません!」

「人間の……少年? なぜこんな深層に……いや、魔族か!?」

 アレクセイは剣を引かない。むしろ、ジリジリと間合いを詰めてくる。
 彼の視線が、周囲を素早く巡る。
 そして、俺が寝ていた場所に「黒ウサギ」がいないことに気づき、顔色を変えた。

「ノワールはどこだ……? まさか貴様、俺のノワールをやったのか!?」

 激昂。
 空気が震えるほどの怒気が噴出する。
 俺が「ノワールを食べた魔物」だと誤解したらしい。
 待って、殺さないで! 俺がそのノワールです!!

「ち、違いますアレクセイ様! 俺です! ノワールです!!」

 俺は必死に叫んだ。
 その言葉に、アレクセイの動きがピタリと止まる。

「……あ?」

「俺です! あのアシッド・スライムの時に頭突きした! 昨日の夜、悪夢を見てたあなたの頬を舐めた! さっきバジリスクに吹っ飛ばされた、ウサギのノワールです!」

 証拠となるエピソードを早口でまくしたてる。
 アレクセイはポカンと口を開け、剣を下げた。
 まじまじと俺を見る。
 俺の黒髪。赤い瞳。そして、頭上のウサギ耳。

「……ノワール、なのか?」
「はい。多分、あなたの魔力を貰いすぎて、進化しちゃったみたいで……」

 俺はおそるおそる答える。
 アレクセイは剣を放り出し、俺の肩をガシッと掴んだ。

「生きて、いるのか……?」
「はい、ピンピンしてます。ちょっと寒いですけど」
「よかった……っ!」

 アレクセイがいきなり俺を抱きすくめた。
 鎧の硬い感触と、彼の体温が伝わってくる。
 彼は俺の背中に顔を埋め、震えていた。

「死んだかと思った……もう二度と、会えないかと……」

 男泣きだ。
 最強の勇者が、俺ごときのために泣いている。
 俺はためらいがちに、人間の手になった両手で、彼の背中をポンポンと叩いた。
 
(……重い。愛が重いよ、勇者様)

 だが、感動の再会も束の間。
 アレクセイがふと体を離し、俺の姿を改めて確認した時だった。

 彼の視線が、俺の顔から首筋、胸板、へそ、そしてその下へと、ゆっくり移動していく。
 沈黙。
 洞窟内に、ポタリと水滴の落ちる音が響く。

 アレクセイの顔が、耳まで真っ赤に染まった。

「き、貴様……! なんという格好をしているんだ!」

 バッと顔を背けるアレクセイ。
 いや、服がないんだから仕方ないだろう。

「服がないんです! 貸してください!」
「あ、あぁ……すまない、動揺して」

 アレクセイは慌てて自分の予備のシャツとズボンを亜空間収納から取り出し、俺に投げつけた。
 俺はそれを着る。
 当然だが、サイズが合わない。
 身長190センチ近いアレクセイの服は、今の俺(推定165センチ前後)にはブカブカだ。
 シャツの袖は余りまくって「萌え袖」状態。ズボンはベルトを限界まで締めてもずり落ちそうだ。

「……着ました」

 俺が声をかけると、アレクセイがおそるおそるこちらを向いた。
 そして、ブカブカのシャツを着た俺を見て、再びフリーズした。
 鼻血が出そうな顔をしている。

(……ん?)

「……黒髪、赤目。華奢な体躯に、俺のシャツ……」

 アレクセイがブツブツと呟いている。

「……好みだ」
「はい?」
「いや、なんでもない!!」

 アレクセイはブンブンと首を振り、咳払いをした。
 だが、その目は明らかに泳いでいる。
 さっきまでの「ペットへの愛」とは、明らかに違う種類の熱を含んだ視線。

 俺は背筋に悪寒を感じた。
 待て待て待て。
 ウサギの時でさえ、あれだけ溺愛(勘違い)されていたのだ。
 それが、「人間の姿」になり、しかも「言葉が通じる」ようになったら?
 さらに、あろうことか勇者の「ストライクゾーン」の見た目になってしまったとしたら?

 ――逃げ場が、ないのでは?

「ノワール。言葉は、話せるのか?」

 アレクセイが改まった口調で聞いてくる。
 俺は姿勢を正した。これからは、人間としての「仕事(サポート)」が求められるはずだ。
 元営業マンとしてのスキルを見せる時だ。

「はい。アレクセイ様。これからは言葉でもサポートさせていただきます。……その、今まで助けていただき、ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げる。
 完璧な敬語。完璧なビジネスマナー。
 これで「デキる部下」として認識してもらえるはず。

 そう思った俺が顔を上げると。
 アレクセイは胸を押さえ、天を仰いでいた。

「声まで……可愛いとは……」
「聞いてます!?」
「ああ、聞いている。素晴らしい。最高だ」

 アレクセイは恍惚とした表情で俺の手を取り、その甲に口づけを落とした。
 騎士の誓いのような、それでいて粘着質なキス。

「改めて契約しよう、ノワール。お前はもう、ただの使い魔ではない」

 彼の碧眼が、逃がさないとばかりに俺を射抜く。

「俺の唯一無二のパートナーだ。……覚悟しておけよ?」

 その言葉の意味を深く考える前に、俺は本能で悟った。
 ウサギ時代よりも、さらに過酷で、さらに濃厚な「勇者のお世話」ライフが幕を開けたのだと。

(……労災、下りないだろうなぁ)

 俺はブカブカの袖の中で、そっと拳を握りしめた。
 人化した喜びよりも、貞操(?)の危機を感じつつ、物語は折り返し地点へと突入する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

王子に彼女を奪われましたが、俺は異世界で竜人に愛されるみたいです?

キノア9g
BL
高校生カップル、突然の異世界召喚――…でも待っていたのは、まさかの「おまけ」扱い!? 平凡な高校生・日当悠真は、人生初の彼女・美咲とともに、ある日いきなり異世界へと召喚される。 しかし「聖女」として歓迎されたのは美咲だけで、悠真はただの「付属品」扱い。あっさりと王宮を追い出されてしまう。 「君、私のコレクションにならないかい?」 そんな声をかけてきたのは、妙にキザで掴みどころのない男――竜人・セレスティンだった。 勢いに巻き込まれるまま、悠真は彼に連れられ、竜人の国へと旅立つことになる。 「コレクション」。その奇妙な言葉の裏にあったのは、セレスティンの不器用で、けれどまっすぐな想い。 触れるたび、悠真の中で何かが静かに、確かに変わり始めていく。 裏切られ、置き去りにされた少年が、異世界で見つける――本当の居場所と、愛のかたち。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

泥酔している間に愛人契約されていたんだが

暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。 黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。 かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。 だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。 元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。 交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。

魔王の下僕は今日も悩みが尽きない

SEKISUI
BL
魔王の世話係のはずが何故か逆に世話されてる下級悪魔 どうして?何故?と心で呟く毎日を過ごしている

処理中です...