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第3章:勇者のパパ疑惑!?伝説の師匠と魔の育児研修
第23話:最強の家族(パーティー)結成
しおりを挟む王都の地下水道を抜け、さらに奥深く。
廃棄された古代遺跡を利用した空間に、闇ギルド『黒い牙』のアジトはあった。
厳重な警備。幾重にも張り巡らされた探知結界。
本来なら、侵入するだけで数日はかかる難攻不落の要塞だ。
――そう、「隠密」に徹するならばの話だが。
ズドォォォォォンッ!!!!!
要塞の鋼鉄製の正門が、紙屑のようにひしゃげて吹き飛んだ。
轟音と共に、土煙が舞い上がる。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「正面からだ! 馬鹿な、結界が反応していないぞ!?」
慌てふためく構成員たち。
無理もない。結界は「解除」されたのではない。「物理的な破壊エネルギー」が飽和しすぎて、機能不全に陥ったのだ。
粉塵の中、悠然と歩いてくる三つの影があった。
「……ここか。わしの可愛い孫を隠したのは」
先頭を行くのは、巨大な戦鎚を担いだ老人。
ガランド・ヴォルテックス。
その全身からは、周囲の空気が歪むほどの怒気が立ち昇っている。
「手加減はいらんぞ、アレクセイ。更地にして構わん」
「承知しました、師匠。……害虫駆除は、徹底的にやる主義ですので」
その隣には、黄金のオーラを纏った勇者アレクセイ。
聖剣を抜き放ち、その瞳は氷のように冷たく澄んでいる。
そして、二人の巨人の後ろに控える、黒いスーツ姿の男――俺、ノワール。
「さあ、業務開始です」
俺は影から数本のダガーを取り出し、ニヤリと笑った。
「これより、資産(リュウ)の強制回収を執行します。……抵抗する者は、物理的にリストラさせていただきますので悪しからず」
史上最悪の訪問者たちが、今、地獄の蓋を開けた。
◇◇◇
「ひ、ひぃぃッ! 化け物だ! こいつら人間じゃねぇ!」
アジト内部は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「遅い!」
ガランドの戦鎚が一閃。
武装したオークのガードマンたちが、ボーリングのピンのように宙を舞う。
壁に激突し、動かなくなる。
「次!」
アレクセイが駆け抜ける。
剣閃は見えない。彼が通り過ぎた後、敵の武器が砕け、鎧が両断され、全員がその場に崩れ落ちる。
圧倒的だ。
伝説の師弟コンビ。その破壊力は、台風と地震が同時に襲ってきたようなもの。
『黒い牙』の精鋭部隊も、彼らの前では赤子同然だった。
だが、この二人の恐ろしさは、単なる破壊力だけではない。
「そこだ、アレクセイ! 右の死角!」
「分かっています!」
アレクセイが右へ剣を振るう。
ガランドが左の敵を粉砕する。
互いの背中を守り、攻撃範囲を補い合う完璧な連携(コンビネーション)。
長年の師弟関係で培われた阿吽の呼吸が、戦場を支配していた。
そして――。
「逃げるぞ! 裏口から……ぐあっ!?」
混乱に乗じて逃げようとした幹部の一人が、突然、自分の影に足を掴まれて転倒した。
「おっと。退勤時間はまだですよ?」
影の中から俺が姿を現し、幹部の首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。
俺の役割は、この二人が暴れまわる戦場の「穴」を埋めること。
逃走経路の封鎖、不意打ちの無効化、そして人質の捜索。
「エリアB、制圧完了。次は地下二階です」
