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第5話:冷たい視線 (レオナード視点)
しおりを挟むカイルと再会して数日が経った。
最初は王宮を追われた彼がこの街でまともに生活できるのか不安だったが、どうやらそれなりに馴染み始めているようだった。
ギルドでは低報酬の雑用依頼ばかりを受けているが、それでも彼は真面目に働いている。以前の怠慢で傲慢だったカイルとはまるで別人のようだ。
──だが、今日は少し様子がおかしかった。
ギルドの扉を開けると、カイルが受付で依頼を確認しているのが見えた。しかし、その背後で数人の冒険者たちがひそひそと話している。
「……元王子様だろ? 何やらかしたのか知らねぇが、そんな奴がここで冒険者なんてな」
「それだけならいいけど、どうもセシリア嬢をひどい目に遭わせたって話だ。婚約者を騙して捨てたってな」
「……マジかよ」
私の眉がぴくりと動く。
カイルはその会話に気づいていないふりをしていた。聞こえているはずなのに、ただ依頼書を睨みつけるように見つめている。
この話を広めたのが誰か、考えるまでもなかった。
──リリィ=オルブライト。
彼女がカイルに対して良からぬ感情を抱いていることは、薄々感じていた。彼の廃嫡後、リリィも社交界から姿を消し、国外に「療養」と称して送られていると聞いた。しかし、彼女はそれを受け入れられず、カイルのせいだと恨みを募らせているのだろう。
その結果がこれか。
カイルに対する悪評が、じわじわとこの街に広まり始めている。
直接攻撃を仕掛けるわけではない。だが、噂は人の心を蝕む。
ギルドの空気が少しずつ冷たくなり始めているのが分かった。
カイルは依頼書を持って受付へ歩いていく。いつもなら受付嬢は親しげに対応するのに、今日は微妙な間があった。
「……ああ、これね。じゃあ、受注手続きするわ」
「……ああ、頼む」
カイルの返事はいつもより淡々としている。彼も気づいているのだろう。
だが、それをどうすることもできない。
ギルドを出た後、私はカイルを昼食に誘った。
「なんだか元気がないな」
「……そんなことはない」
「そうか?」
カイルは食事をしながら、どこか考え込むような表情をしていた。
「……なあ、レオナード」
「うん?」
「俺って……何なんだろうな」
「……」
「王子として生きてきて、何もかも失って、ここでやり直そうとして……でも、結局どこに行っても、俺は“元王子”なんだよな」
彼の言葉は静かだったが、その奥にある不安は痛いほど伝わってきた。
「誰も俺を直接責めたりはしない。けど、目線とか、態度とか……そういうのが、前とは少しずつ違ってくるのが分かるんだ」
カイルは顔を伏せ、ため息をついた。
「……もしかして、俺はここでも長くはいられないのかもしれないな」
「そんなことはない」
私は即座に否定した。
「君はここで頑張ってる。誰が何を言おうと、それが真実だ」
「……」
「それに、私がいる」
カイルの目がわずかに揺れた。
「君は一人じゃない」
その言葉が、どれほど彼を救えるのかは分からない。
だが、私はこのままカイルを独りにさせるつもりはなかった。
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