【完結済】ざまぁされて廃嫡されたバカ王子とは俺のことです。

キノア9g

文字の大きさ
5 / 8

第5話:冷たい視線 (レオナード視点)

しおりを挟む

 カイルと再会して数日が経った。

 最初は王宮を追われた彼がこの街でまともに生活できるのか不安だったが、どうやらそれなりに馴染み始めているようだった。

 ギルドでは低報酬の雑用依頼ばかりを受けているが、それでも彼は真面目に働いている。以前の怠慢で傲慢だったカイルとはまるで別人のようだ。

 ──だが、今日は少し様子がおかしかった。

 ギルドの扉を開けると、カイルが受付で依頼を確認しているのが見えた。しかし、その背後で数人の冒険者たちがひそひそと話している。

「……元王子様だろ? 何やらかしたのか知らねぇが、そんな奴がここで冒険者なんてな」

「それだけならいいけど、どうもセシリア嬢をひどい目に遭わせたって話だ。婚約者を騙して捨てたってな」

「……マジかよ」

 私の眉がぴくりと動く。

 カイルはその会話に気づいていないふりをしていた。聞こえているはずなのに、ただ依頼書を睨みつけるように見つめている。

 この話を広めたのが誰か、考えるまでもなかった。

 ──リリィ=オルブライト。

 彼女がカイルに対して良からぬ感情を抱いていることは、薄々感じていた。彼の廃嫡後、リリィも社交界から姿を消し、国外に「療養」と称して送られていると聞いた。しかし、彼女はそれを受け入れられず、カイルのせいだと恨みを募らせているのだろう。

 その結果がこれか。

 カイルに対する悪評が、じわじわとこの街に広まり始めている。

 直接攻撃を仕掛けるわけではない。だが、噂は人の心を蝕む。

 ギルドの空気が少しずつ冷たくなり始めているのが分かった。

 カイルは依頼書を持って受付へ歩いていく。いつもなら受付嬢は親しげに対応するのに、今日は微妙な間があった。

「……ああ、これね。じゃあ、受注手続きするわ」

「……ああ、頼む」

 カイルの返事はいつもより淡々としている。彼も気づいているのだろう。

 だが、それをどうすることもできない。

 

 ギルドを出た後、私はカイルを昼食に誘った。

「なんだか元気がないな」

「……そんなことはない」

「そうか?」

 カイルは食事をしながら、どこか考え込むような表情をしていた。

「……なあ、レオナード」

「うん?」

「俺って……何なんだろうな」

「……」

「王子として生きてきて、何もかも失って、ここでやり直そうとして……でも、結局どこに行っても、俺は“元王子”なんだよな」

 彼の言葉は静かだったが、その奥にある不安は痛いほど伝わってきた。

「誰も俺を直接責めたりはしない。けど、目線とか、態度とか……そういうのが、前とは少しずつ違ってくるのが分かるんだ」

 カイルは顔を伏せ、ため息をついた。

「……もしかして、俺はここでも長くはいられないのかもしれないな」

「そんなことはない」

 私は即座に否定した。

「君はここで頑張ってる。誰が何を言おうと、それが真実だ」

「……」

「それに、私がいる」

 カイルの目がわずかに揺れた。

「君は一人じゃない」

 その言葉が、どれほど彼を救えるのかは分からない。

 だが、私はこのままカイルを独りにさせるつもりはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

処理中です...