「よし、行くぞ!」
俺のナビゲートに従い、破壊神たちが進撃する。
正面突破の師弟と、影からサポートするマネージャー。
俺たちは、まるで一つの生き物のようにアジトを蹂躙していった。
◇◇◇
最深部、ギルドマスターの部屋。
重厚な扉をガランドが蹴破ると、そこには追い詰められた男――『黒い牙』の頭と、魔法の檻に閉じ込められたリュウがいた。
「く、来るな! 来たらこいつを殺すぞ!」
頭は震える手で短剣を持ち、リュウの首元に突きつけた。
リュウは檻の中で小さく丸まり、震えている。
その瞳には涙が溜まっていた。
「リュウ!」
アレクセイが叫ぶ。
しかし、距離がある。ここで下手に動けば、リュウが傷つく。
「ははは! 勇者ともあろうものが、ガキ一匹のために動けないとはな!」
頭が卑下た笑みを浮かべる。
典型的な小悪党だ。
だが、その手にある短剣には、毒が塗られているのが見えた。かすっただけでも危ない。
「師匠、どうしますか」
「……隙がない。あの距離では、わしらが動くより先に刃が届く」
ガランドが歯噛みする。
アレクセイも剣を握る手に力が入りすぎて、血管が浮き出ている。
膠着状態。
(……やるしかないか)
俺は二人の背後で、静かに呼吸を整えた。
正面からの速度勝負では間に合わない。
なら、影だ。
だが、頭の足元の影には、強力な照明魔法が当てられており、影渡りができないよう対策されている。
小賢しいことだけは一人前だ。
ならば――視線誘導(ミスディレクション)しかない。
「おい、そこの三下」
俺はアレクセイの影から一歩前に出た。
武器を捨て、両手を挙げて。
「交渉(ディール)といきましょう。その幼体を解放すれば、あなたたちの命は見逃します」
「あぁ? 何を寝言を……たかがウサギ風情が、勇者の代わりに交渉だと?」
頭が俺を見て鼻で笑う。
そう、その油断だ。
俺は「弱そう」に見える。勇者と伝説の師匠に比べれば、ただの従魔に見える。
それが、俺の最大の武器だ。
「俺はただのウサギじゃありませんよ。このパーティーの『財布』を握っているマネージャーです」
俺は懐に手を入れた。
「いくら欲しいですか? 金貨一万枚でどうですか?」
「い、一万!?」
ボスの目が金欲に眩む。
視線が、リュウから俺の手元へとわずかに移った。
――今だ。
俺は懐から金貨ではなく、閃光弾(フラッシュバン)を取り出し、地面に叩きつけた。
カッッッ!!!!
「うぐぁっ!?」
強烈な光が部屋を埋め尽くす。
頭が目を覆う。
照明魔法の効果が一瞬かき消され、部屋中に濃い「影」が生まれた。
「影渡り(シャドウ・ダイブ)!」
俺はその影に飛び込み、瞬時にボスの背後――檻の真横へと移動した。
「確保!」
俺は檻の鍵穴に影を流し込み、内部から破壊。
扉を開け放ち、リュウを抱きかかえる。
「なッ……貴様ぁッ!!」
目が眩んだまま、頭がめちゃくちゃに短剣を振り回す。
切っ先が、俺の背中に迫る。
「マッマ!」
リュウが叫んだ。
俺はリュウを庇うように背中を向けた。
避けられない。でも、リュウだけは守る。
最悪、俺が刺されても、その隙にアレクセイたちが――。
その時。
俺の腕の中で、リュウがカッと目を見開いた。
ドクンッ!!
膨大な魔力が膨れ上がる。
赤子の癇癪ではない。
「ママを守る」という明確な意志を持った、力の奔流。
「ガァァァァッ!!」
リュウが口を大きく開けた。
放たれたのは、いつもの無差別な雷撃ではない。
収束され、狙いを定めた、一本の白い光線。
――『聖竜の咆哮(ホーリー・ブレス)』!!
ズドォォォン!!
