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第6話:孤独の痛み
しおりを挟むギルドの空気が、確実に変わり始めていた。
初めはただの噂だった。俺が王族だったこと、婚約破棄されたこと、廃嫡された理由。それらが歪められ、まるで俺がすべての元凶であるかのように語られている。
──リリィの仕業だろう。
証拠はないが、彼女が動いたとしか思えない。
そして、噂が広まるにつれて、人々の態度が少しずつ変化していった。
今日、俺は少し大きな依頼を受けることになった。簡単な討伐依頼だったが、一人では厳しい内容だったため、他の冒険者と組むことになっていた。
だが──
「……なあ、俺たち、パーティ編成見直さねえか?」
「そうだな。わざわざ“バカ王子”と組む必要はないし」
「おい、ちょっと待て」
俺が口を挟もうとした瞬間、そいつらは俺を無視し、受付嬢に別の編成を要求した。
「このパーティ、俺抜きで行くつもりか?」
「いやいや、悪いけどさ。王族様だったあんたと一緒にやるのはちょっと……。何か問題起こされても困るしな」
「……問題なんて起こさない」
「ふーん、そうか。でもさ、噂って怖いよな。セシリア嬢を騙して、リリィ様まで巻き込んで、結局廃嫡されたって聞いたけど?」
「……それは」
「俺たちはまともに稼ぎたいだけだからさ。トラブルの種とは関わりたくないんだよ」
心臓がぎゅっと締め付けられた。
一人、また一人と、俺を避ける者が増えていく。
昨日までは普通に話していたのに、今は目すら合わせない。
俺が冒険者としてどれだけ真剣にやっていても、過去はついてくる。
「……くそっ」
俺はその場を離れた。
ギルドを出ると、冷たい風が頬を撫でる。昼間なのに妙に寒く感じた。
──また、こうなるのか。
王宮にいた頃も、似たようなことがあった。
俺は自信過剰で、周囲を見下していた。だから当然の報いだと分かっている。
でも、今は違う。
過去の自分を反省し、一からやり直そうとしている。
なのに、どれだけ努力しても、結局俺は「過去のカイル」から抜け出せないのか?
「……」
胸の奥がズキズキと痛む。
ここでもダメなら、俺はいったいどこへ行けばいい?
「カイル!」
突然、名前を呼ばれた。
顔を上げると、レオナードがこちらへ歩いてくる。
「どうした?」
「……別に」
「……その顔で“別に”は無理があるな」
レオナードは俺の目をじっと見つめた。
「ギルドで何があった?」
「……何も」
言いたくなかった。いや、言えなかった。
俺は弱音を吐くのが怖かった。
今ここで「辛い」と言えば、また誰かに見放されるような気がした。
「……」
レオナードはしばらく俺を見つめていたが、ふっと溜め息をついた。
そして、俺の腕を引く。
「おい、何──」
「食事に行こう」
「……え?」
「君、お腹減ってるだろ?」
「いや、そんな──」
「強がるな。私が奢るから」
「……っ」
反論しようとしたが、声が出なかった。
レオナードの手は温かかった。
ギルドで感じた冷たい視線とは正反対で、俺を包み込むような優しさがあった。
「……悪い」
「謝るな」
「……」
レオナードの隣を歩きながら、俺は自分の心が少しだけ軽くなっていくのを感じていた。
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