光の柱が、俺の背中を通り越し、迫りくる頭を直撃した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁッ!?」
ボスが吹き飛び、壁に激突する。
俺は……無傷だった。
至近距離で放たれたブレスなのに、俺には熱さも衝撃も感じない。
リュウが、俺を避けて撃ったのだ。
「……リュウ?」
俺がおそるおそる腕の中を見ると、リュウは「エッヘン!」と胸を張っていた。
「マッマ! まもった! リュウつよい!」
「……っ!」
俺は思わずリュウを抱きしめた。
成長したな。
俺の服を焦がしてばかりいたこの子が、俺を守るために力を制御したんだ。
「よくやった! 偉いぞリュウ!」
俺が褒め称えていると、壁にめり込んだ頭が、ふらふらと立ち上がろうとしていた。
しぶとい。まだ息がある。
「くそっ……化け物どもめ……覚えてろ……」
ボスが逃げようとした、その行く手を、二つの巨大な影が塞いだ。
「逃がすと思うか?」
「俺の家族に手を出して、タダで帰れると思うなよ」
ガランドとアレクセイ。
二人は鬼のような笑みを浮かべていた。
ブチギレている。完全にリミッターが外れている。
「ま、待て! 話せば分か――」
「「問答無用!!」」
ガランドの戦鎚と、アレクセイの聖剣が同時に振り下ろされた。
――ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!
アジト全体が揺れるほどの衝撃。
頭の姿は、光の中に消え去った。
オーバーキルもいいところだ。
◇◇◇
静寂が戻った部屋で、俺たちは瓦礫の上に立ち尽くしていた。
「……やりすぎですよ、二人とも」
俺が呆れて言うと、ガランドは「ふん」と鼻を鳴らした。
「わしの孫を泣かせた報いじゃ。これでも足りんわ」
「同感です。……無事でよかった、リュウ」
アレクセイが剣を収め、俺たちの元へ歩み寄ってくる。
リュウは俺の腕から飛び出し、パタパタと翼を羽ばたかせて(まだ飛べないが)アレクセイの足元へ駆け寄った。
「パパ! リュウ、やった! ドカーンって!」
リュウが得意げに報告する。
アレクセイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑み、リュウを高く抱き上げた。
「ああ、見ていたぞ。……強くなったな、リュウ」
パパ。
リュウが初めて、何の敵意なくアレクセイをそう呼んだ。
そしてアレクセイも、リュウを一人の「戦士」として、そして「息子」として認めた目をしてた。
「じっじも!」
リュウがガランドに手を伸ばす。
ガランドは相好を崩し、「おお、よしよし!」とリュウを受け取って頬擦りした。
「まったく、肝が冷えたわい。……だが、よく頑張ったな」
三人が笑い合う光景。
そこには、種族も血縁も超えた、確かな「家族」の絆があった。
「……やれやれ」
俺はそれを見て、肩の荷が降りた気がした。
これで一件落着だ。
すると、ガランドがふとこちらを向いた。
「ノワールよ」
師匠が、初めて俺の名前を呼んだ。
「黒ウサギ」でも「雑魚」でもなく。
「今回の作戦……見事じゃった。お前がいなければ、リュウは傷ついていたかもしれん」
ガランドはリュウをアレクセイに渡し、俺の前に立って、その太い腕を差し出した。
「お前は強い。剣の腕ではない。その『覚悟』と『知恵』がな。……アレクセイの背中を、任せられるとな」
握手。
俺はおずおずと、その巨大な手を握り返した。
ゴツゴツして、温かい手。
「ありがとうございます……ガランド様」
俺がそう呼ぶと、ガランドは照れくさそうに鼻をかいた。
「ふん。まあ、アレクセイの嫁としては合格点をやろう。……ただし!」
彼はニヤリと笑った。
「これからも抜き打ち監査には来るからな? 孫の顔を見にな!」
「えぇ~……まだ来るんですか……」
俺は悲鳴を上げたが、その顔は自然と笑っていた。
こうして、史上最強の誘拐事件は幕を閉じた。
俺たちは傷だらけになりながらも、以前よりも強く結びついた「家族」として、朝日が昇る地上へと帰還したのだった。
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